第22話 かふうメディカルセンター

【西暦20××年4月8日15時15分】

 嘉手納基地を飛び立った一行は、予定通り本島を一周し瓦の反応を見る事にした。嘉手納基地は、島の中部に位置している。

基地から最初南部を回り、その足で折り返し北部を回る行程である。

飛び立って間もなく、早速瓦が反応した。

青い光りが、紫となり更に赤い光りへと変わっていった。

南の方向に行くに従って、それが顕著に表れた。

明らかに、瓦が反応している。

沖縄の中心地である那覇、その先の糸満と飛行するが、瓦の光りは逆に元の青色に戻っていった。

更に、折り返し嘉手納基地の周辺を飛行し、瓦が最大で反応する場所を確認した後、念の為その先の北部も飛行してみた。

結果は、同じだった。

北部に行っても、瓦は反応しなかった。

アイゼンハワーは、瓦が赤い炎の光りを点滅させ、もっとも反応する付近でオスプレイが着陸できる場所を捜した。

「長澤、一番瓦が反応しているこのスポットで着陸できる所なのだが、あそこに見えるグランドが最適じゃないか? 見えるかい?」

アイゼンハワーは、長澤捜査官に向かって爆音の中、ある1点を指さした。

嘉手納基地から飛び立ってすぐ普天間基地があるが、その先の丘の上に国立大学がある。

そして、その手前に病院があり道路を挟んでグランドがあった。

丁度、着陸するのに手頃の大きさだった。

それを確認した長澤は、県庁を通し沖縄県警に頼み、その近くのパトカーを現場に行ってもらうよう要請した。

着陸するグランドの安全確保のためだ。

また、明らかに病院上空での瓦の反応が大きい事から使者が病院内、あるいは付近に存在する確率が高いと思われた。

その為、直接NSCに連絡し、病院に入る許可を事前に取ってもらうよう要請した。暫くすると、パトカーがけたたましいサイレンを鳴らしながらグランド周辺を取り囲む。

その真向かいにある病院、そして周りの住民は騒然とした。

グランドの持ち主は、『かふうメディカルセンター』と看板に書かれた病院だった。慢性期医療を主に扱う、沖縄では中堅を担う300床クラスの病院である。

時間は、平日の15時を過ぎており既に診察時間は終わっていたが、この日病院の院長である比嘉は外来診療を行っていた。

「やけに外が騒々しい。救急車のサイレンではないな。なんかあったのかい?」

比嘉は、受付の看護師に聞くが要を得ない。

そのとき、1本の外線電話が院長宛にかかってきた。

「先生、電話が入っています。どうされますか?」

先ほどの受付看護師が、コードレスの受話器を持って聞いてきた。

「今、診療中だ。後にしてくれと言ってくれ」

そう、比嘉は断りを入れるよう指示した。

その後、看護師は断りの連絡をしていたようだがいっこうに切る気配がない。

「先生、先方が緊急でつないでくれと言っています!」

「忙しいのだ、急患か? どこからなのだ!」

すると、すかさず看護師が言った。

「東京の佐藤内閣総理大臣からです!」

「なにい! まさかあ・・・」

半信半疑の比嘉は、受話器を取った。

紛れもなく、首相からだった。

「もしもし、お忙しい所申し訳ありません、院長。私は、首相の佐藤です。突然ですが、お願いがあるのです。お宅の前にあるグランドに、事情あって今からオスプレイを降ろします。緊急事態です、了承ください。それと、アメリカ合衆国の要請で、院内に今からアメリカ軍の兵士が入ると思います。ある人物を捜すためです。もう、大方ご存じだと思いますが、昨今の異常現象を解決する手段に繋がる事です。どうか、ご協力をお願いします!」

佐藤はそう言い、比嘉院長に首相として自ら電話で頼んだ。

NSCから依頼された政府も、事の重大さに切羽詰まっての事であった。

比嘉は、びっくりした。

それと同時に、噂でささやかれていた月が落ちてくるという事態が噂ではない事を実感した。

「首相、これはお願いというよりも命令と受け取って良いですね?」

佐藤首相は、重みのある声で答えた。

「はい、どうか事態を察し下さい、院長!」

そう首相より切望され、比嘉は頷きながら言った。

「状況はわかりました。万全を持って米軍に協力します」

比嘉院長は、忸怩たる思いで電話を切った。

そして、事務所に行き自ら全館に緊急事態の放送を行った。

「もしもし・・・ 本日は晴天なり・・・ 緊急連絡です。ただいまよりこの病院は、日本政府の要請によりアメリカ軍によって一時占拠されます。患者、職員の皆さん、慌てずその場に待機下さい。兵士が皆さん方の前に現れるかもしれませんが、危害は加えません。なお、具合が悪く緊急に処置が必要な場合はその限りではありません。遠慮無く、近くの職員にお伝え下さい。以上!」

その後、比嘉院長は幹部と一緒にアメリカ軍を迎えに玄関へと向かった。


「なんか、今日は外が騒がしいな。奥間ちゃん、サイレンの音がいっぱいしているけど、うちの病院かな?」

この病院の地域医療連携室長の麓大河は、同じ部屋にいる20代の若い女性ソーシャルワーカー、奥間ひとみに聞いた。

この病院の1階奥に売店があり、その手前に大河らが勤める地域医療連携室がある。最近の病院は、診療部門とは別に必ず他病院との連携をスムーズにするための部門を設けている。

大河は、そこで部門長をしている。

年齢は、42歳で、見るからにあまりさえない中肉中背の独身男である。

沖縄出身ではないが、転勤でここに勤めている。

「室長、今日の予定にそんな救急車の乗り入れは聞いていません」

大河がひとみとそんなやりとりをしていると、院長の緊急放送が流れた。

と同時に、道路の前のグランドにヘリコプターのけたたましいローター音がうなり始めた。

見ると、米軍のオスプレイが降りてきているではないか。

大河が叫んだ。

「奥間ちゃん、どうなっているんだ。なにやら、やばいぞ!」

大河は、この事態に面食らったが、なぜか不思議と恐怖は感じなかった。

オスプレイが完全に着陸すると、中から大勢の武装した兵士が出てきた。

そして、その後からネイビー服を着た司令官風の大男と民間人とおぼしき男女5~6人降りてくるのが見えた。

まるで、映画のワンシーンを見ているようだった。

「奥間ちゃん、あいつらこっちに来るよ。何しに来るのだろう?」

大河は、その情景を見てのんびりと言った。

「室長、オスプレイ自体ここの上空を飛ぶのは何回も見ているけど、こんな間近で見るのは初めてよ。やっぱり、国連で発表された自然現象と関係あるのですかね? 例の、地球に月が落ちてくるって言う、あれですよ」

ひとみも大河に吊られ、のんびりと言った。

国連で発表されたのは、月の満ち潮が不安定である原因が何百年に一回ある突発的な現象で時期解決されるとの事だった。

しかし、マスコミはすかさず事の成り行きをかぎつけ、事しめやかに噂のレベルではあったが月の落下についての情報を流していた。

「院長の緊急放送では待機命令だから、とにかくおとなしくしとこう。なあ、奥間ちゃん」

「ええ、そうですね、室長」

そう言って、2人は部屋で待機した。


ソフィアら一行は、武装した兵士を引き連れグランドに降り立ったオスプレイから病院の玄関へと向かった。

途中、沖縄県警のパトカーが十数台集合しており、辺りは物々しい雰囲気となった。瓦の光りは、地上に着くなりオレンジ色から赤色へと変化し、病院に入ると軽く点滅を始めた。

「こりゃ、いよいよこの中に使者がいそうだ!」

アイゼンハワーは、喜び叫んだ。

玄関口で、一行は院長に会って事の説明を簡単に始めた。

「日本の首相から、あなた方を受け入れてくれとの要請があり、大体は了解しています。この病院の中に、あなた達が求める者がいるのですね。早速、捜索しましょう。病院を案内するので、指示して下さい!」

比嘉院長は、たどたどしい英語で一行にそう伝えた。

「ありがとうございます、院長。ご迷惑かけますが、事が事なだけによろしくお願いします」

院長にそう言うと、ソフィアは瓦を右や左に向け、点滅が早くなる方向へみんなと一緒に進んだ。

どうやら、病院奥の方に行くに従い、瓦の光りの点滅が早くなっている。

「こっちだな」

ダスティンが、先頭を切って進んでいく。

病院の外れの方に売店が見える。

その手前の部屋で、瓦が激しく点滅しピークとなった。

部屋は、地域医療連携室と書かれている。

ソフィアは、瓦を持ってドアを開けた。

その瞬間、ソフィア、そして、ダスティンの2人は同時にホワイトアウトが始まりしゃがみ込んだ。

「あの時と同じ!」

2人は叫んだ。

そして、2人の目の前に1人の日本人がいた。

彼も、やはりしゃがみ込んでいる。

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