第20話 VC25
6.東洋の孤島の導きし使者(西暦20××年4月7日~8日)
【西暦20××年4月7日11時35分】
ソフィア達4人は、ペンタゴンよりヘリでNSAに戻った。
着くと、ソフィア、サンドラ、ジョセフはNSAにある職場のPCや仕事用グッズを当分の間使わないので片付けた。
そして、ホワイトハウスより用意してもらった運転手付きの車で自宅に戻り、旅に向け身支度をした。
ダスティンは、元々ニューヨークで休暇を取り何日か滞在するつもりだったので旅の準備はできており、3人が準備する間NSAで待機した。
昼前、準備を終え戻ってきた3人とダスティンは、待たせていたヘリで同じメリーランド州にあるアンドルーズ空軍基地へと向かった。
またアーネストは、4人をサポートするため司令塔としてNSAに残る事となった。4人がいよいよNSAを出発する時、アーネストは皆の前で親が子に見せるような優しい気持ちで見送った。
「ソフィー、みんな、道中くれぐれも気をつけるのだぞ。そして、頼んだぞ! 地球の運命は、君達の肩にかかっている。沖縄に着いたら、事の成り行きを随時、私と大統領に連絡してくれ。それから、ソフィー、両親には私から説明しておくから安心して行っておいで。それじゃあ、諸君、成功を祈っているぞ!」
ソフィア達は、アーネストの言葉に感激し、皆で手を振った。
基地に着くと、もう既にホワイトハウスから連絡が入っており、VC25がいつでも飛び立てる状態でスタンバイされていた。
4人は、着くとすぐタラップに案内され、搭乗が済むと機は離陸し沖縄へと出発した。
時間は、13時を過ぎていた。
「まさか、人生の中でこの飛行機に乗れるとは思っていなかったわ」
ソフィアは、そう言って子供のようにはしゃいだ。
「ソフィー、あなたは今から『伝えし使者』として『導きし使者』、そしてダスティンだけじゃない『操りし使者』を見つけなければならない使命があるの。アメリカ、いや、地球を背負って立たなければならないのよ。大統領も言っていたわ、あなたの肩に皆の運命がかかっている。この機だけじゃなく、この国が持っているすべての機能をあなたは今から使っていかなければならない」
サンドラは、浮ついているソフィアに向かって鼓舞した。
「わかっているわ、サンディー。武者震いするー」
男どもは2人とも、心地いいファーストクラスの座席で着席するなり眠り込んでいる。
サンドラは、それを見て言った。
「いい気なものね、お二人さん。ソフィー、あなたはこれからマネジメント力が試されるわ。この2人のように安らかに眠る前、あちらに着いてからの最低限の段取りはしておいてね」
それを聞いたソフィアは答えた。
「了解、サンディー。嘉手納に着いてからは、早速導きし使者を捜さなくてはね。ところで、沖縄ってどういうとこ?」
すると、サンドラはどこから持ってきたのか、沖縄の観光ガイドブックをソフィアに渡した。
どうやら、ジョセフが沖縄を旅行した時のものらしい。
「これで、勉強してね。それじゃ、私も一眠りするわ。お休みー」
そう言うと、毛布をかぶってサンドラも眠りについた。
これから、約半日かかる旅である。
「もう、3人とも・・・ いいわ、確かにここで私は踏ん張らなくちゃね」
そう呟くと、これからベースとなる嘉手納基地へ連絡を取り、着いたら早速捜索が出来るようヘリのチャーターを準備させた。
ソフィアの事は、今アメリカ全軍に名前が知られ、いかなる事も協力するよう命令が出ていた。
そのため、顔パスならぬ名前パスで仕事を依頼する事が出来た。
また、大統領がペンタゴンでの会議後すぐ日本政府に働きかけてくれたおかげで、日本のNSCから職員を沖縄に派遣してくれる事になった。
通訳も兼ねており、嘉手納で待機している段取りとなっている。
とにかく、後は向こうに着いてから考えよう、それまで少し眠ろうと思った。
しかし、いろんな思いが巡り巡って眠れない。
しょうがないので、先ほどサンドラから貸してもらった沖縄のガイドブックを開いてみた。
実に景色が美しい島である。
文化も特異的で、日本とは違うように思った。
「綺麗なお城だわ。このお城、首里城っていうのね」
ソフィアは、夜にライトアップされた城の写真を見て呟いた。
そうしているうち、ソフィアも眠りについた。
・説得
【西暦20××年4月7日9時08分】
ソフィア等と分かれた後、ウイルソンは国連に着くと早速至急で国連安保理の開催を要請した。
各国の長は、いつでも動けるようニューヨークで待機していたため会議はすぐ行われた。
イーサンは、ペンタゴンの会議室で起こった出来事をビデオに編集させ国連へと送った。
会議は、9時から始まった。
今朝方ペンタゴンで撮られたビデオに映ったソフィア達と瓦、そこから流れるホログラムによる映像を会議で流した。
瓦は、先祖代々から受け継ぐものであり、そしてホログラムは今現実に起こっている事とリンクしている事。
更に、この危機を回避する唯一の方法がインディアンに代々受け継がれた『物語』を実行していくしかない事。
それを、マークとハミルトンに詳しく説明させた。
ひとしきりマークらの説明が終わった後、ウイルソンは会議場の皆に力を入れて話した。
「皆さん、今説明した事は、正直言って私も未だ信じられない所が多々あります。しかし、もう、今は信じるしかないのです。ビデオを見た限り、確かにうさんくさい所があります。ただ、ここにきて、嘘を言う必要はありませんし、言っても私の得にはなにもなりません。この『物語』は、誰が仕組んだかわかりませんが事実です。暫くすると、恐らく我々スタッフの働きにより、月の動きを回避するための現実が見えてくるでしょう。ただ、それを待っていてははっきり言って遅い。この事態を回避する為に、全世界が彼らの『物語』をバックアップしてもらえないでしょうか? もう一度言います、外に打つ手はありません。重ねて言います。皆さん方の協力が是非とも必要なのです」
ウイルソンは、安保理で熱弁した。
それを聞いた、イギリスのアドルフ首相が言った。
「デイビス大統領。確かに、今聞いた話はにわかに信じがたい事だ。だが、おっしゃるとおり、外に打つ手はなさそうです。我が国も人事を尽くしているのですが、解決方法が見あたらない。どうです、皆さん。言い方は悪いが、ここはアメリカ大統領に騙されたと思って協力してはどうでしょう?」
すると、ロシアのクリメント大統領がその意見に追従し言った。
「マクファーソン首相、実は我が国で富裕層の馬鹿者達がロケットをチャーターし地球脱出を企んでいると聞く。我ながら、こんな時に何という奴らだと情けなく思っていた所です。しかし、事態はそんな状況だ。もう、皆知っているのだ。どうにもならない事を。そんな時、一筋の光りをアメリカ合衆国大統領がもたらしてくれた。ここは、大船に乗ったつもりで協力するしか無かろう。なあ、ベルモンド大統領、陸主席、どうですか?」
フランス大統領、中国国家主席共に即座に承諾した。
「これで決定だ! では、各国連大使に『物語』の説明を国連事務総長よりしてもらい、全世界協力体制で望む事を約束してもらおう。皆さん、ありがとう。必ずや地球を救いましょう!」
安保理の議長国であるクレメントが、会議をそう括った。
議会は、満場の拍手で埋まった。
それを見たウイルソンは、内心ほっとした。
安保理を説得できなければ、我が国だけでやらねばならない。
それこそ、不可能に近かった。
「良かった、これで彼らを助ける事が出来る。後は、彼らの活躍を見守るしかないな」
ウイルソンは、側にいたイーサンに呟いた。
「大統領、良くやりました。あのお言葉がなければ、皆は一つにならなかったでしょう。後は、頑張って彼らを精一杯応援しましょう」
イーサンは、ウイルソンを称えた。
そして、ウイルソンは笑みを浮かべながら言った。
「そうだな、イーサン。彼ら、そろそろ沖縄に着く頃だな。うまくやってくれるかな?」
イーサンは、力強く言った。
「成功してもらわなきゃ困るのです、大統領!」
「そうだ、そうだ。そうならなくては!」
ウイルソンは、まるで自分に言い聞かせるようにイーサンに向かって高らかに喋った。
それを聞いたヴィクターが、続けてウイルソンに要請した。
「大統領、次はアメリカに希望を発信して下さい。NASAによると、もう沿岸部では潮の満ち引きでかなり被害が出ているようです。国民は、まだ多くを知らないようですが、かなり不安がっています。ホワイトハウスに戻られて、『物語』の事、それに基づき国連で説得された事を国民の前で説明してください。この状況にデマも多く、暴動もちらほら発生していると聞いています」
すかさず、ウイルソンは答えた。
「わかった、ヴィクター。今から、ホワイトハウスに至急戻ろう。そして、早速会見しよう。準備を頼む。また、防災関連の法律も発令し、効率的速やかに沿岸部の住民を避難させるのだ。イーサン、軍も全面的に協力するよう指示してもらいたい」
ウイルソンは、てきぱきとこの2人に指示した。
そして、イーサンはペンタゴンへ、ウイルソン以下はホワイトハウスに向かった。
時間は、もう既に夕方となっていた。
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