第19話 沖縄へ
「サンドラ=イシハラ、君がここで今起こした事は軍法裁判ものだ。わかっているかね?」
ウイルソンは、重たい口調で言った。
シークレットサービスから手を後ろに回され、テーブルに顔をねじ伏せられた状態でサンドラは答えた。
「え、ええ! 大統領、わかっています。それを承知でやりました。申し訳ありません」
ウイルソンは、シークレットサービスにサンドラを解放するよう指示した。
「サンドラ、君の行動で私の心は決まった。ありがとう。私は、この『物語』を信用し今の破滅的状況を打破しようと思う。みな、賛成してくれるか?」
イーサンが、誇らしげに言った。
「私も、今までの君らの説明にいささか不安があったが、こんなもん目の前で見せられたら信じるしかないわ。ところでコスナー君、大丈夫か?」
ダスティンは、頭を振りながら言った。
「いつもの事ですよ、全く・・・」
「ごめんなさい、ダスティン。二度もひどい目に遭わせて」
サンドラは、ダスティンの顔に手を持っていき謝った。
「この借りは、いつか返してもらうからな、サンディー。だが、P229をどこで手に入れた? 手荷物検査で、銃は没収されたはずだが」
すると、サンドラはすかさずシークレットサービスの1人に手を合わせた。
「ごめんなさい、この人を責めないで。会議に、デモで使わせてくれと頼んだの。勿論、銃弾抜きで」
シークレットサービスが、冷や汗を流しながらずれたサングラスを直した。
「じゃあ、今使われた銃弾はどこから?」
ハミルトンが尋ねた。
すると、すかさずサンドラが瓦を指さした。
「ああ!」
ジョセフが、なるほどと手を打ち叫んだ。
「瓦の下に貼り付けたんだ、銃弾を。瓦が隠れ蓑になって、セキュリティーをすり抜けた。という事は、この事態を予想しすべてを計画したのだね、サンディー。さすが、お見事!」
それを聞いたアーネストは、やれやれといった風で話し始めた。
「大統領、私の所の職員が大変な事をしでかし申し訳ありません。許してください。一生懸命説得するよう指示したのは、この私です。今の状況がもし解決したら、その時は罰を受けます。彼らは、この『物語』を成就させるのに欠かせないメンバーです。どうか、私に免じこれから物語のため働かせて下さい」
ウイルソンは、大きな声で言った。
「何を言うのだ、副長官。このアメリカ、いや、世界を救うのは今となっては君達しかいない。こちらからお願いするのが筋だ」
そして、イーサンに向かって言った。
「この会議室での経緯はすべてビデオに撮られているのだろう、イーサン?」
イーサンが、すかさず答えた。
「はい、大統領。すべて、あらゆる方向から記録してあります」
それを確認すると、ウイルソンはみんなに言った。
「良かった。国連には、この会議室の様子を持って説得し、全世界へ『物語』を遂行するための協力をするよう働きかける。どうせ、今の状況じゃ、なにも解決策は出て込んじゃろう。世界も、これに自ずと賭けるしかないはずだ。物語が進んでいけば全容が解明されるだろうから、その時はますます信用されるだろう。頼んだぞ、アーネスト!」
アーネストは、嬉しそうに言った。
「了解しました、大統領。感謝します。私達、インディアンの末裔が全世界を救うなんて考えただけでも胸が躍る。任せて下さい、大統領。絶対に、地球を守ってみせます」
ソフィアは、この力強い叔父の言葉に感動し言った。
「アーネスト叔父さん、私頑張るわ。早速、行動しましょう!」
そう言い、瓦を持って再び手をかざした。
地球の映像のホログラムが一瞬消え、そして前より更に大きくなり、特別の地が棒状にせせりだしてきた。
それを見たイーサンが叫んだ。
「この場所は、ひょっとして沖縄か?」
ホログラムの棒状の突起は、アジアの台湾付近を指していた。
よく見ると、台湾ではなくもっと北より、日本の南の島沖縄である。
かつて、イーサンは沖縄駐屯アメリカ軍嘉手納基地にパイロットとして所属していた事があった。
沖縄は、極東軍事拠点の要、日本の最南端にある島である。
日本にあって中国の文化を色濃くし、そしてすばらしい南国の景観を擁する観光が盛んな所だ。
イーサンが所属していたエアフォース(空軍)の嘉手納基地は、3千メートル級の滑走路を2本持ち、先の大戦で日本軍の滑走路として使用されていた所をそのまま基地として使用している。
また、外にもマリン(海兵隊)が主とする普天間基地やキャンプハンセン等といったベース(基地)を数多く有する地である。
ここが、今から進んでいく『物語』の新たなシーンとなっていく場所ならば、アメリカ軍として動きやすく都合が良いとイーサンは思った。
「大統領、沖縄はアジアにおけるアメリカの軍事拠点です。国連での説得の後で結構です。日本政府に、沖縄で我が軍が動きやすいよう協力要請をして下さい。日本にも、NSAがあります。そして、且つ自衛隊の協力もお願いいたします」
直ぐさま、ウイルソンは答えた。
「わかった、イーサン。ヴィクター、早速今からでもセッティングしてくれ」
続けてイーサンは、ウイルソンに進言した。
「大統領。コードワンでは緊急事態が故、問題解決に必要な機関は、大統領がお持ちの指揮権限を必要に応じて委ねる事ができるようになっています。そこで、NSA副長官を主としアルベルト分析官以下、ここにいる5人にこの件に関し指揮権限を最大限与えてよろしいでしょうか?」
ウイルソンは、当然だといった風で答えた。
「イーサン、許可する。アメリカ合衆国は、アーネスト副長官以下、君達を全面的に支持する事を誓う。思う存分やってくれ! ちなみに、これからみんな沖縄に行くのだろう。特別に、VC25を君達に与える。その代わり、連絡だけは密にお願いするよ。それでは、よろしく頼む! 以上だ。私達は、またこれからニューヨークへと戻る。皆、準備は抜かるな! さあ、忙しくなるぞ!」
そう言い残し、ウイルソンはとっとと部屋から出て行った。
ソフィアは、頭がくらくらした。
アメリカの指揮権限が一時的、限定的とはいえ自分らに委ねられるのだ。
しかも、政府専用機を使用できるなんて!
そう思うと、急に責任感が増してきた。
他の面々も同じ気持ちであり、気分が鼓舞されている。
その様子を見て、アーネストが言った。
「何としてでも、間に合わせなければ。月が落ちてくる前に」
アーネストは、軍の指揮権限委譲の手続きを行うため、イーサンと共にペンタゴンに残った。
ソフィア達4人は、この先『導きし使者』がいると思われる沖縄に行く準備を行うため、一旦ヘリでNSAに戻った。
ペンタゴンを出ると、もう朝日はとっくに昇り、時間を見ると9時を過ぎていた。
当然だが、4人とも昨日より眠っていなかった。
ヘリの中で、しばし休憩が取れた。
騒音でうるさいにもかかわらず皆熟睡する。
これから、怒濤の試練に望む前のわずかな休息である。
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