第17話 説得

 サンドラの情報によると、コードワン発令後各政府機関は月の調査と今後月に関連する自然現象を国民へ説明する対応シミュレーションを考えるようホワイトハウスから命じられていた。

また、大統領以下ホワイトハウスの重鎮達は、現在緊急安保理会議に出席するためニューヨークに集合しており、今後の対応を全世界レベルで協議しているとの事だった。

「たぶん、何も策は出てこないでしょうね」

ジョセフが、サンドラの情報を聞いてぽつりと言った。

「さて、どうしたものか。大統領は今ニューヨークにいる。これからなんとかしてこちらの説明を聞くきっかけを作らなきゃいけない。何か良い案は無いか?」

ソフィアが、投げやり風に呟いた。

すると、サンドラが「そうだ!」と叫びソフィアの方を見て言った。

「あなたのおじさんって、ここの副長官じゃなかった? もしそうなら、それを利用しない手はないわ」

ジョセフが、更に付け加えた。

「そうですね。しかも、副長官は分析官のお母さんの弟君ではないですか」

「なんで、あんたが知っているのよ!」

ソフィアは、ジョセフを睨んだ。

「まあまあ、今はそんな事どうでもいいわ。要は、ホワイトハウスに近い人物、しかも、我々の思いを唯一理解してくれそうな人物が身近にいるって事だ!」

ダスティンは、皆悩んでいた事がすべてうまくいったかのような口調で言った。

「そ、そうね。アーネストおじさんだったら、私の事信じてくれるかもしれない。早速、相談するわ。今からコンタクトを取ってみる」

そう言うと、ソフィアはスマホを取り出し電話をかけ始めた。


 アーネスト=マーティン、NSAの副長官でありソフィアの叔父である。

年は55歳になるが、元軍人らしくきりっとしており背の高い、人好きがする人物だ。

コードワンの説明をホワイトハウスで聞いた後、国連に行っている陸軍大将でありNSA長官であるイーサンの代理でNSAの指揮を一手に引き受けていた。

そこへ、姪っ子より電話が入った。

「ソフィー、久しぶりだな。元気だったかい? 同じ、職場なのにこうも会わないとは。もう、彼氏はできたかい?」

恐らく、2ヶ月は会っていない叔父と開口一番、相変わらずいつものとぼけた会話が始まった。

ソフィアは、それを聞き流しながら言った。

「叔父さん、いや、NSA副長官。今からたってのお願いがあるの! 部屋に行っていいかしら?」

アーネストは、ソフィアの迫力ある電話の口調にびっくりしながら答えた。

「そうか、ソフィー。彼氏の紹介だったらだめだ。今、超忙しくてな。おまえの所にも何らかしら情報が入っていると思うが、事態が恐ろしく悪い。落ち着いたら又連絡するよ。ごめんな」

アーネストは、そう言うと電話を切ろうとした。

ソフィアは、死に物狂いで引き留め言った。

「ちょ、ちょっと叔父さん! 彼氏なんか、まだ当分出来そうもないの! それより、話を聞いて。例の月の事、お母さんから小さい頃よく聞かされたお話の事よ」

アーネストは、かねてと違うソフィアに聞き入った。

「ああ、覚えているとも、ソフィー。おまえもよく寝るとき姉さんから聞かされただろう。あれが、どうした?」

ソフィアは、続けた。

「信じ難いけど、あの話と今起こっている月の現象が一致するのよ。私達の祖先が語り継いだ、あの『物語』が今起ころうとしているの、叔父さん!」

ソフィアの電話口での迫真の語りに圧倒されたアーネストは、これはただごとでないと思った。

最初、このくそ忙しいのにいい大人が何を言っているのか、でも姪っ子だから仕方ないと思って黙って聞いていた。

しかし、これは何かあるなと感じすぐ部屋へ来るよう告げた。

一行は、副長官室へと急いだ。

瓦を段ボール箱に移し、ダスティンが手で持っていった。

4人は副長官室に到着すると、すぐソフィアが中心になって3人の紹介をした。

そして、更に瓦のホログラムを見せつつ、今までのいきさつを事細かにアーネストに説明した。

その説明を熱心に聞いたアーネストは、4人に向かい言った。

「みんな、説明感謝する。まさか、私の祖先がこの緊急事態に絡んでいたとは思いもよらなかった。ソフィア、はっきり言って今、国を挙げこの事態に取り組んでいるのだが正直お手上げ状態なのだ。なにせ、全く原因がわからない状態で、しかもあと1ヶ月もすれば月が落ちてくると言うし、打つ手がない状況さ! たぶん、国連でも同じ状況だと思う」

それを聞いたソフィアは、更に熱弁を振るった。

「叔父さん、今は、この物語を信じるしかないと思うの。どうせ、打つ手がないのなら、おとぎ話かもしれないけどダメ元で信じ行動するしかないのよ」

アーネストも、興奮気味に力強く言った。

「わかった。たぶん普通じゃ何をたわけた事言っていると一蹴される所だ。だが、折角ご先祖様から指示された事をないがしろにしたのじゃ罰が当たる。そうだろう、ソフィー」

ソフィアは、頼もしそうに言った。

「ええ、叔父さん。やっぱ相談しに来て良かったわ!」

アーネストは、更に続けた。

「それじゃ、即行動しよう! 長官には、今の話を具体的にせず、一筋の解決策が見えた事にして大統領を国連から呼ぼう。後は任せておけ! 追って、場所と時間を知らせるので、皆一旦戻って十分な説得力のあるスピーチを考えておいてくれ。頼んだぞ、みんな!」

「イエス、サー!」

4人揃って声を上げた。

そして、部屋へと戻っていった。

時間は、既に23時を回っている。

アーネストは、早速国連で臨時安保理に出席しているイーサンに連絡し、緊急でコードワン対策として大統領に集まってもらう事を要請した。

会議場所は、バージニア州アーリントンにあるアメリカ国防総省、通称ペンタゴンと決まった。

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