第15話 操りし使者

【西暦20××年4月6日13時11分】

 ダスティンは、NSAの建物に入るのは初めてだった。

そして、戸惑っていた。

同じ国の機関なのに、自分の職場と比べるとこうもセキュリティーチェックが厳しいのかと正直びっくりしていたからだ。

「どれだけ秘密が隠されているのだ、ここは」

そう呟いていると、ジョセフが入り口のロビーに迎えに来た。

「初めまして、コスナー捜査官。上司のアルベルトが待っています。こちらへどうぞ」

ジョセフは、やけに丁寧な挨拶を交わした。

たぶん、ダスティンが短時間でこの場を返されると思うと、少しでも丁寧に接しておいた方が良いと思ったからだ。

一方、ダスティンはというと、ジョセフの考えとは裏腹に早く帰りたかった。

本来なら、ダスティンの性格からしてこの手の依頼は断固として断っている所である。

しかし、世話になっている上司からの頼みもあり、フェニックスから遠路はるばるこのNSAに来たのだった。

「東海岸側、超久しぶりだぜ。本来ならニューヨークでも行って遊んで帰る所なのだが。やつらをあげるまで気が抜けねえ。早いとこ、ここ引き上げて帰んなくちゃな」

奴らとは、言うまでもなくテロリストの事である。

ダスティンは、ジョセフにそうぼやくと大柄な体を揺らしながら親指を立てた。

その姿を見て、ジョセフはいささかほっとした。

体育会系男子の相手をさせられるのが億劫な気がしていたのだが、この男だったら相手にできそうと思ったからだ。

「コスナーさん、少しここでお待ちください。今、分析官を連れてきますので」

ジョセフは、普段、来客用に使う面談室にダスティンを通すとソフィアをPHSで呼んだ。

「準備オーケーです、分析官。手短にどうぞ」

「わかった。すぐ行くわ」

ソフィアは、ジョセフからの連絡を受けると面談室へと向かった。

部屋のドアを開けると、椅子に大柄なひげ面のダスティンが椅子にかけていた。


「結構、イケメンじゃん」

そう思った瞬間、ソフィアの目の前がホワイトアウトしていき、チャンドラーの実家で体験した体の中に何かが入っていく感触を再び感じた。

「大丈夫ですか、分析官! ていうか、捜査官も大丈夫ですか?」

2人が同時に床に座り込んでうつむき、額に手を当てたためジョセフは心配し大声を上げた。

暫くすると、2人とも立ち上がり周りを見渡した。

「どういう事! 田舎で味わった感触と同じよ、これ」

ソフィアがそう言うと、間髪入れずダスティンも叫んだ。

「俺もそうだ、あの事件の時と同じだ!」

すると、ソフィアはダスティンの顔を見て言った。

「全く違う場所であなたと会って、なぜ同じ体験をするの? もう自己紹介どころの話じゃないわ、コスナー捜査官!」

それに対し、すかさずダスティンが答えた。

「君は、俺を呼んだアルベルト分析官だよね。今、君と会った瞬間ホワイトアウトした。あの時と同じように・・・」

「あの時って?」

ジョセフが、心配そうに聞いた。

「あの爆発のあった瞬間だ。あのとき、ホワイトアウトして気を失った。気づいて、周りを見渡すと仲間は皆倒れ死んでいた。なのに、自分だけ生き残った・・・」

ダスティンは、頭を振った。

すると、ソフィアが同情するように言った。

「同僚はお気の毒だったわ、捜査官。私があなたを呼んだのは、その状況に興味を感じたからよ。でも、私が知る限りでは、調書にホワイトアウトの事は書いてなかった。なぜ?」

ソフィアがそう言うと、ダスティンはまた頭を振りながら答えた。

「ホワイトアウトについては、調書を取る時話をした。しかし、結局失神した時そう感じたのだろうって事で特に取り上げられなかった。だから、調書にも書かれなかった。俺も、うまく説明出来なかったのでこの際どうでもいいかなと思った。ただ、あの時の感覚は忘れない。自分の中に、何かが入ってくるような妙な気分になったからだ」

それを聞き、ソフィアは驚いた。

「ええ! 私も、コスナー捜査官! なぜ、同じ体験をしているの、私達!」

そのとき、ジョセフがとんでもない可能性を言葉にした。

「ひょっとすると、お2人は『物語』に出てくる方々じゃないのですか?」


・物語の検証

 「マルカムさん、『物語』ってなんだい?」

ダスティンは、ジョセフがいきなり『物語』という言葉を出したため何の事か訳がわからない。

ソフィアは、自分の祖先が引き継いできた『物語』と、更に瓦の事を含め今まで起こってきた事をダスティンに細かく説明した。

しかし、それにしてもまさか自分が呼んだこの男性が今起こっている、いや、これから起こるであろう『物語』に関係する人物だとは夢にも思わなかった。

まさに、これは偶然でない、必然なのだと思うしかなかった。

ソフィアは、ダスティンに向かって言った。

「コスナー捜査官。私もジョンもあなたも同じテロ計画を追っているけど、たぶん、もうそれどころじゃないかもしれない。もし、この『物語』が事実なら、そのうち私達地球に住めなくなるのだもの・・・」

それを聞いたダスティンは、明らかにわくわくしながら答えた。

「今日は、くそおもしろくないNSAに呼ばれたので、この後ニューヨークで久しぶりに羽を伸ばすつもりだった。でももう、そんな気分は吹き飛んじゃったぜ! しばし、テロリストはほっておくしかないな。分析官、なんだかおもしろくなってきた。協力するぜ、この地球のためなら」

ダスティンは、威勢良く叫んだ。

それを聞きソフィアは、真面目な顔に戻って言った。

「捜査官、私の事ソフィーって呼んで。ね、あなたもジョンでいいわよね」

「よろしく、えーっと」

ジョセフが答えようとすると、ダスティンは親指を立て言った。

「ダスティンでいいよ、お二人さん。それより、これからどうする。『物語』を証明するにも、聞いた瓦だけじゃ誰も信じてくれないぜ」

すると、ソフィアが首を振り嘆いた。

「そうなの、いくら今調査をして貰っているサンドラ分析官が瓦の実態を証明しても、そのまま『物語』には繋がらない。今のままでは、瓦と物語を誰が何の目的で作ったかも定かでない。『物語』に出てくる、伝えし使者が順当であれば子孫である私かもしれないし、その後出てくる導きし使者がダスティンかどうかもわからない。ただ、ダスティンは、フェニックスでなんらかしらの力を得て、当然死んでしまうシチュエーションで生きている所を見ると不死身の体を持つ操りし使者のような気もする。しかし、これも憶測の域を出ておらず、そもそもこの『物語』に登場する人物は、不死身なのかもしれない。ああ、なんだか全然わからなくなってきたわ!」

ソフィアは、混乱し更にまくし立てた。

「それとダスティン、私達何かにファーストコンタクトすると必ずホワイトアウトを経験しているじゃない? あなたは、たぶん爆弾による衝撃、私は光っている瓦との遭遇時。そして、更にあなたと会った時。ホワイトアウト自体、そんなに気持ち悪い感じはしないけど、それに意味があるとしたらあなたと会った事にはどんな意味があるのかしら?」

ダスティンが不思議そうに答えた。

「うまく言えないのだけど、君と会ってから少し違和感があるんだ」

ソフィアは、そう言われはっとした。

「そうなの、私もあなたと同じように感じていた。そう、ひょっとしてお互い喋っている声が二重に聞こえてこない?」

すかさず、ダスティンは答えた。

「そうだ、それだ! 言葉が遅れて聞こえてくる。プールに入った時、耳に水が入った感じだ。なぜだろう、これって!」

興奮している2人を言い聞かせるように、ジョセフは言葉を切り出した。

「お二人とも、ちょっと落ち着いて下さいよ。とにかく、あの瓦が又何か教えてくれるかもしれません。イシハラさんの所に戻りましょうよ」

ソフィアは、我に返り言った。

「そ、そうね、ジョン。ダスティンも一緒に来て。サンディーを紹介するわ」

3人は、サンドラの研究室へと向かった。


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