第14話 驚くべき分析結果
【西暦20××年4月6日9時45分】
次の朝、ソフィアはNSAに出勤するとジョセフに頼んで一緒にレンタカーを返しに行った。
帰りの車の中で、ジョセフが助手席でソフィアに聞いた。
「分析官、『コードワン』の事聞いていますか? びっくりですよね、あの御法度が発令されるなんて。でも、安心して良いのかテロ関係ではなさそうですね」
ソフィアは、それに頷きながら答えた。
「違うわ、もっと大きな事だと思う。その事で、あなたにも手伝ってもらうわ」
ジョセフは、怪訝そうに言った。
「じゃあ、上からミッションがもうきているのですかい?」
「ちょっと説明しづらいのだけど、調査が必要なのは事実よ」
ソフィアは、面倒くさそうに答えた。
「午後から、面会予定のコスナー捜査官についてはどうします?」
ジョセフは、ソフィアの態度に対し不満そうに言った。
しかし、ソフィアはさらに面倒くさそうに答えた。
「たぶん、午前中で大方の事はわかると思うので、その後予定通り面会はしましょう」
そんな2人の会話が終わる頃、車はNSAに到着した。
2人は、その足で直接サンドラの研究室へと向かった。
部屋に入ったソフィアは、サンドラを見つけると矢継ぎ早に言った。
「サンディー、昨日は仕事残して帰っちゃってごめんね。あの分析、終わったかしら?」
すると、目の下に隈を作ったサンドラがソフィアの顔を見るなり頭を振りながら言った。
「ソフィー、結論から言うわね。この瓦の正体は、現代の科学技術を持ってしても解析不可能よ!」
「? 意味がわからない、サンディー。どういう事か説明して!」
ソフィアが、不安げに答えを求めた。
サンドラは、半ばお手上げというジェスチャーを見せながら言った。
「今、言った通りなの。CT,MRI,元素分析装置、後100トンの力がかかる万力、1000度に達する焼却炉、ここにあるあらゆる装置を使っても、この瓦が何ものかつかめなかった」
ソフィアは、ひょっとするとサンドラが瓦を分析する事で今までの謎を少しでも解き明かしてくれると期待していた。
なのに、ますます謎が深まっている。
疑問に対してたまらず言葉が出た。
「それどういう事なの、サンディー?」
「つまり、この瓦は地球上の物質で無いという事よ!」
サンドラの答えにソフィアは、頭が混乱した。
少なくとも、自分が生まれてくる前からこの瓦は存在していたはずだ。
地球上の物質で無い物が、なぜ祖先から受け継がれるのか?
全く、訳がわからなかった。
物語に出てくる神が宇宙人であり、何らかの理由でこの瓦を作って・・・ まさしく、それはファンタジーの世界である。
嫌いではないけど、にわかに信じがたい。
そもそも、何らかの理由って何よ・・・ まさか、月が落ちてくるって事!!! 自問自答しつつ首を振りながら、ソフィアはサンドラに聞いた。
「サンディー。隕石がかつて私の祖先の所に落ちてきて、それを加工してこれを作ったって考えられない?」
すると、サンドラは右手の人差し指を振りながら言った。
「ソフィー、それは無いわ。だって、あなた、これが出すホログラムを見たでしょう? あなたの祖先が、わざわざ隕石を加工してそのホログラムが出るように作ったの? そして、そもそもこの物質は、現代の科学力を持ってしても加工なんて出来やしないわ」
ソフィアは、更に首を振って言った。
「それじゃ、やはり異星人か、それらしき者があれを作って私の祖先に渡したって事?」
「それはまだわからないわ。ただ、あなたの話を聞いているとずいぶん昔から、そう、少なくともあなたが物心ついたときにはその形で瓦はあったわけでしょう。だから、あなたが、というか、そこにいる男性も含めて私らはそう考えるのが普通よ」
そうサンドラが言うと、ソフィアははっと我に返りジョセフの方を振り向き言った。
「紹介が遅れてごめんなさい。彼は、私の部下のジョセフ=マルカムよ」
ジョセフは、サンドラに握手を求めた。
「初めまして、分析官の補佐をしています。今の話を聞いて、驚いています。もう、コードワンと分析官の体験は偶然と思えませんね。現在、どんな状況なのか、たぶん上層部はつかんでいるのだろうけど、まだ我々には具体的情報は降りてきていない」
そうジョセフが言うと、すかさずサンドラが答えた。
「ええ、コードワンが発令された時点で何かが起こっている事は把握できているでしょう。けど、国はその対処法とかを今模索しているところかな。この事に関係するのか、臨時の安保理も開かれているって噂も聞こえるし・・・」
ソフィアが割って入った。
「もし私の祖先が語り継いできた『物語』が本当なら、月が地球に落ちてくるって事でしょう! そりゃあ、ここアメリカだけでなく全世界的な問題だわ。安保理の審議内容も、間違いなくその事よ。えらいこっちゃ。どうする?」
興奮気味に喚きだしたソフィアを押さえるかのように、サンドラは答えた。
「ソフィー、だから言ったでしょう。まだ、何もわかってないのよ。まず、あなたの祖先が受け継いできたその物語が事実だって事を証明しなくては」
「どうやって!」
ソフィアとジョセフは、声を揃えて叫んだ。
「そんなの、私にわかるわけないじゃん!」
2人は頭を振った。
するとサンドラが続けた。
「この瓦が、ただものでない事だけは証明できた。次は、物語を検証していくしかないわよ」
すると、ソフィアが気を取り直し言った。
「そ、そ、そうね、サンディー。わかったわ。それじゃ、まず口頭でしか聞いていなかった『物語』を母と話をして文章にしているのでそれを持ってくるわ。それから、検証しましょう。付き合ってくれる、サンディー」
サンドラは、かけている眼鏡を左手で直しながら言った。
「恐らく、もうこれはあなた個人だけの問題ではないわね。いいわよ、ソフィー。これからの検証は、遊びでなく、たぶん国家をあげた仕事になっていくはずよ。私の権限で、全面的に協力するわ」
ソフィアは、サンドラの言葉を頼もしく思った。
そして、嬉しそうに言った。
「ありがとう、サンディー。ジョン、そう言う事だから私達の仕事も暫くこの問題に集中するわ。テロ計画は、一時中断!」
「イエス、サー」
ジョセフは、なんだか訳がわからなくなってきたが、非常にわくわくしてきていた。実際、月が落ちてくるという事実を目の当たりにするまでは。
その時、ジョセフのPHSが鳴った。
時間は、13時になっている。
「分析官、受付からコスナー捜査官が見えたとの連絡がありましたけどどうしますか?」
「あちゃー、すっかり忘れていた。どうしよう、ジョン」
ソフィアは、ジョセフに長靴を履いた猫の目を向け何とかしろと訴えたがジョセフは断った。
「あれだけ、念を押したのですからね。私は断りませんよ、分析官。ご自分でどうぞ」
ジョセフは、冷ややかに言った。
「けち! 冷たいわね、新人君。わかったわよ、どうせ最初から実のある情報が得られるか期待してなかったから。暫く話をして、申し訳ないけど本人にはご遠慮願うわ。今、それどころじゃないわよ。こっちは、地球規模じゃないか。ごめんサンディー、準備が出来たら『物語』の文章持ってくるわ」
ソフィアは、そう自分に言い聞かせるように話をした後、ジョセフとともにサンドラの研究室を足早に出て行った。
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