第12話 ホログラムの意味

 ホログラムは、明らかに地球だった。

自転もしており、見た目は精巧に海や陸地も描かれていた。

また、地球として描かれている図形の周りを、衛星である月が回っている。

「これ、誰が作ったの?」

ソフィアは、たぶん世界中の誰も答えられないと思いつつ、そう両親に向かって言うとホログラムの光りが出ている瓦の元に手をかざしてみた。

すると、ホログラムの光りは遮り消える。

しかし、再度手をかざすと又元の映像が出てきた。

ホログラムの月は、楕円状に公転しているのだが、どうやら徐々に地球に落ちていくというような動画が映し出されている。

どこまでいくのか暫く見ると、地球の各地から光線状の帯が発射された。

そして、徐々に月は押し戻されるように地球から離れていき、元の位置へと戻っていった。

その光景が、そこ2~3分おきに再生されている。

「??? これ、何を意味しているの?」

そうソフィアが言うと、すかさずラルフが答えた。

「単純に月が地球に落ちてくるって事じゃないのかい。そのまま落ちてくると困るが、このストーリーだと、結局、月は元に戻るのだから良いのじゃないのかね」

ラルフは、のんびりと言った。

「これ、そう言う単純な問題なの、ダディー? なにか、あの物語の事を指しているんじゃない? でも、ああん、一体全体どうなってんのよ。もういい。ごめんマミー、これNSAに一旦持って帰っていい? 調査部署があるから、そこでちゃんと調べてみるわ!」

そう言って、ソフィアは自分でも混乱していると思いつつ、両親にまくし立て瓦を元の場所に戻した。

マリーは、心配そうにソフィアの顔を見つめながら言った。

「ええいいわ、好きにして。その代わり、この板は何もしないと思うけど気をつけてね。何かがこの先、起こるような気がするの」

「そうね、多分そうだと思うけど、今はどうなるのか全くわからない。何かわかったら、すぐ連絡するわね。でも、今日は遅いからもう寝ましょう」

そうソフィアが言うと、3人は青白い光りを放つ瓦を後にして部屋を出た。

時間はあっという間に経ち、夜中の1時になっていた。

ソフィアは、テロ問題で心身共に疲れていたのだがそれにもましてこの現象である。ほとほと参った。

とにかく今日はひとまず寝て明日頑張ろう。

両親に、このまま休むと告げベッドに横になった。

次の朝、泥のように眠るとはこの事かと言わんばかり寝過ごしたソフィアが目を覚ましたのはお昼前だった。


「相当疲れていたのね、ソフィー。ブランチが出来ているわ」

飛行機の時間に間に合わなくなると困るので、マリーがもうそろそろ起こさなくてはと思い寝室に入り起こしにきてくれたのだ。

たぶん、そのまま起こさなかったら夕方まで寝ていたに違いない。

ソフィアは、母親が休みの時に作ってくれた懐かしいブランチを取ると、早速適当な段ボール箱を捜しあの瓦を入れた。

「マミー、15時の飛行機出発時間に遅れると嫌だからもう行くわね。ダディーは、畑でしょ。よろしく伝えて。また、近い内会いに来るわ。今度は、ゆっくり戻ってくるわね」

そう言いソフィアは、瓦の入った箱をクライスラーの後部座席に乗せ、マリーに別れを告げるのだった。


・瓦の正体

【西暦20××年4月5日15時41分】

 ソフィアは、15時の飛行機に間に合うよう空港へと車を飛ばした。

ラジオから、フランクシナトラのフライ・ミー・トゥー・ザ・ムーンが流れている。

「月に行くのじゃなくて、向こうから来るなんてどうなのよ? 私、呼んでないし」

と、つまらない事を考えた末、やっかいな事になったとソフィア自身少々面倒くさくなっていた。

また、その一方、瓦の事が気になるやら、どうにも頭が混乱し当分の間田舎で起こった事に対して整理が付きそうにない。

空港に着きレンタカーを返し、搭乗手続きを済ませると例の箱をカウンターに預けた。

本当は自分で機内に持って行きたかったが、恐らくボディーチェック時職員に箱の中について聞かれる事は目に見えており、説明するのが面倒くさいので荷物で預けた。夕方、何事も無くボルチモア・ワシントン空港に着いたソフィアは、その足でNSAに向かった。

帰りも、あの瓦が入った箱を運ぶためレンタカーを借りるしかなかった。

シボレータホをレンタルしたのは、なぜか頑丈な車でなければならないような気がしたからだ。

それから、NSAに着いたのは、途中軽い食事もしたので19時を回っていた。

セキュリティーチェックを受け、自分の部屋に戻るとジョセフがソフィアの帰りを待っていた。

申し訳なさそうにソフィアはジョセフに言った。

「遅くなってごめんね、ジョン。仕事、はかどった?」

ジョセフには田舎に帰っている間、テロ対策のマネジメントを任せたがソフィアは気が気でなかった。

ひょっとすると、もうテロリストの計画は実行段階に入っているかもしれないからだ。

「アルベルト分析官、情報分析は順調です。やつら、声明ではすぐ実行するような事を言っていたのですが、この前のアジトほど堅牢なものはまだ持っていないようですよ。地下にでも潜って計画していれば、別ですが」

ジョセフが得意げに言うのを見て、こいつNSAのエージェントから確かな情報をもらったなと思いソフィアは言った。

「それだけ言うのであれば、それなりの報告書はすでに出来上がっているのでしょうね、新人君」

ジョセフは、自分がちょっと言いすぎた事を反省しつつ、罰が悪そうにしているとソフィアが続けた。

「ジョン、わかったわ。そっちの方は任せるので、分析続けて。私は、至急調べたい事があるので、今から科学分析室の方に行ってくるわね」

ジョセフは、驚いて言葉を返した。

「あそこ、まだ人がいるのですか?」

「大丈夫、あそこは仕事が好きな人が多くて、今の時間でも賑わっているわ。先に帰っていいわよ。それじゃあね」

ソフィアは、さも当然という口調でジョセフに言い、部屋を出て行こうとした。

それを見たジョセフは、慌てて引き留め言った。

「ちょ、ちょっと待って下さい、分析官。例のコスナー捜査官をやっとの事で招集出来たのですよ。それも、明日。説得するのが大変だったんだから、全くもう! 13時には来る予定なので、よろしくお願いします」

「そうだった、その聞き取りもしなければならなかった。すっかり忘れていたわ。ごめんなさい、了解した。大変だったわね。じゃあ、明日よろしく」

社交辞令で感謝を述べたと明らかにわかる口調でジョセフに言った後、ソフィアは例のものが入った箱を持って科学分析室へと急いだ。

「やれやれ、仕方ないな。明日どうなる事やら。ちまたでは、『コードワン』が発令されたとも聞いているけどとにかくあの人にはつきあってらんねえ、もう帰ろうっと」

ジョセフは、わがままな上司を置いて先に帰宅した。


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