第4話 2月14日

あれはテレビ番組だっただろうか。

ネットサイトだっただろうか。

人からの言葉で知ったのかもしれない。

よく覚えてないが、余計な知識を身につけてしまった。

そして恐ろしいことに、僕は行動に移してしまった。

後悔してもしきれない。

初恋は甘酸っぱいというが、僕の初恋はとても苦い。


僕の中の「嫉妬」と「独占欲」はどんどん膨らんでいる。

君の全ては僕のものだし、他のやつに見られたくなかった。


「僕のこと好き?」

「好きだよ。」


この会話が日々増えてゆく。

増えていく度、君の顔は曇ってゆく。

なぜ曇る。好きなら好きと言えばいいだけではないか。僕は安心したいだけなのだ。僕のことを好きかどうかなんて、そんなの分かっている。

いつもの帰り道の途中、突然君が言葉を発した。

「最近変だよ。」

変。僕はなにか他の人たちと違うのだろうか。

「変じゃないよ。」

変ではない。人間皆嫉妬もするし独占もしたがる。一般的な事じゃないか。

「そう。」

君はそれだけ言った。その横顔はどこか寂しそうだった。

「言いたいことがあるなら言ってよ。」

少し口調が強くなってしまった。焦ったのかもしれない。寂しそうな顔をさせているのは僕かもしれないから。

「…あのさ」

ゆっくりと話し始めた。

「最近、重いよ…」

ずしりと頭の奥で言葉が響く。

重い。

もちろん体重とかそういうことではないだろう。

嫉妬や独占欲が深くなると人は「重い」と感じるのだと頭では理解してるつもりだったが、初めて体感した。

そうか、僕は重いのか。

「君が…誰かに盗られてしまうような気がして…」

素直な気持ちを述べた。君が誰かに取られてしまったら。

君の笑顔が魅力的だと、全てが素敵だということを誰かが心の底から理解してしまったら。

きっと僕はそいつにはかなわなくなるだろう。

僕には自信が無い。

「大丈夫だよ。盗られない。」

安心させるつもりだったのだろう。君の声は優しかった。

しかし、僕の思考回路は既に嫉妬に狂っている。素直に聞ける耳ではなかった。

「そんな保証どこにもない!同じクラスの田中も、隣のクラスの高橋も君と仲良さそうに話すじゃないか!」

君は言ってる意味がわからないといった感じで僕を見つめる。

「君は僕だけのものなのに!」

目の前が白くなった。

キーンと耳鳴りがする。

少し遅れて頬に痺れるような痛みがあることに気づいた。

その直後、僕は尻もちをついていた。

「馬鹿じゃないの。」

目の前に君が立っている。

顔を真っ赤にして、僕を見つめている。

その目には光る何かがあった気がした。


殴られた。


理解に時間がかかったが、少し痛そうに手のひらを擦る君を見て確信を持った。

「私はあなただけのものになったつもりは無い。」

冷たかった。君の顔に向日葵は、無い。

「私は一人の人間なの。モノ扱いしないで。誰と関わろうがあなたには関係の無いこと。私の人間関係は私自身が決める。」

動けなかった。尻もちをついたまま、痺れた右頬に手を当てて呆然と君を眺めていた。

君は踵を返して行ってしまった。

今度は目の前が真っ暗になった。

物理的ではなく、君に言われた言葉があまりにショックで何も見えなくなった。


君は僕だけのものじゃない。


認められるわけがなかった。

だって君は僕のことが好きなのだから。

僕に全てを向けているはずなのだから。

僕の心には新しい感情が生まれていた。

「復讐心」

君が自分で人間関係を決めるのならば

僕も勝手にやらせてもらおう。

そして同じ思いをすればいい。


聞くところによれば、寂しくなると浮気する者がいるらしい。

君は僕を寂しい気持ちにさせた。

世間一般に一定数そういう人がいるのなら、僕も、浮気したって許されるだろう?

僕は同じ部活の女子マネージャーに連絡をとった。

この際誰でもよかった。

とにかく、女子と仲良くなろうと思った。

いや、仲良くならなくてもいい。

「既成事実」だけあればいい。

彼女からの返信は早かった。答えはYESであった。

僕は週末、君じゃない女子と食事をしに行く。


僕は狂っている。

今ならわかる。

しかしこの時の僕は気づいていない。

この先は破滅しかない。

それでもこの続きを話そう。

破滅の中にまだ見ぬ何かがあるかもしれない。

なあ、そうだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る