第28話 天才肌のベース登場

 放課後に雅人くんへメールをしたら、3分で音楽室にやってきた。そんなにバンドがやりたいのかと、少し微笑ましくなる。

「改めて、山田雅人だ。変わり者が集まってるって聞いたから、気になってたんだよ。よろしくな」

 変わり者と言われて顔を見合わせる私たち。まあ内面はともかく、外見だけみたら仲良くなっているのが不思議かもしれない。と考えていたら雅人くんは質問を悟くんにした。

「なんでお前ら今までベース入れなかったんだよ。メンバーそろってからまあまあ経つだろ。テストもあったけど。まさかベースはいらないとか思ってたんじゃないだろうな」

ぎくり

 ベースを後回しにしたのは私が原因だ。ギターとドラムとキーボードが入ればバンドはできると思ったし。3人集まったことにはしゃいでいた。ベースがいなくてもバンドをやって有名なグループもいるし。その人たちは少数派とは知っていたけど。

「悟くんたちは知ってたよ。3人集まったから、バンドがやりたかったの。ごめんなさい」

雅人くんはまじまじと私を見つめた。

「お前は確か優子だったな。明日香とは感じが違うしあまり知らねーけどバンド似合わねえ。とりあえずこれを聞け」

名前で呼び合うことが私たちのルール。雅人くんは背中のケースからベースを取り出して、弾き始める。昼休みとはレベルの違う実力。弾き方に名前があるのかもしれないけど、高速で正確にフレーズをはじき出す。こんなベースがいたらもっともっと私たちは高みにいける。そんな気がした。

演奏が終わり、思わず私は拍手をする。

「拍手はいらねーよ。お前らのバンドをもっと動かしてやるぜ。ライブ中に天に昇るなよ」

彼の演奏を聴くと、ほら吹きには思わなかった。でも-

「私たちの目指すバンド変えた方がいいかもね」

言いたいことを言うようにしていたから、思ったことを伝えた。

「レモン・スカッシュはポップなガールズバンドだったな」

「僕もそれに憧れていたけどね」

「俺うわさに聞いたけど、お前ら青春がしたくてバンドやってたんだろ?男女の青春バンドでもよくないか?」

私はCDショップでレモン・スカッシュを聞いて感動した。こんな風に、音楽をしたい。青春がしたいと思った。でも、私たちらしい青春ができれば、私たちだけの青春ができるなら、レモン・スカッシュじゃなくてもいいかもしれない。

私はゆっくりとうなずいた。

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