第27話 ベース候補は2人いる

「雅人っていうんだ。3年と組んでたら受験でバンド解散しちまって、こっちで組めればって思ってんだ。地盤を固めるのは得意だぜ」

 隣のクラスの雅人くんは私も名前を知っていた。今年の文化祭で演奏していたから。すごくパワフルな演奏をする、髪は染めていないけど少しピアスをつけていて、今時のおしゃれな男の子。少し苦手なタイプ。

「石川先輩と三月先輩のバンド見てました。谷川優斗です。今は違う人と組んでいるんですね。僕も先輩たちみたいなバンドがしたくて、高校からベースを始めました。よろしくお願いします」

 礼儀正しい後輩の谷川くん。まだ声変わりをしていなくて、雅人くんと比べるとおとなしい印象。ベースの試演でも少しかたかった。ベースを始めて数ヶ月ということで、まだまだうまくない。メンバーの3人が相談をして、どちらかをベースに決めることにした。

「じゃあ夕方に結果をメールするね。僕のアドレスから出すから」

 悟くんに仕切ってもらって、オーディションを終了する。残りの昼休みを使って私たちは意見交換した。

「私は谷川くんがいいと思ったけど。素直だし。これからベースは上達するだろうし」

 2人のバンドにあこがれてきた、と聞いたから、2人も賛成すると思ったけど、

「僕は雅人くんがいいと思うな。僕らの音楽に合うと思う」

「俺もそう思うぜ。優斗の場合はまだ早え。少しおとなしいんだよな」

 私の意見に反対してきた。でも、根本的な問題がある。

「2人とも、私たちはレモン・スカッシュを目指しているんだよ。ポップな女の子バンド。どちらかといえば谷川くんでしょ?雅人くんじゃ、どんどん離れていっちゃう」

 つい指摘すると、悟くんが私の肩を叩いた。

「優子ちゃん。僕たちはレモン・スカッシュを目指してる。でも前のバンドのまねをしたいんじゃないのは伝えたよね。雅人くんとだったら、優子ちゃんが目指す高校生らしいバンドや、将来的にプロを目指したバンドができると思うよ。きっとレモン・スカッシュとは違う、僕たちにしかできないバンドができる」

 納得していない私に説明してくれた。明日香さんもあきれたようにため息をはきながら口を開く。

「お前、俺たちらしいバンドがしたいんだろ。はじけたいんだろ。雅人はお前のキーボードを爆発させるぞ。あいつに支えられて思いっきし歌えよ」

 ミキさんのことを気にしていた私。レモン・スカッシュや、前のバンドに近づかないとと思っていたけど、2人が反対した。私たちらしい、楽しくて感情を爆発させるようなバンドをすればいい。

 私たちのベースが決まった。イケイケすぎて少し話すのに緊張する、雅人くん。私たちのバンドが、改めて始まった。


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