第23話怒ると怖い悟くん
悟くんはHRにきていた。いつも通り号令をかけている。明日香さんはいない。隣の子がひそひそ聞いてきた。
「山本さん、三月くんと何もめてるの?彼怒ってたよね。ケンカ?」
「多分、ケンカじゃないと思う。怒ってたけど」
自分でも悟くんが怒っていたのは分かった。素直に謝って許してくれるのかな。見たところ、いつも通りに見えるけど。
先生が話し終わった。
悟くんが荷物を持って出ていこうとするので、呼び止める。
「あの、さ。一緒に音楽室行こうよ」
落ち着いた瞳に一瞬なにか別の温度が見えた。多分、まだいつも通りじゃない。悟くんはあえて私の腕をとって歩き始めた。
「悟くん、1人でも音楽室行けるし、私が誘ったし」
悟くんは、冷たいまなざしを向けて言葉を放った。
「逃げられても困るんだよね。優子ちゃん」
言葉は優しくて、いつも通り。でもなんだか怖かった。音楽室に何があるのかと思うくらい。だんだん背中がゾクゾクしてきて、腰にまきつけてたカーディガンをまとった。
音楽室に、明日香さんはいた。明日香さんは、しかめっつらをしている。ガラガラと悟くんが扉を閉めたから、私は思いきって謝った。
「2人ともごめんなさい。なんか、なんで私なんかとバンドやってるのか気になって。妹さんと本格的にバンドしていたって聞いて、私なんてどうでもよかったのかと思って……」
頭を下げたままじっとしていると、明日香さんが近づいてきた。殴られる、と思って身をすくめると、1枚の写真を手渡してきた。私を少し幼くして天真爛漫にしたような、かわいい女の子と明日香さん、悟くんの3人の写真。
「わりいな。お前がバンドやりたがってるの知って、期待したんだよ。お前とだったら、ミキとの思い出の続きができるってな。でも俺、お前も気に入ってんだよ」
明日香さんは出て行った。悟くんの様子が分からなくて戸惑っていると、彼も話し始めた。
「明日香ちゃんが許すなら僕も我慢するけど、また明日香ちゃんを傷つけたら許さないから」
温度のない声色で話されると、悟くんがとても怖く感じる。なんて言えばいいのかな。普段優しい人が怒ると怖いことを実感すると、悟くんは笑って言った。
「なーんて、どう?変なこと気にしないで、バンドしようね」
笑っているけど、今まで怒っていたのも事実だろう。でも悟くんは、口を開いて3人の雰囲気を和ませて扉にいた明日香さんを引っ張ってきた。
「どうせみんな練習してきたんでしょ?合わせようよ」
そう言って、解散の危機だったクリーム・ソーダは練習を再開した。
明日香さんのドラムでリズムをとりながら-
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