第24話ベースを増やしたい

 久しぶりに「君の笑顔はショートケーキ」を合わせてみて分かった。それぞれ練習してたこと。悟くんのギターもよくなってたし、明日香さんのドラムもスネアのリズムがスムーズだった。もちろん私も-。

「ベースを増やしてみるのはどうかな」

 曲を合わせたあと、悟くんから言いはじめて私は驚いた。私はベースを入れたいけど、まずこの3人でバンドをしたいと思ったから。悟くんと明日香さんには聞いていなかったけど。

「いきなりどうしたんだよ」

 ドラムの席に座った明日香さんが戸惑うように聞いた。

「僕と明日香ちゃんは、3人でバンドをやることにこだわってたよね。あの頃みたいに。でも優子ちゃんは、ミキちゃんとは違うんだ。違って、当たり前なんだ」

「だから、新しいバンドにするためにベースを入れたいんだ。曲に厚みが出て、優子ちゃんのキーボードとかもさらによくなると思う。僕たちの、優子ちゃんが望むバンドを作ってクリスマスライブをしよう」

 私は思わず悟くんに聞いた。

「今からクリスマスバンドに間に合うのかな。あと1ヶ月後だし、生徒会に許可もとってない。ましてや新メンバーなんて」

 悟くんは何も心配がないようにギターを下ろしながら窓に寄りかかった。

「生徒会のことは田口先生に任せているよ。最近優子ちゃん挙動不審だったから。新メンバーも探しているよ。小さめの紙を掲示板に貼ってる。気づかなかった?」

 確認のために音楽室から出て明日香さんと掲示板を見ると、紙が貼ってあった。生徒会のハンコが押してある。

-クリスマスライブをやろう!僕たちはクリーム・ソーダ ベースを募集中-

 はたしてこの文章でメンバーは集まるのか、悟くんの話だと、声をかける人はいるみたい。

「僕が決めるのと、みんなでオーディションするのとどっちがいいかな?」

 悟くんが決めてくれたら、間違いはないだろう。私にはバンドはよく分からないし、ベースも分からない。でも、

「みんなで決めようよ。私たちのバンドだから」

 3人でうなずいた。私たちのバンド。新メンバーが入るバンド。それは、誰もまねができない、特別な集団。高校生の、今だけしかできない思い出、青春を作りに、私たちは走って行く。

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