第21話 屋上での思い出話
悟くんが授業を受けないのなんて初めてだった。いつも率先して先生を助けて、授業をサポートしている。そんな彼が、今日はいない。
「三月はどうした。鞄はあるよな」
先生からの問いに、みんなざわざわしていた。チラチラと私を見る人もいる。昼休みに悟くんから私が怒鳴られていたから。
いたたまれなくなって、教室から飛び出した。
「おい、山本!?」
先生の声を無視しながら。2人を探した。音楽室、生物室は授業で使っていたから、屋上にたどり着いた。
「--」
明日香さんの声が聞こえた。声だけするのを考えると、屋上のさらに上で、はしごを登って多分悟くんと話しているんだと思う。昼休みのこと話しているのかな。
「あいつには悪いよな。利用したみたいだからな」
「きっと優子ちゃんも楽しんでるよ。僕たちがサポートしているし。ミキちゃんとは関係ないよ」
ミキちゃん、明日香さんの妹で、2人が中学生の時にバンドを組んでいた女の子。私と似ているという女の子。
「あいつがポスター貼ってるのみて、チャンスだと思ったんだよ。生き写しってわけじゃないけど、なんか似てるから、ミキとバンド続けてたらこんな感じだったかなって、思って」
「あいつと、ミキは違う人間なのにな。でも、ミキが生きてたら…」
すすり泣きが聞こえて、これ以上立ち聞きするのはよくないと感じた。そっと屋上から出る。やっぱり明日香さんは妹さんの面影を探して私とバンドをしていた。二つ返事でバンドに入ってくれたのも、そのため。
仲間だと思ってたし、少しは思われてただろう。でも、一番は妹さんとの青春の続きで、私は多分二の次。
明日香さんの涙に感化されて、私も涙ぐむ。青春したい、仲間、私の独りよがり。つらかった。全部全部つらかった。ここしばらく、私は高校生をエンジョイしてるって思ってた、けど私と青春なんて考えている人はいなかった。
そうして、歩いていたら、生物準備室にたどり着いた。荷物をもって、田口先生が歩いてくる。
「山本、まだ授業中だろ。どうしたんだ?」
田口先生の声に、私は涙をこぼしはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます