第20話 どうして、私とー
英語の授業が終わり、昼休みになった。明日香さんは教室から出ようとしている。
「明日香さん」
呼び止めると、明日香さんは立ち止まった。
「なんか用か。バンドなら放課後にでも」
「どうして私とバンドやってくれてるの?」
だるそうな瞳の色がゆれ、困惑などが伝わった。また外に出ようとしている。
「俺たちレモン・スカッシュ目指してんだろ。今更何言ってんだよ」
「明日香さんたちが明日香さんの妹さんとバンド組んでいたって聞いたの」
私の声は震えていた。明日香さんがごまかそうとしたから、愛実ちゃんから聞いたことを伝えた。私が妹さんに似ているって悟くんから聞いていたから、私はバンドを組んでくれた理由を知りたかった。だからごまかしにのれなかった。
怒るでもなく、ため息をはくわけでもなく、明日香さんは私をにらみつけてから、屋上へ消えていった。
「優子ちゃん、誰かから話聞いたの?」
悟くんは、いつもとは様子が違っていて、なんだか怒っているように見えた。
「ちょっと、人から」
「どうして明日香ちゃんを傷つけたんだよ!」
悟くんがどなって、周囲の人がこちらをふり返った。
「明日香さんが、傷ついたー?」
「妹のミキちゃんと、僕たちはプロを目指していた。もちろん、なれるなんて単純に思っていたわけじゃない。でも、練習もがんばっていた。ミキちゃんは病気で死んだ。僕たちはバンドを解散した」
「だから、それならどうして私と-」
悟くんはじれったそうに続けた。
「明日香ちゃんが何を思っているか、僕は知らないよ。今回は誘われただけだし。でも明日香ちゃんが明るく、前みたいになるなら、そう思って僕は参加したんだ。明日香ちゃんのためになるなら…」
そう言って、悟くんも教室から出ていった。
「ごめん。言いすぎた」
一言残して。
一人残された私は、明日香さんを傷つけたこと、悟くんが怒ったことを知って、呆然としていた。真実を知ることがいいことと思っていたけど、人は時にナイフで心を切りつける。明日香さんの心から、血は流れていただろうか。私の血は、彼女らと同じ色をしているのか。
クラスメイトとお昼ご飯を食べる気にもなれず、一人でお昼ご飯を食べたけど、昼休みが終わったあと、どちらも教室に戻ってこなかった。
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