第17話 あんこう鍋で一家団らん

 くつくつ

 秋の初め。今日はけっこう冷えたから、夕飯はあんこう鍋。グルメなお父さんが漁港にいって、季節にしては少し早めのあんこうを買ってきた。

「優子の友達って不思議な子たちね。真面目そうな男の子とか、ちょっと近づきにくい女の子とか」

「悟くんも明日香さんもいい人だよ。明日香さんは私のこと気にしてくれてるんだ」

 ほっこりした鍋の雰囲気で、会話も弾む。お姉ちゃんはいつの間にか2人を見ていたみたい。魚を買っていたお父さんは食べることに夢中だけど。

「優子が男を連れてきたのか?どんなやつだ。見た目は、中身は、年収は?」

 同じ学校の男の子を家に連れてきて、その質問はおかしくないですか、お父さん。

「あなた、落ち着いて。礼儀正しい男の子よ」

「もう1人の女の子もぶっきらぼうだけどいい子ね」

 しっかりお父さんに話しかけながら、お母さんは明日香さんを認めてくれた。

「あんこうの雑炊楽しみ」

 友達を認めてもらって大満足の私は、あんこう鍋に舌鼓。本来の目的、友人を使って勉強への圧力を減らすことを忘れていた。

「友達と勉強するのよ。平均点とれれば文句言わないから」

 平均点。今まで上の下という成績を取っていた私にとって、だいぶ遊んでいてもとれる成績。それってー

「やりたいことできたなら、応援するわ。お友達のことを考えて、一生懸命やりなさい。来年の受験に支障が出ないように」

「ありがとうお母さん」

 黙ってあんこう鍋を攻略し、雑炊作りに精を出していたお父さんが、

「お母さんも素直になれてよかったな。友達を連れてきて、さっき喜んでたぞ」

 今までの成績をキープすることは難しいかもしれない。でも、できる限り保てるよう努力はする。みんなで勉強会をしたら、できないことなんてないかも。だって悟くんも明日香さんも、協力してくれるから。甘えっぱなしはダメだけど、私が自分のしたいことをやること、時には頼ることを2人は希望している。

「ちょっとお父さん、雑炊1人で食べないでよ」

「優子も美奈も、女の子の成長は早くて、もう食べるしかないんだ」

 子どもっぽいお父さんにあきれるけど、お母さんとも和解して家族団らんできた。 

 ご飯のあとはお風呂でリラックス。その後はまた練習しよう。クリスマスライブに間に合うように。今は既存の曲だけど、悟くんの詩でみんなを驚かせるように。

 今まで話していた子たちは、私たちのバンドに驚くかもしれない。変わり者たちが意外と本格的な演奏をするから、したいという願望があるから。私は悟くんの声が好きだ。落ち着いた、じんわりぬくもりのある低い声。そんな彼の声と合わせて歌うことがとても楽しみ。まずはお風呂でサビを練習しよう。

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