第16話 人生は選択のエッセンスでできている
ーかわいい かわいい
ー甘い気持ち
ー君の笑顔はショートケーキ
ー甘い甘い ハートを食べて
引き続き私の家の特別室で練習中。レモン・スカッシュの「君の笑顔はショートケーキ」を流している。まずこの曲をマスターしてから、またこのバンドの曲を練習してオリジナルソングへ。悟くんが既に詩を作ってくれているのに、私がふがいないばっかりに楽譜に起こせなくて申し訳ない。
明日香さんはドラムに座り、悟くんはギターを持っている。そうだ、
「悟くん、歌ってみてよ」
「僕が?」
悟くんはいつも冷静だけど、驚いた顔を見せた。詩も書けて、きっとうまいんじゃないかと思った。
「聞かせてやれよ。おまえうまいんだから」
明日香さんがせっついて、悟くんは歌った。冒頭の「君の笑顔はショートケーキ」のさびを。
「うまいね」
「だろ」
つい、ひきこまれた。私の歌とは違い、世界観を伝えられるボーカル。私も歌うのは好きだけど、変えたほうがいいかもしれない。
「悟くんがボーカルにする?」
後で後悔するかもしれないけど、こういうのが正しい気がした。うまい人が歌った方がいいに決まってる。だけど、
「おまえも歌えよ。好きなんだろ。Wボーカルにすればいいじゃねぇか」
「僕が歌うなら、優子ちゃんの声もあったほうが声に厚みが生まれるんじゃないかな」
2人に押し切られてしまい、つい私もボーカルを続けることになった。
「じゃあドラムだけでも演奏するか」
楽譜を見ながらドラムの演奏をする明日香さん。ロックバンドでは楽譜が読めない人もいるなか、しっかりたたき方を頭に入れて弾いている。スネアやドラム、シンバルなどを使いこなして、音楽としてだけでなくパフォーマンスにもなっている。妹さんは、きっとこんな明日香さんを見ていたのかな。
「やっぱり楽しそうだね。明日香ちゃんのドラム聞くの久しぶりだよ。妹さんがいたときには、よく一緒に聞いてたけど、最近は家で時々たたき殴ってるだけだった。優子ちゃんは妹さんに似ているところあるから、明日香ちゃんも気を許しているんじゃないかな」
私が明日香さんと出会ったこと、悟くんと出会ったこと。それは1つのバンド、レモン・スカッシュが原因。それまで同じクラスでも話すこともなかった。ただ明日香さんにとっては、レモン・スカッシュというバンドと最愛の妹に雰囲気が似ている私がいたこと。悟くんは明日香さんにバンドの演奏から、毎日充実させたいことなど。私には言われなかったから初耳だった。
そんな風に、運命は巡り合わせでできている。無意識にした選択の1つ1つが、私たちのを人生を決めているのだ。人生は選択のエッセンスでできている。
ドラムにあわせて悟くんのエレキギターが鳴りはじめた。
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