第11話 はしきやしー
「はしきやし-吾家の毛桃本茂み-花のみ咲きて-ならざらやも。という歌は作者不明です。この通り万葉集ではー」
午後の眠たい時間に万葉集はつらい。恋愛成就の歌だと、興味のある女の子や男の子もいるだろう。だけど私と恋愛は縁がなさすぎる。たくさんの花が咲くほどの思い、なんだか私の青春に関する思いに似ている気がする。一方的で、どこか憎めない愛情。そして今は、明日香さんと悟くんがいる。まだ話し始めてそんなに経ってないけど、他の人には話せない熱い思いを話すことができる。
そんな仲間に出会えたこと、それは花だけが咲いたのではなかった。思いがかなった、というわけではないか。つまり私の願いは叶っている。外の風景をみながら、なんだか気持ちが高まってきた。もっとがんばろう。勉強もがんばってみようかな。そうしていると、お堅い梅田先生が注意してきた。
「山本さん余裕ね。自分なりの解説してみてくれる? よくある恋愛成就以外でできるかしら?」
たった今考えていたことを言うチャンス。クラスの人たちに自分の考えを話す。
「私の家ではこんなに花が咲いているのですから、花だけということではないでしょう。きっと実もなるはず。これが普通の考えです」
心臓のバクバクをおさえて、
「私は、私たち高校生の激しい思いがあるならば、思いだけですまない、そう考えました。きっとやったら結果が出るはずと、結果が出てほしいと。-これが正解かは分かりませんが」
梅田先生はすぐに判定を出さなかった。一拍おいてから、
「山本さんの考えも、面白いと思うわ。正解かの判定は難しいけど、オリジナリティがあるわね。みんなも高校生活は一度しかないから、楽しむんですよ。山本さんは、ちゃんと授業に集中してね」
「はい」
なんとか窮地を脱出したのち、やはり考え事をしていた。放課後の楽譜めぐりのこと。明日香さんがどこで時間を過ごしているか。梅田先生に指されている悟くんのしっかりとした受け答え。
私たちはまだ知らないことがいっぱいある。お互いのこと、バンドをやって将来的にどうしたいか。それを放課後に話そう。少なくても学園祭で演奏するかどうかくらいは決めよう。
そんなことを頭の中でぐるぐるしていると、
「ところで山本さん、また話聞いていないでしょ-」
学生の本分は勉強でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます