第10話 キーボードの得意曲はショパンです

「ごめん。まだ人に聞かれたとき、バンドに打ち込んでいるとは言えないかもしれないけど、精一杯がんばるから。足はひっぱらないよう気をつける」

「優等生は考えることが多いな。めんどくせぇ。ところでそっちの学級委員は詩できたのか?」

「できたよ。こんな感じでどうかな?」

 悟くんが考えてきた詩は友情を描いていて、楽しく元気に活動をする様子が伝わってきた。サビはこんな感じ。

ー出会ったことが僕らの奇跡

ーうれしさが止まらない

ーきっと大丈夫 僕らならなんでもできるさ

 なんか躍動感が伝わってきて、いい曲をつけようと思った。私たちのバンドにベースはいないけど、その代わりができるよう、私のキーボードで工夫してみよう。

「じゃあ私が曲つけるよ。教室戻るね」

 音楽室を出ようとすると、明日香さんがこっちをにらみつけていた。

「その前におまえの演奏聞かせろよ。まだ聞いたことねーんだよ」

 実は私はクラシック専門。バンドの勉強はしているけど、経験値が足りない。さっきは曲をつけるといったけど、見よう見まねをしようとしていた。即興曲などもするから、曲も作れると思いたいけど、演奏はどうだろう?

「僕も聞きたいな。優子ちゃんの演奏」

 悟くんにまで言われて、ピアノの鍵盤をたたく。ショパンの、ノクターン。得意曲だけど、バンドとはイメージが違う。ロマンチックな音色で、お昼時の休憩にはちょうどいいけど、そのため人によっては眠気をもよおす選曲。でも演奏している私は気持ちがいい。普段は人前で演奏しないから。

 案の定居眠りしていた明日香さんが、

「眠るにはちょうどいい曲だな」

「僕はクラシックも好きだから、聞いていて心地よかったよ。優子ちゃんも演奏うまいんだね」

 2人ともバンドのキーボード志望がクラシックの演奏をしたことにはつっこみを入れなかった。ドラマとギターはうまいのに、言い出しっぺの私がバンドをできなかったら、足を引っ張っているのではないか。そう落ち込んでいると、

「おい、バンド辞めるとか言うなよ。おまえがきっかけでおもしれーことになってんだから」

 そんな不安を読み取っている明日香さん。顔色から人の気持ちを読み取っているのかもしれない。

 昼休みが終わりそうだから、教室へ戻る。

 何事にも興味がない私、教師受けの悪い明日香さん、学級委員の悟くん。関係を知らない人は好奇の目線を投げかけてくる。

「バンドの練習は、しばらくで既存の曲で練習しようよ。その方が優子ちゃんの練習になるでしょ。まずあこがれのレモン・スカッシュの音楽を演奏しようよ」

 悟くんの提案で、今後の練習計画が決まる。田口先生に相談して、楽譜を買いにいこう。ついでにCDも買えば、もっと楽しく活動ができる。そういえば、明日香さんのシンバル、迫力あったなあ。もっと聞いてみたい。

「じゃあまた放課後」

 明日香さんは屋上に向かい、私と悟くんは授業を聞く。親に文句を言わせないためにも最低限の成績は維持しなければいけない。バンドを辞めさせられたら困る。の放課後の買い出しを楽しみに、つまらない授業でノートをとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る