第8話 仲間に知られたくないささやかな秘密
しんみりした空気を吹き飛ばすように、私は活動の話をする。どんな曲にするか、どんなバンドを目指すか。
「僕は明るくてポップなバンドがいいな」
「レモン・スカッシュに対抗しているからな。俺もそれがいいと思うぞ」
「2人ともざっくりしすぎな?」
思い思いに話して、悟くんが来週までに詩を作ってくれることになった。私はその詩から作曲をする。ほら、キーボードだから。
「じゃあまた明日、学校でね」
駅で別れて、私たちはそれぞれ帰路にたった。家に入る時、カレーの匂いがしたので、今日はカレーだろう。
「優子、最近帰りが遅いんじゃない? 成績も、普段より落ちてるし。悪くなったらどうするの?」
「青春してるの。今やっと毎日が楽しいんだから。じゃましないでよ」
「それでもねぇ」
今まで私が家と学校の往復で終わっていたことを心配していたくせに、充実させると注意だなんて。勝手なんだから。母親ってくだらない生き物ね。だけど父親は、
「優子が楽しいのが一番だろ。勉強はあとからでもなんとかなるさ」
「あなた、勉強は日々の積み重ねですよ。注意してください」
「まあ優子に任せよう。自主性が大事だ」
リビングのソファーで、2人は話していた。わきのイスで本を読んでいる私には筒抜け。それが狙いだろうけど。
でも、お父さんは私に甘いな。確かに、お母さんがいうように勉強は大事だと思う。でも、私は勉強が好きなわけじゃない。他にやることがなくて勉強をしていた結果、できるようになっただけ。それで、今やっと自分がやりたかった青春をするべき準備ができた。青春しないと。そのためには親の意見なんて聞いていられない。強く思った。その上で、
「私のカレー、今度からみんなと同じ中辛にして」
「なに恥ずかしがっているの? あきらめなさい。甘口しか食べられないんだから」
夕飯時に一人だけ甘口のカレーを食べていることを明日香さんに知られたら、なんて笑われるか。とにかく中辛のカレーくらいは克服せねば。
がんばれ、私。
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