第6話 部室でおしゃべり

放課後の部室、机に寄りかかりながら生物室で2人に話しかける。

「悟くんと明日香さんが話しているとこ見たことないけど、先生たちは2人が幼なじみって知っているの?」

 悟くんは苦笑い、明日香さんはめんどうくさそうな顔をした。

「とりあえずこいつにはめんどうかけたくねーから。家が近いだけのふりしてんだよ。こいつまでセンコーにチェックされたらめんどうだしな」

「明日香ちゃんには好きにしてほしいしね。つらい思いもしたし。もちろん、法律とか非人道的なことはだめだよ」

 なんで明日香さんが停学常習者なのかはまだ不明だけど、きっと事情があるのだろう。先生たちへの態度はほめられたものではないけど。

 そんな私の考えを見抜いたかのように、

「俺、妹が消えてからなんだよ。荒れたの。前からかっこがこんなんだったからセンコーからは目をつけられてたけどな」

 当時を思い出すかのように寂しげな明日香さん。もしお姉ちゃんが死んだら、私は荒れるだろうか。たぶん、荒れないだろう。お姉ちゃんは好きだけど、そこまで大事にしているわけじゃない。嫌いだけど、嫌いじゃない。

 そんなに大事にしていた妹さんがいなくなって、どんな気持ちだっただろうか。さみしくて、お風呂で泣いた日もあっただろうか。急に黙って彼女を見つめる私に気づいたかのように、

「お前なに考えてんだよ! 同情はかんべんだぜ。あんまりめんどうなことすると、仲間でも殴んぞ!」

 怒鳴り始めた明日香さん。でも目は怒っていなくて、つらそう。言葉は強いけど、悟くんの言葉を聞くと、まるで強がりに聞こえる。彼女は自分の感情を、誰かに伝えられるのだろうか?

「ごめん。でも泣きたいときには泣いたほうがいいと思うよ。悟くんとかに」

「明日香ちゃんは僕にとって妹みたいなものだから、泣いてくれるとありがたいな」

「てめえら、バカにしてんのか?」

 こめかみを動かしながら、今度は怒ってしまった明日香さん。でも、強がりより怒りのほうがずっといい。泣けないときに、涙を流せる人がいい。仲間には正直であってほしい。

 バンドをする上では練習も大事。だけど仲間の雰囲気のほうがもっと大事じゃないかな。私たちは友達に近づいている。ただのクラスメイトから友達へ。

 今は部室でおしゃべりをすることが多い現状。でも音楽室が使えるようになったら、練習もちゃんとして、できれば文化祭で演奏したい。

 田口先生から音楽室の使用許可が出るのを待つ間、私たちは親睦を深めていく。明日は放課後にゲームセンター。音ゲーというものを使い、音楽の感覚を磨くのだ。私はゲームセンターに行くのが初めてだから、すごくワクワクしている。

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