第5話 ガールズバンドの3人目は男の子?

「三月くん、ポスター見た?」

 おそるおそる質問すると、意外にも三月くんは興奮して話しかけてきた。

「もちろんだよ! レモン・スカッシュを目指しているんだろ? 僕、明日香ちゃんに誘われてうれしかったよ。僕はレモン・スカッシュに入れないけど、彼女たちのようにバンドを組みたかったから」

 早口にまくしたてる様子は、普段HRを冷静に進める姿とは大違い。

 私たち3人は、共通のバンドを目指している。追いつけ追い越せとは言わないけれど。同年代でバンドを組んで、何かをしたい。

 成績はいいほうだけど、特徴のない私、山本優子。不良少女のようだけど、意外と優しい石川明日香。学級委員長でみんなをしきる、日本語的にはおかしいけどガールズバンド唯一の男子、三月悟。幼馴染の2人も、バンドを組みたいとは言ってなかったようで、私が呼びかけて初めて3人が集った。

 田口先生から許可された生物室で、レモン・スカッシュの曲を流した。

―飛び越えたい そう思ったのはいつからだろう

―自分たちならなにかできるって信じてた

―何もない私たち なんでもある私たち

ー自分を買えるのは自分だけなんだ

「私たちも、こんな曲作ろうよ。せっかく同好会作ったんだし。活動しよう」

「俺たちもなんか名前つけるか。曲なんて作れる気がしねーけどな」

「僕たちのバンド名は、レモン・スカッシュに対抗してクリーム・ソーダにしない?」

 言い合ってたらいい名前が聞こえてきた。さわやかな夏色の名前。

「シュワシュワした甘い雰囲気、すごく気に入った!」

「いいんじゃねーの」

 レモン・スカッシュの曲を聞きながら、自分たちのバンド名が決まる。今日から私たちはクリームソーダ。曲作りは指令塔の三月、いや悟くん。親近感を抱くため、名前で呼び合うことになった。まだ慣れないけど。

 今日はいい日だ。思わず上機嫌でお風呂に入っている。もう私は青春している。高校生活が始まって初めてわくわくしている。自分がやりたいことをやるって、こんなに楽しかったんだ。

 新たな一歩が進んだ。レモン・スカッシュのまねをして、バンドができて……。これからどうしようか、そう考えていたら、

「優子、いつまでお風呂に入っているの? 後がつっかえているわよ」

 怒られてしまった。

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