第13話 始まりの少女2
(だから二人じゃ無理だって言ったとおりに
なったね。)
「うるさいわよ、ヴル。私も最初からそう思
ってたんだから。修太郎が体調悪いって言う
から加奈子も置いて仕方なく健と二人になっ
ちゃっただけじゃない。そもそもあんたがこ
の話を持ってきたわけでしょ。もっと詳しく
話しなさいよ。」
(おいらだって詳しくは知らないんだよ。で
も理由は話せないし、知ってても話しちゃい
けないんだって。)
「なんだよ、それ。っていうか、今さらりと
二人で僕を馬鹿にしてなかった?」
「さらりじゃなくて、存分に馬鹿にしている
わよ、何時ものことだけど。」
「やっばり。」
そう言われても健には応えた様子はなかっ
た。何を言われても応えないところはもしか
したら修太郎を超えているかも、と理恵は思
っていた。
「いずれにしても、仕切り直しだ。」
二人とヴルトゥームは駅に向かって歩き出
した。
「変な人たち。何だったんだろう。」
瞳はなんとか自宅に戻った。荻窪の駅から
徒歩15分の2階建てのアパートの2階で一
人暮らしをしている。
瞳は中高一貫の女子高である私立光翔高校
の1年生だった。吉祥寺駅から徒歩で少しの
所にあるのだが吉祥寺駅周辺では部屋が見つ
からなかったので、ここに住んでいる。両親
は昨年交通事故で二人とも亡くなってしまい、
他に引き取ってくれるような親戚もいなかっ
たので今年の3月から入学に合わせて一人暮
らしをしている。幸い両親の保険金が入った
のと持ち家を売却したお金があったので、し
ばらくは生活に困らない筈だった。
「私のお金が目的なんかな?」
他には全く心当たりがなかった。いや、違
う、別のあの二人は誰かに私を探すように頼
まれた、って言ってた。
「まあ、それも本当かどうか分かんないよね。」
ふと気になってカーテンを少し開けて外を
見てみた。電信柱の影(なんとベタな張り込
みの仕方なんだろう。)でこっちの様子を伺
っている二人の男が見えた。直ぐにカーテン
締めたが見られたかもしれない。
「駄目だ、ここも知られている。一体なんな
のよ、私が何をしたって言うの?」
瞳は直ぐに行動に出た。部屋に居たら、乗
り込まれてしまう。あるだけの現金と携帯だ
けを持ってそおっと部屋を出た。表からは見
えないように敷地の裏に出て、あまり高くな
いフェンスを乗り越えた。隣の一軒家を突っ
切って裏手の道路に出てすぐに走り出した。
「なんとか、これで撒けたかしら。」
陸上部から誘いが来るほど瞳は足には自信
があった。駅まで走ると電車に乗り新宿に向
かった。紛れるには人が多い場所、と考えた
からだ。特に土地勘があるわけではなかった
がカラオケボックスやネットカフェなんかも
沢山あるので身を隠せる、と思ったのだ。
「誰かが居てくれると心強いんだけどなぁ。」
友達に連絡を取ろうと思ったが巻き込むわ
けにはいかない。金曜の夜なので土日を外で
過ごして月曜日の朝にアパートに戻るつもり
だった。
ネットカフェを見つけて入ろうとした時だ
った。
「彩木瞳さんですか?」
同年代の高校生に見える男の子に声をかけ
られた。4人とも勿論知らない顔だ。とっさ
に嘘を吐いた。
「いえ、違いますよ、ごめんなさい急いでい
るので。」
立ち去ろうとしてた瞳の腕を男の子の一人
が掴んだ。
「嘘だろ、間違いない、彩木さんだよね。」
強引にその手を振りほどいて瞳は走り出し
た。
「しまった、追え!」
呆気に取られてしまって一瞬対応が遅れた
高校生たちは直ぐに追いかけようとしたが人
ごみの中、なかなか追いつけなかった。
「なんでここに居るのが判ったんだろう?」
思いついて逃げてきた新宿で、すぐに声を
掛けられたのは不思議だった。
「まさか、発信機でも付いてる?」
そんな映画みたいなこと、と思ったが、そ
もそも自分が色々な人に探されていること自
体があり得なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます