第10話 遠藤修平8
「俺が姉と慕っている女性がいることは話し
たことがあったかな。実際には姉じゃなくて
叔母さんの娘で沙織って名前なんだが今日行
った恩田総合病院の院長の息子の恩田幸二郎
って人に嫁いで滋賀県に住んでいたんだ。」
「いた?」
「そう。数年前までは滋賀県に住んでいた。
そして、今も滋賀に居る。」
「少し気になる言い方ですね。」
「数年前、沙織姉さんは病気で亡くなったん
だよ。」
「なるほど、それで『住んでいた』なんです
ね。でも、今でも『滋賀県に居る」とは?」
「今でも滋賀県に居るんだよ。沙織姉さんが
死んだ、というのは、そう聞かされた、とい
うだけで遺体も見てないし葬式も何もあげて
もいない。死んだと聞かされて会っていない
というのが本当のところだ。」
修平は話し難そうに話す。よほど慕ってい
たように見える。
「叔母さんの旦那さんは新山と言って琵琶湖
大学で生物学の教授をやっている。そして幸
二郎さんは同じく琵琶湖大学医学部で准教授
をしているんだ。その二人が『沙織は死んだ』
って言うんだ。でも一度幸二郎さんが口を滑
らせて『沙織には会えない』って言ったんだ。
俺は聞き逃さなかった。問い詰めるとなかな
か口を割ってくれなかったけど最後は全部話
してくれた。」
ここからが話の肝のようだ。
「話はこうだった。沙織姉さんは確かに病気
で死の淵にあったらしい。そのままならすぐ
に本当に死んでしまう、という段階まで達っ
したところで、蘇生させる余地を残すため仮
死状態にして保存措置を施してある、と言う
んだ。新山教授と恩田助教授。生物学と医学
の二人で蘇生させる、その準備をしているん
だと。」
「そんなことが可能なんでしょうか。」
「俺もそう言った。それは冒涜的な行為なん
じゃないかと。でも二人は真剣だった。真剣
に沙織姉さんを生き返らせようとしていたん
だ。そして、先日それは成功した。」
「えっ、成功したんですか。」
「確かに一旦は成功したらしい。意識も戻っ
て話が出来た、というんだ。仮死状態にする
直前には全く意識は戻らなかった、というの
に。」
「本当の話なんですか?」
「嘘をつくような人たちじゃない。二人とも
沙織姉さんを愛していた。それは間違いない。」
「とすると、その話は。」
「本当のことだと思う。そして俺はこの間沙
織姉さんに会わせてもらった。」
「ああ、この間関西に行く、って言って数日
留守にしておられましたね、あの時ですか。」
「そうだ。俺は会った。確かに沙織姉さんは
生きていた。手を触ると体温が感じられた。
でも、蘇生してすぐに会話できたあと、また
意識を失って二度と目覚めなくなってしまっ
たんだ。結局仮死状態から植物状態に変わっ
ただけだった。」
修平は一息ついた。修平の願いはここまで
聞けば想像が付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます