第9話 遠藤修平7
それから修平は今までの事情を話し始めた。
最初にその男と出会ったのは、つい先週の
ことだった。皆とカラオケを楽しんた後、一
人ベースに戻ろうと歩いていた時だった。街
灯が切れている公園の中を突っ切ろうとした
修平の前に、なにかぼうっとした灯が見えた。
それは、言わばオーラのように人の周囲に
纏わりついた、ゆらゆらとした灯だった。そ
の灯は、その男から発しているようだった。
「誰だ?」
修平はその男に声をかけた。すると男は応
える代わりに、そのまますぅーっと宙に浮い
たのだ。2階の屋根位の高さまで上がると、
その位置で男は手から火の玉のようなものを
公園に向かって投げおろした。火の玉は地面
に当たると小さな爆発を起こして砕け散った。
「何だ、何をしたいんだ?」
修平は訳が分からず問いかけたが、応えは
なく、男はそのまま飛んで行ってしまった。
「ゆっ、夢だったのか。高弥に行っても信じ
てくれないだろうな。」
少し呆然としていたが、すぐに我に戻った
修平は辺りに何かトリックのようなものがな
いか探してみた。しかし特に何も見つけるこ
とはできなかった。
「本当に何だったんだ?」
その問いに答えるものは誰もいなかった。
その数日後、また同じように修平が一人公
園の中を歩いていた。実は態と数日同じ時間
帯に公園を一人で歩くようにしていたのだ。
そして、その男が現れた。
「おい、いい加減にしてくれ。何者なんだ、
あんた?」
今度の問いには、男は応えた。
「僕のことが怖くないのか?」
「怖いさ、理由が判らないからな。ただ理由
さえ判れば怖いない、と思っている。」
「なかなか肝が据わっているらしい。この間
見せたものは真実だと思うか?それとも何か
のトリックだと?」
「タネを探してみたが見つけられなかった。
だからあれをトリックだと断定することはで
きない。ただし真実だと認めるに足る証拠も
無いけどね。」
「それでいい。見たものが全て真実だとは限
らない、ということを理解しているのなら、
それで十分だ。そこでだが、実は頼みがある
ので、聞いてはくれないだろうか。僕には組
織立って動ける仲間が居ないんだ。」
「頼み?何をしろ、っていうんだ?」
「ある少女を探して欲しい。できればその子
を確保してくれればとても助かる。」
「なんだよ、人攫いでもしろっていうのか。」
「人聞きが悪いが、そう言われても仕方のな
い依頼ではある。」
「なんでそんなことを?その子は一体何者な
んだ?」
「それは言えない。言えない理由も言えない
んだ。理由を言えない理由も言えない。」
「なんだそれ。揶揄っているのか?」
「いや、いたって真剣だし切実な願いでもあ
る。本当に手伝ってほしいんだ。」
「じゃあ、なんで俺のところに来たんだ?」
「それも言えない。ただ、君が少女の確保に
成功した時には君の願いを叶えてあげる用意
がある、と言えば少しはやる気になってくれ
るかい?」
修平には叶えたい願いがあった。ただ、そ
れは自分の力ではどうしようもない事だった。
金ではどうしようもないことだったからだ。
その修平が叶えようのない願いをこの男は
知っているようだった。
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