第5話 遠藤修平3

「修平さん、ここに居ても出来ることはあり

ませんよ。」


「判っている。亮太の仇も必ず打つ。俺たち

に手を出したことを後悔させてやる。」


「穏やかではありませんね。あまり無理しち

ゃ駄目ですよ。亮太もそんなことは望んでい

ないはずです。」


「行くぞ。」


 高弥の言葉を遮るように修平が立ち上がっ

た。


「戻ったらお前のことを根掘り葉掘り聞きだ

してやるから覚悟しておけよ。」


 意識のない亮太に向かってそういうと修平

たちは病室を後にした。



「それで、どうします?」


「とりあえず、女のアパートだ。周辺を張っ

てる奴らを探す。」


「荒事になります?」


「かもな。お前たちには危険が及ばないよう

にするから安心しておけ。全部俺が引き受け

る。」


「いくら修平さんでも数が多いと無理かも知

れませんよ。渉と祐作はベースに戻して私と

二人で行きましょう。」


「高弥が来るのか?」


「私の喧嘩は見たことないでしょ?」


「無いさ。想像もできない。」


「まあ、足手まといにはなりませんよ、行き

ましょう。」


 遠藤修平と結城高弥は修平のバイクで探し

ていた女のアパートへと向かった。


 荻窪駅の近くにそのアパートはあった。閑

静な住宅街なので周辺に怪しい者たちがいれ

ばすぐに分かった。


「おい、お前たち、お前たちかうちの亮太を

やったのは?」


「なんだお前?どこの組のもんだ?」


 明らかにその筋の者数人に修平が声をかけ

た。


「だから、お前たちがうちの亮太の頭を殴っ

たのか、と聞いているのだ。」


 筋者はあっけにとられていた。筋者と言っ

ても若い。チンピラと呼ばれる類だ。当然血

気に逸っている。


「そりゃ何の言いがかりだぁ、死にたいのか

お前。」


「死にたくはないね、だから穏便に聞いてい

るんだ。お前たちが亮太を殴ったのか、と。

いい加減理解しろよ。」


 修平は完全にわざと喧嘩を売っている。高

弥はすぐ後ろにいたが口を挟まなかった。た

だし筋者の数人全員に気を配っている。突然

襲い掛かってくる可能性が高い。但し、その

つもりで対処すればいいだけだ。


「舐めんのもいいかげんにしろ!」


 いきなり素手で殴りかかってきた。拳銃や

ナイフの類は持っていないようだ。そういっ

たものを持っていたのなら亮太の時に脅しに

使っているだろう。


 喧嘩はあっという間に収まった。修平と高

弥が二人づつを行動不能にするのに1秒もか

からなかった。修平は格闘技をいくつか齧っ

ていたが我流だ。高弥はどちらかと言うと何

かの拳法の使い手に見えた。高弥は修平の強

さを何回も目の当たりにして知っていたが、

修平は高弥が拳法をやっていたとは聞いてい

なかったし、もちろん見るのも初めてだった。


「なんだよ、高弥。強いじゃないか。今まで

俺が全部捌いてきたのも、お前が代わりに捌

けたんじゃないか?」


「まあ、そうですが、私は面倒なことは避け

る主義なので。」


「それで俺任せか。まあいい、おい、お前た

ち、さっきの俺の質問は理解できたか?」


「しっ、知らんわ。ここであの部屋に戻って

くる女を攫ってこい、と言われただけでまだ

誰も襲ってないって。」


 ただのチンピラで亮太の件では部外者だっ

た。兄貴分から命令されただけで女を攫う理

由も知らないもとのことだった。


「どうします?」


「他にもいる筈だ、探そう。」


 二人はその後四組の張込み組を見つけた。

1組は昔の渋谷系チーマーの成れの果て。1

組は別の筋者たち。1組は修平たちより少し

上の学生。もう1組は修平たちが近づこうと

する前にその場を去ってしまったが、どうも

雰囲気からして公安あたりの警察関係者のよ

うだった。

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