第2話 物語りが始まる

 結局その夜は少女を再び見付けることができなかった。学校が始まる時間前に亮太たちが戻ると遠藤修平は結城高弥を伴って私立青陵高校に向かった。亮太たちにも一度戻って学校に行くように言いつけた。できるだけ休むな、と普段から言ってあるし、自らも2年になってちゃんと通い出してからは休まないようにしている。人と人との出会いが一番大切だと思っている修平にとっては学校は恰好の出会いの場だと発見したからだった。



「うちの大将は何を考えているんだろうな。」


 桜井亮太が不思議がるのももっともなことだった。亮太たちに一晩中見張りをさせたりするようなことが今まで一度もなかったからだ。つるんで騒いだりするが修平は亮太たちをこき使うことなどなかった。それが言葉遣いも荒々しく指示というより命令する口調で亮太たちを怒鳴りつけたのだ。


「よっほどのことがあるんだろうよ、あの女には。でも誰かに頼まれたって言ってたよなぁ。信一、何か聞いてるか?」


 西口信一も亮太と同じ青陵高校の一年で同じクラスだった。但し、考えることが苦手なタイプで亮太にただつきあっているだけ、という立ち位置だった。当然、修平から何かを聞いている訳がない。


「渉も祐作も知らないだろうしな。結城さんは知ってるかも知んないけど。」


「俺、結城さんはちょっと苦手。」


「俺も得意じゃないさ。でも修平さんの懐刀だし。修平さんが投資で儲けているのは、もちろん修平さんの元々の資産があったからだけど増やしたのは結城さんらしいぜ。だから俺たちが修平さんの金で遊ばせてもらってるのも実は結城さんのお陰、って訳だ。」


「そうなんだ、全然知らなかった。」


「俺も詳しくは知らない。まあ、誰のお陰でも関係ないって。」


 二人は暢気なものだった。いつもは、それで問題なかったのだ。ところが昨日はいつもと違っていた。急に収集がかかったと思ったら写真をスマホに送られて「その子を探せ」


 と言われたのだ。こんなことは初めてだった。



「亮太たちには悪いことをしたな。」


「まあ、たまにはいいでしょう。あいつらは修平さんの金で遊ぶためだけに集まって来るんですから。」


「そうは言うが、あいつらを手下みたいに使うために集めているつもりがあった訳じゃなかいからな。」


「これからはそうも言っていられない事態になるのでは?」


「確かにな。お前にも存分に働いてもらうことになる。頼むな。」


「判ってます。でも、修平さん、あの男は本当に信用できるんでしょうか。」


「お前は見てなかったから、そう思っても仕方ない。俺は色々と見せてもらったからな。いずれ詳しく話してやるよ。」


「わかりました。私は修平さんについて行くと決めていますので、修平さんが信用しているのなら私も信用することにします。」


「いや、信用している訳ではないんだが、奴の力は本物だろう、それは間違いない。」


「そうですか。いつか私もそれを、この目で見る機会があると、よりいいのですが。」


「そう遠くないうちに、奴がまたやって来るだろうから。あの子を探しだしたのはお前の手柄なんだから、そう言って奴の力を見せてもらうといい。」


 チャイムが鳴り午後の授業の始まりを告げたので二人は急いで教室に戻るのだった。





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