始まりの少女(クトゥル-の復活第7章)

綾野祐介

第1話 プロローグ


「あっちか。」


「探せっ!、絶対に逃がすな!!」


 言葉だけ聞くと闇の組織かのようだが、声が若い。まるで少年だ。


「ちくしょう、どこに行きやがった。」


「お前たち、逃がしたらどうなるか、覚悟はできているんだろうな。」


 リーダー格の少年が威嚇するように叫ぶ。


 誰かを探しているようだが、夜の雨の中、一度見失ってしまったら、もう探し出すことは困難たっだ。日本一の繁華街からは少し外れているとはいえ、この時間でも開いている店はある。それでも路地に入り込むと暗くて隠れる気でいる者を見つけるのは至難の業だ。


「闇雲に探していても埒が明かない。一度戻るぞ。」


 リーダー格の少年の指示で一度拠点に戻ることにした。


 拠点はリーダー格の少年の家だった。少年の家の駐車場の2階に少年たちが騒ぐためだけの部屋があった。親は少年を管理することを放棄している。酒もたばこも好き放題だった。ただ、ドラックだけは少年が許さなかった。


「薬に手を出す奴は人間の屑だ。」


 リーダー格の少年の口癖だった。


「遠藤さん、どうします?」


「そうだな。とりあえず家は判っているんだ、気長に張り込むしかないか。」


「それはいいんですが、そもそもあの女は何なんです?」


「いや、俺もよくは知らない。ある人からの依頼で探しているだけだからな。」


「そうなんですか、俺はまた遠藤さんが気があるのかと。」


「馬鹿野郎、そんな訳ないだろ。確かにいい女だったがな。女と言うより美少女か。いずれにしても俺たちのような半端者からは高根の花ってやつだ。」


「そうですね、遠藤さんにはもったいない。」


「亮太、何が言いたい?」


「いえいえ、何も。」


「だったら、すぐに張り込みに行け!」


「わかりましたっ。」


 亮太と呼ばれた少年が他に二人ほどを連れて出て行った。


「漫才は終わりましたか。」


 少年たちのグループでリーダー格が遠藤という、この部屋の主だったがナンバー2でグループの頭脳がこの結城という少年だった。


「お前も黙ってないで亮太を何とかしろ。」


「私はトリオ漫才をする気はありませんよ。」


「まあいい、ところで結城、お前の叔父さんは確か新聞記者だったな。」


「そうですが、元、ですよ。今は何だか世界中を飛び回っているみたいです。変な宗教か何かに嵌ってしまったと母親がぼやいてました。」


「連絡はとれないか?」


「どうでしょうか。母親ならLINEとかで繋がっているかも知れませんが。聞いてみた方がいいですか?}


「頼む。できれば連絡先を教えてもらってくれ。」


「判りました。重要なことですね。」


「そうだ。」


 遠藤と結城の間では多くの言葉は不要たった。


 遠藤修平は17歳、高校2年生。結城高弥も同じ高校の同級生だ。桜井亮太は、こちらも同じ高校だが1年生で二人の後輩だった。


 遠藤の父親は肩書は不動産屋だが、別に職についているわけではなく、古くからの土地持ちで様々な貸方で賃貸収入を得て生活している。都内にいくつも貸ビルを持っているので会社にして税金対策をしているだけだ。


 父親は自らがアクセクと働く生活をしていないので息子である修平には甘かった。母親は一年のうち八割を知人と海外で過ごし、修平の世話は家政婦に任せっきりの女だった。


 但し、修平は親のすねを齧っているだけで満足している性格ではなかった。どっぷりとネットにはまっていた中学時代を過ぎると、元々体を動かすことも好きだったこともあり頻繁に学校に通い出し、そこで結城と知り合ったのだった。


 この物語の序盤は、この二人の青年を追っていくことになる。

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