第13話)安定=崩壊
早いもので、あれからもう五年の月日が経過していた。二人はとても仲睦まじく、その時間をいつも寄り添って暮らしていたのだが、そんな幸せな毎日であるにも関わらず、幸せな筈の優矢は狂気の奈美に殺されてしまうという悪夢に何度も何度も魘され続けていた。しかもそれは、現実に起こったかのような鮮明さであり、現実に起こりうるようでもあった。
まるで、そう。答えの出ない問題を前にして愕然としながらも、どうにかして解けないものかと思案しているような、あるいは、答えの出る問題を前にして解くべきか解かざるべきか思案しているような、つまりはそのような矛盾を前にしてどうしたら良いものかと、思案していたのだった。
空に雲一つない昼下がり。
「………」
奈美の部屋のベランダで、優矢はその悪夢の事をこの日も考えていた。
「………」
そんな優矢の背中を時折、顔を上げて見つめては幸せそうに微笑んでいる奈美は、赤いシーツに覆われたベッドのすぐ横で乾いた洗濯物を丁寧に畳んでいたのだが、そんな奈美もふとあの時、もう一つの選択肢を選んだ場合の未来を想像する事があり、まさに今もそうであったのだが、その未来とは自身の欲望のままに優矢を刺し殺してしまうという結末で、それは後悔を通り越して絶望でもまだ足りない程の過ちで、そんなバカな事をせず本当に良かったと心の底から思う奈美は、優矢に何か声をかけてもらおうと思い立ち、洗濯物から愛しい人へと視線を移した。
「………」
優矢もその時、以前から奈美に聞きそびれているある事を思いきって訊いてみようと振り返った。
「「あっ。えっ、と」」
それが同時だったので、二人は思わぬ展開で目と目が合ってしまった。
「も、もしかしてアタシの事、見つめたかったのかな?」
少しの沈黙の後、奈美は照れ隠しのつもりでそう言った。
「いやその………うん。今日も可愛いなって思って」
暫しの黙考の後、優矢はその照れ隠しに乗った。
「ああーっ、ウソツキさんだぁー。どうせ、ユウヤはアタシの事、もうオバサンだなって思ってるんでしょ?」
奈美は少し拗ねた素振りでそう言ったが、そう言ってすぐ、本当にそう思われていたらどうしようと不安になった。そして、それが理由で優矢の心が自分から数ミリずつでも離れていったらという想像に脳内を支配された。
奈美の精神が左に傾く。
「アネキが何歳だからなんて、そんなの関係ないよ。だって、二十歳のアネキが好きとか、三十歳のアネキが好きとかなんじゃないもん。オレはアネキを愛してる。何歳でもアネキはアネキだろ? だから、何歳でもイイのです」
優矢は自身が思っている当たり前の事を当たり前のように告げた。
「ユウヤ………それ、ホント?」
優矢が当たり前のように言ってくれたので、奈美はもっともっと言ってもらおうと思ってそう訊いた。
「うん。勿論だよ。大袈裟に聞こえるかもしれないけど………オレね、アネキが目が見えるから好きになったワケじゃないし、耳が聴こえるからでもない、口が利けるからでもなく、歩けるからでもないし、走れるからでも掴めるから握れるからでもない。オレが愛してるのは、まず何よりもアネキです」
少し照れくさそうにではあったが、優矢はそう即答した。
「じゃあ、じゃあ、例えばさ。七十になっても、八十になっても、九十歳になってヨボヨボになってても、それでも変わらないでいてくれる?」
少ししつこいかなと感じつつも、奈美は続けて訊いてみた。
「もっともっと好きになってるかもしれないよ? でも、ずっと傍に居てくれないと証明できないよね。困ったな。どうしよう?」
優矢は答えを求めるように返した。
「そ、そんなの決まってるよぉー。だって、だってアタシ、ユウヤの傍にずっと居るもん」
「ずっと、って例えば何百年とか、何千年とか?」
奈美はすぐに返したが、
優矢が更にすぐそう返す。
「勿論そうだよぉー! って、それは、居たいけどさ………そんなだときっとアタシ、凄いシワシワのお婆ちゃんだし………それでもイイ? って言うか、離れてあげないよ? アタシ、絶対に離れないよ?」
奈美は自信なく訊いた。
「うん。でも、さ。オレもシワシワのお爺ちゃんだけどね」
優矢は何十年か先の二人を想像しながら答えた。
「あっ、そっかぁ………じゃあ、じゃあ、2人でシワシワさんだね」
奈美も同じく。
「「………」」
二人共に、そうだとしても全く悪くないなと思った。
「アタシ、ユウヤの居ない毎日なんてもう2度とヤダもん」
もう二度と離れたくないという強い思いが、奈美の優矢への想いに重なる。
「アネキ、ずっと傍に居てください」
優矢は真面目になって告げた。
「はう、う。ユウヤぁ………うん! ずっと傍に居させてください」
言ってほしいと思っていた言葉を優矢が言ってくれたので途端に幸せが満ち満ちた奈美は、幸せに満ち満ちた表情と声で告げた。
左に傾いていた精神が、
右へと重心を戻していく。
「えへへ、幸せ感じちゃった。ユウヤ、ありがと」
愛されているという自信が例え小さくなったとしても、傍に居れば想いは伝え合えるし、伝え合ってさえいれば笑顔はその心に必ず宿る。
二人の精神は今、右に行く程に安定するが左に行けば崩壊してしまう橋の上に立っているようなモノで、現実という壁が高く、そして厚く塞いでいて右の方へは僅かしか行けず、一歩でも左へ行けば容赦なく崩壊が始まるというギリギリの所にいる。
些細な事でさえ不安になればその度にグラグラと足元は揺れ、いとも簡単に左に傾いてしまうそんなギリギリの所、二人が想いに正直に生きたいと抗う限り、そんな状態が無情にも永遠に続く。二人が選んだ道は残念ながらそういう道で、二人は脆く危うい精神状態にあるのだ。
「あ、そうだ」
洗濯物を綺麗に畳み終えた奈美が、不意に何かを思い出した。
「そう言えばユウヤさ、何か言おうとした事があって振り向いたんじゃなかったの?」
奈美は何気なく訊いた。
「あ、えっと。それは」
奈美にそう訊ねられた事で、ベランダに背中を預けながら外に広がる青空を眺め始めていた優矢は、何度も夢に出てきていたアノ事を訊くつもりだったという事をすぐに思い出した。しかし、訊こうと振り返った時にはたしかにあった勇気が今はすっかりと消え失せてしまっていたので、それを実際に訊いて確認するべきかどうか、どうするべきか迷う。
それは何度も聴きそびれていた事だったので、訊きそびれるという事は訊かない方が良いという事なのではないかという考えと、何度も夢に出てきてはその度に魘されてしまうので気になって仕方がないという思いが、優矢の頭と心それぞれで激しく自分を選べと自己主張をしていた。
「ユウヤ?」
「………っ」
いつかきっと見なくなるだろうと思う事にしていたけれど、五年という年月が経過した今になってもまだ夢に出てきてしまうアノ事とは、奈美と優矢が再会した日の翌朝から奈美はきっとずっと隠し持っていたであろう刃物の真意についてであった。それは勿論、キッチンにある方のではなく、お風呂上がり後くらいから優矢に気づかれないように隠し持っていた方のである。
「どうしたの?」
「うん………っ」
あの日は何処にも外出しておらず、家の中をずっと二人きりですごしていた。奈美は食事の時以外は殆ど全裸で優矢にベッタリだったので、厳密にはずっと携帯していたとは言えないのだが、夕食の支度を始めた頃にはその日の朝の入浴の際に奈美自身が用意していた衣類を着ていたので、少なくともその時からは間違いなく携帯していた筈だ。
「ねぇ、ユウヤ?」
「………」
なので優矢は、朝から心の準備をしようと試みるに至ったのだが、奈美はその刃物を優矢に向ける仕草を一切見せないままに夜は更けていき、その後、何故かキッチンにある方の刃物を手にした。あの時はその理由を考えている余裕なんて微塵もなく、次の日から何日間か寝込んでしまった程の極度と言える緊張と多大と言える疲労の連続だったので、その事を再び思い出したのは、数日が経過した後であった。
「ユウヤ? ねぇ、ユウヤ?」
「………」
何日か経っていた分だけ奈美の幸せそうな微笑みや振る舞いが胸を突き、それが優矢の心に躊躇を生んでしまった。だから、訊こうと思っても訊けなかったのだが、わざわざ朝から用意しておいたのにも関わらず使用しなかったアノ刃物の存在理由が気になって仕方がない。しかも、それが原因なのか悪夢を何度も何度も見てしまう。考えれば考える程に、優矢は不安に苦しめられていった。
左へと傾いてしまう程に。
「ねぇ、ユウヤ!」
思い詰めたような優矢の表情を見るにつれて、体調が急に悪くなってしまったのではという心配が膨らんでいった奈美は、優矢にそう声をかけながら慌てて駆け寄った。
「え、あうっ!」
その時、駆け寄ってくる奈美に漸く気づいた優矢は、駆け寄ってきたその奈美と悪夢で見るあの奈美がガッチリ重なってしまい、焦燥を通り越して恐怖におののき、ビクンと後ずさりした。
「うぐっ!」
が、しかし。ベランダの壁に行く手を阻まれる。
「えっ、急にどうしたの?」
そんな優矢を見て酷く避けられたような気持ちになった奈美は、途端に悲しみが湧き上がってそれに支配され、泣きそうな表情を見せた。
足元が激しく揺れる。
「え、あ、その、か、かかか、考え事してて、そ、そ、それで、その、気づかなくて、だから、えっと、ビックリして、その、ゴ、ゴメンね………」
悪夢の内容なんて知る由もない奈美なのに、それでも心をすっかり悟られたような気がした優矢だったが、今にも泣いてしまいそうな奈美に気づいた途端、悪夢と重ねて後ずさりしてしまった事を激しく後悔し、とにかく謝らなければと慌てて言い訳した。
足元の揺れが激しさを増す。
「そ、そうなんだぁ………アタシね、気分が悪くなったのかなって思って、それで、凄い心配になっちゃって、だから、その、驚かせるつもりじゃなかったの。ホントに、その、驚かせてゴメンなさい。許して、ユウヤ」
優矢の言う事情を疑う事なく素直に受け止める事が出来た奈美は、嫌われたワケではなかったようだと心の底から深く安堵しつつ、自分もキチンと謝ろうと心の内を話した。
揺れが収まる。
「ううん。そんな、オレが悪いんだよ。アネキ、ゴメンね」
あんな悪夢と重ねてしまった事を激しく反省する優矢は、もう一度そう謝りながら奈美をギュッと抱きしめた。
「あ、う、はう、う………あああの、アタシの方こそ、その、ゴ、ゴゴメンなさい」
奈美にとっては突然と言えば突然、優矢にギュッと抱きしめられたので、その高揚感で如実にポーッとなりながらも、心の底からもう一度謝った。すぐさま、高揚感は幸福感に塗り替えられていき、めくるめく桃色な世界が奈美を手招きする。
「アネキ、ゴメンね。んっ」
「んんっ、ん、んくっ、ん」
揺れが弱まり、
「ん………ゴメンね、アネキ」
「はう、う。ユウヤぁ………」
そして、収まる。
「あ、あの、さ。何の話ししてたんだっけ?」
どうやら奈美を傷つけずに済んだようだと安堵した優矢は、このまま先に進んでしまおうと思ったのでそう訊いてみた。
「えっ、と。あ、ああああの、えっと、えっとね」
優矢に抱きしめられキスされた事で奈美は、このままもっと他にも………と、完全に目眩く桃色な世界の住人へのエントリーを済ませていたのだが、激しく残念ながら優矢にはその気が全くないようだと気づき、気づいた途端にそれによってそんな自身に猛烈な恥ずかしさを感じ始めて焦った。
「たしか、その」
なので奈美は、それを優矢に気取られないよう一生懸命に平静を装いながら、何の話しをしていたのか思い出そうとした。
「えっと」
が、しかし。少しも思い出せない。なので、思い出すのは諦めて話しを変える事にした。
「あ、そうだ。ユウヤさ、さっき、考え事しててって言ってたでしょ? それってさ、何を考えてたの?」
それこそが実はビンゴだとは気づくべくもなく、奈美は努めて何気なくといった装いで優矢に訊いた。
「そ、それは、その………」
優矢は途端に口ごもった。訊こうかどうしようか長い間ずっと迷ってきた事だったから。
「アタシには言えないような事なの?」
黙ってしまった優矢を見て、奈美は途端に不安になった。
再び足元が揺れ始める。
「いや、その」
優矢は迷う。
「そうなの?」
奈美の表情が如実に曇る。
「あくっ、違うよ。そうじゃなくて、その」
「なくて、何なのかな」
「アノ夜の事………なんだけど、さ」
奈美の表情が見る見るうちに曇っていくので、それよりはマシかもしれないと思った優矢は、思いきって訊いてみた。
「アノ、よ………るっ?!」
優矢が言うあの夜がどの夜なのか敏感に察知した奈美は、その途端から曇る表情の意味が変わった。
「アネキ、さナイフ、持ってたよね。もう一つ」
奈美を問い詰める事が目的では絶対になかったので、優矢は優矢なりに懐かしい話しでもするかのような装いで続けた。
「えっ………」
あの夜がどの夜なのかは当たっていたのだが、その内容は優矢が知っているとは思ってもいなかった事だったので、奈美はすぐに焦燥に変わるであろう愕然にあっという間に支配され、更には言葉を失った。
左に傾く。
「アネキさ、
「あのナイフ」
はね!」
重ねる事で、
奈美が優矢を止めた。
「アレはね、えっと、えっとね、えっ、と、その、あ、そうだ! あのね、アタシ、ユウヤにフラれたら死ぬつもりだったの! でも、でも、ユウヤはきっとそれを止めようとしてくれるでしょ? ナイフを取り上げようとしてくれるでしょ? でも、でも、アタシは本気で死ぬつもりだったから、だから、その、その時の為に、もう一つと思って、それで、その………持ってたの」
やはりと言うべきか焦燥に変わって動揺を深めながらも、脳をフル動員でフル回転させた奈美は、優矢が何か言おうとするのを遮って早口でまくしたて、優矢に嫌われて更には捨てられるという恐怖に怯えながら、眼前すぐの優矢を見つめ続けた。
左に大きくよろめく。
「そっか、そうだったんだぁー」
殺すという選択肢の他に死ぬという選択肢もあったのかと、優矢は奈美が吐露したその事情を聞いて心が苦しくなっていった。特にあの時は怨まれているとばかり思っていたので、そのような選択肢が存在するとは考えもしなかったし、その後も悪夢にばかり気を取られてしまって全く考えなかった事だった。奈美は誰よりも優しいと充分に判っているのに、だから全てを自分一人で背負い込んでしまってそのような選択肢を浮かべているかもしれないと予想できた筈なのに、そういえば死のうとしていたのに、それに今まで気づく事が出来なかった自身を、優矢はその脳内で、その心の内で、激しく責めた。
「だって、ユウヤが傍に居ない毎日なんてもうイヤだったんだもん!」
優矢に強くしがみつきながら、奈美は嘘の中に本当を混ぜた。涙と不安で声が激しく震えていた。
左に転がっていく。
「あ、あのさ、今になってこんな事を蒸し返しちゃって、その、ゴメン! アネキ、ホントにゴメン」
自身の思慮のなさ、考察力のなさ、そしてバカさ加減のよって奈美を激しく傷つけてしまったと痛感した優矢は、多大な動揺と強い焦燥、そして深い後悔に襲われた。
足元が激しく揺れ、
左に大きく傾く。
「………」
ぐらぐら。
「………」
ぐらぐら。
「「………」」
ぐらぐら。
「ユウヤ………どうして気づいたの?」
暫しの沈黙の後、優矢の胸に顔を埋めたままの奈美が口を開いた。
「教えてくれる、かな………」
その声は、いつもの柔らかな奈美ではなかった。
「ねぇ、どうして?」
その表情も、である。
「それは、その、あの日の朝、フロに入った後さ、アネキもオレもハダカのまんま部屋に戻ったでしょ?」
「うん。そうだったね」
「アネキが浴室に持ってきてた着替えを取りに行ったのって、さ、オレだもん」
「あっ」
「だから、そん時に」
ぐらぐら、ぐら。
「今更こんな事、ゴメンね」
もう少しも傷つけたくないと努めて優しく説明した優矢の言葉に、奈美は愕然とした。あの時、着替えを持っていくと言い残して部屋に戻った際、着替えのパンツのポッケに忍ばせておいたのは勿論奈美で、それなのに色々とあってその事をすっかり忘れてしまっていたのだ。決して忘れてはならない重大な事だったのに。奈美はもう優矢から片時も離れるつもりがなかったし、計画………と、言うより企みを何処でどう始めるかは不確実な流れ次第だと予測していたので、朝から忍ばせておこうと周到に準備しておいた事だったのに。
「………」
完全犯罪は難しい。あくまでも自然な会話から唐突に、けれど無理なく始まるように見せかけたつもりだったのに、今に繋がるどれもこれもが実は周到に計画していた事だったのだと優矢に悟られたら間違いなく嫌われてしまうし、その後に待っているのは完全なる絶望である。その光景が脳内で奈美に断りなく映像化され、奈美の心をこれでもかというくらいに切り刻んでいく。
ぐらぐら、ぐら。
「アネキ?」
「あう、う………お願い、ユウヤ、お願いします。嫌いにならないでください………ユウヤに棄てられたらアタシ、アタシ! もう、もう、っ、ん、んく」
「んっ」
泣き咽びながら懇願する奈美の唇に唇を重ねる事で、優矢は自身の想いを示した。
「ん、んっ、はう、う」
奈美は虚ろな表情で優矢を見つめた。蕩けそうだった。優矢の挙動の意味について自信は持てなかったが、それでもどうやら嫌われているという事はないようだという事は判ったので、優矢がかけてくれるであろう次の言葉にかなり期待していた。
「嫌いになんてならないよ、アネキ」
優矢は優しい声と表情でキッパリと告げた。
「ホント?」
奈美は実行した側なので詳しく細かく思い出せるかもしれないが、優矢は実行した側ではないので詳細なんて判る筈がなく、それによる奈美の企みの全容にも気づく事はない。いつだって受身であり受け手であった優矢にとって、今ここで考えるべき事は何よりも奈美をこれ以上はもう傷つけたくないという事であった。
「じゃあ、じゃあ、棄てたりしない?」
奈美が確認する。
「うん」
優矢が頷く。
「じゃあ、じゃあ、愛してる?」
絶望へと向かっていた映像が完全に消えた。
「うん」
優矢が再び頷く。
「はうう、ユウヤぁー」
足元の揺れも完全に止まり、
「アネキ………」
体勢を立て直した二人は、
「「………」」
揃って右へと移動する。
「ねぇ、ユウヤ?」
「ん?」
しかし、そこはギリギリの右側。安定を取り戻したとも言えるし、壊れかけているとも言える、そんな危うい所。それは二人共になのかもしれないし、どちらか一人だけがなのかもしれない。
「もう一回、言って」
優矢の事を異常なまでに愛している奈美は、再び優矢の胸に顔を埋めながら確認した。
「ん? も、あっ………愛して、ます」
優矢はそう答え、奈美をギュッと抱きしめ直した。
「アタシも愛してる」誰にも渡すもんか。
「ありがと」
「ねぇ、アナタぁー」アタシだけのモノよ。
「ん?」
「ベッド、行こっか」永遠に、ね。
「う、うん」
「嬉しい………」
と、その時。
まるで、
優矢が悪夢で見た奈美のように、
「………ふふふ」
奈美の顔が、
にやり。
と、歪んだ。
第13話 安定=崩壊 完
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