EP1)笹原由奈の裏面
この動画の始まりは、そう。時刻は夜の11時30分を少しばかり過ぎたあたりの頃になります。屋根を壁を地面を叩く雨の音と、屋根を壁を木々を揺らす風の音が、屋内の静けさを、そして幾ばくかの物音を、一切合切全てに及ぶほどに帳消しにしていました。強い雨足を連想するには、充分すぎるくらいの激しい雨音の数々。どうやら、天気予報は天気予想ではなかったようです。大当たり、でした。お昼と表現される時間帯に差し掛かる少し前あたりから風が元気になり始め、お昼と表現すべき時間になる頃には空は光という光を根刮ぎ遮るかのようにどんよりと黒みを帯びて曇り、お昼と表現される時間帯を幾分か過ぎたあたりから、ぽつり。そして、また、ぽつり。と、雨が降り始めました。それが夕刻を迎えた頃になると、暴走と表現しても差し支えない程の暴れっぷりを呈していて、まるで悪役プロレスラーさんが観客席を荒らし回るかのようでした。ずばりそのとおり、予報どおりの有り様です。
ざざぁああああーっ!!
ざざざぁあああーっ!!
「デキましたぁー。これで、明日の朝とお昼のご飯の仕込みはOKですよぉー」もうかれこれ一時間くらい前から、せっせ。と、明くる日の朝食と昼食の下拵えに取り組んでいた私は、努めて舌足らずな甘え声を作りつつそう宣言して、くるり。と、振り返る。勿論の事、その視界の先に存在しているヒロさんに視線を合わせる為に。ヒロさんに可愛いと思ってもらう為に。これは、ヒロさんにだけ見せる仕草です。と、判ってもらうべく。「後は、直前になって炒めるだけ。あっ、それと、温め直すだけです。えへへ………」そして、そう告げ終えるや否や今度は、にっこり。と、子供が見せるような幼い笑顔を私なりに作って見せる。狙ってそうしている少し鼻にかかった柔らかな甘い声と相まって、ヒロさんの目と耳に心地良い刺激を与えたくて。これもまた勿論の事、そうなるようにと企みながら。実際のところ私は年齢よりも幼く見えるので、その笑顔と声は相性お高めと断言しても異論を挟む者は皆無な筈です。少なくとも、お爺ちゃんやお婆ちゃんには好評を持って迎えられていますし、私自身結構お気に入りだったりもする。「上出来記念として、写真とかに残しておこうかなぁー」もしかすると、未だ第二次性徴期を未体感のままなのでは………と、私自身が邪推からの焦燥を覚えてしまうくらいに。華奢で小柄な所謂ところの幼児体型という体つきの私は、顔立ちの方もどこかしら幼さを持っていると悲観的に自覚している。故になのかな、お爺ちゃんやお婆ちゃんといった所謂ところの利用者さん達からの人気は、自分で言うのもなんなのですが、かなりお高めのようでした。なので私は、まるで本当のお孫さんのように可愛いがられていました。実のところは、お孫さんの代わり程度の存在ですらないのでしょうが、ヒロさんが介護福祉士を志すきっかけになった時に思った事がそれだったようなので、私もお孫さんの代わりという考え方を見習っていただけなんです。ですが、私自身はそんな容姿に、こんな容姿に、強いコンプレックスを覚えています。この容姿を武器とするまでの開き直り度の方は、現在もまだ著しく低いようです。もしも、ヒロさんがそっちの趣味だったなら、天狗さんもドン引きなくらいにかなりの自信が持てたんでしょうが、ヒロさんはどうなのでしょうね。日本人は潜在的なロリコンさんとマザコンさんが多いと何かの雑誌に載っていたのに、肝心のヒロさんからはそんなフシは見受けられません。ならば、武器にも防具にもならないこんな容姿なんて、いっそ捨ててしまいたいくらいです。が、ヒロさんの好みがボンでキュッとしててボンな女性なのかどうかを知り得ていませんから、一縷の望みは捨てないでおこうかな。
それは、兎も角としまして。
「お疲れ様でした。きっと、明日の日勤さんは大助かりの大喜びだよ。って、ホントに撮るの?」
邪な思惑を内包した私の言葉をそうとは知らないまま浴びたヒロさんは、私に優しい声でそう返してくれて、微笑みまでくれました。柔らかさを取り戻した私の顔つきを、そして声音を、その目とその耳にするに至り、安堵の思いを自身に染み渡らせたのかもしれません。ヒロさんはこんな私の事でも、自分の事のように思ってくれる。そういう、優しい人ですから。「えっ、ダメですか?」中学高校大学と柔道部に所属し、憧れのプロレスラーとなるべく身体を鍛えていただけあって、断念して現在に至るとはいえその体躯は未だ厚みがあります。本人曰く、耳が潰れていないのが稽古をサボっていた何よりの証拠だそうで、初段から先は受験資格なんて夢のまた夢との事。因みに、五輪出場選手クラスにも耳が綺麗なままの人はいるそうですが、その人達は強すぎて殆ど下にならないからなんだそうです。なるほど、です。勉強になりました。更には、昇段するとお役所さんと某有名な○○館にお金を納めるそうです。
それも、兎も角としまして。
「え、あ、イイんだけど、さ………たしかに、もう既に美味しそうだし」
ヒロさんは加えて長身でもあるので、威圧感も相当といった感じなんですが、ヒロさんも私と同じく童顔なので、その顔立ちと明るい性格が威圧感を充分に緩和しています。そんな容姿を周りは、クマのぬいぐるみみたいだ。と、好意的に捉えていて、本人は無駄にデカい丸太だと自虐する。どうやら、プロレスラーさんへの道を断念した挫折感が、未だ癒えていない御様子です。「えっへん! でしょでしょ? そうでしょうともそうでしょうとも! もっと褒めてもイイですおー♪」それもまた兎も角としまして。ヒロさんから労いの言葉を頂戴しました私は、その途端に笑顔を深め、そして強めながらそう返し、右手で平和のサインを作りつつ胸を張る。それが例え、何気ない言葉であったとしても、ヒロさんにそう言ってもらえたという事実が、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。心に宿るヒロさんへの狂おしい想いの全てが、先程たしかにあった遂にと言うべき程の淫靡な残り香を更に更に意識させ、その名残りが名残り惜しそうに、じんじん。と、更なる刺激を渇望させる。
ざざぁああああーっ!
ざざざぁあああーっ!
「笹原って、上手だよね」
この時、私達が居た其処は。とある地域のとある閑静な住宅街にある、宿泊ありの小規模デイサービス施設なのですが、施設とは言っても二階建ての古い木造一軒家をリフォームして利用しているので、外観も屋内も民家そのものそのまま。勿論の事、躓いて転倒するとか、その他による怪我など、危険を防止する旨を目的とした各種アイテムが屋内の所々に備え付けてあり、設置されてもおり、用意されてもいて尚且つ、床などは完全バリアフリー仕様となっていますので、内装は所謂ところの民家とは言い難い所謂ところの施設仕様。玄関から入ってすぐ先に六畳の和室が一つあり、玄関の右側には下駄箱、左側には宿泊を利用している利用者の車椅子が数台折り畳まれてあり、玄関を上がって左に続く縁側に進むと、その左手側に小さな庭と送迎車が入っている駐車場があり、右手側には十畳くらいの居間がある。その居間を更に進むとリビングダイニング、その左側に八畳の和室、奥はおトイレとお風呂場、そしてその右側にキッチンがあり、キッチンに向かって左に折れると勝手口があり、そこから裏庭へと続く。裏庭は主に利用者さん達の洗濯物を干す為に使用していて、キッチンに向かって右に進むと左手に階段があり、二階へと繋がっている。「えへへ、ヒロさんに褒められてしまいました」因みに、玄関の先にある六畳の和室を真っ直ぐ突っ切ると、この階段が右手側に見える位置に出る事となり、更にそのまま数歩ばかり直進するとキッチンがあり、勝手口へと続く構造になっています。階段を二階に上がると、すぐ右手側に八畳の和室、反対側の左手にはベランダ、真っ直ぐ進むと此方も八畳の和室、その手前を右に曲がると突き当たりにおトイレ。二階にあるその二部屋は、主に私達職員が事務作業とか更衣とか休憩に使っていて、その二階にあるベランダは職員の作業着や利用者さん用だったり私達の仮眠用だったりするお布団類を干す為に使用する事が多いのですが、一階の裏庭と合わせて使用している感じです。裏庭には私達の衣類やお布団を干すスペースまではないので、それらはもっぱら二階のベランダになるますが、一階に干す衣類や布団に関しては利用者さんが運動の為にとの理由で自主的に職員と一緒に干したりしていて、その光景はほのぼのとした団欒を想像するに相応しいものだったりします。何はともあれ、この建物は築年数がかなり古い日本家屋だからなのか、一階には廊下という名称になるであろうスペースがなく、おトイレとお風呂場以外は全て障子や襖のみで仕切られていて、二階は廊下こそあるもののやはりおトイレ以外の仕切りは襖のみなので、そこらあたり例えるならば、古き良き時代のプライベートが丸判りな構造といった赴きがあるところでした。
さてさて。
「いや、あの、さ………」
私の精神が安定を通り越して至福を得るまでに至る過程において多大なる貢献をしてくれましたヒロさんは、そんな私を見届けた後になって漸く、暴風雨の中を急いで駆けつけてくれたのでょう、びしょ濡れだった身体………と、言うよりもその頃はもう私の体液で汚れてしまったと表現すべき身体を、漸くといった感じで浴室で洗い、そして更にその後、ダイニングにある数脚の椅子の内の一つに座り、その視線の先にある視界に私を定住させてくれていました。「どうしたですか?」ヒロさんによって、精神が極度の不安定から歓喜の安定へとV字回復し、更には至福の境地にて、ぽわん。と、するに至っていた私は、それを軽く通り越して、ぽわんぽわん。に、なりつつも。キッチンでの作業をひととおり済ませました。そして、その後、振り向くだけではなく振り返る事で、その視線の先にある視界の尽くをヒロさんのみで埋め尽くす事に漸く成功する。「ヒロさん?」古い一軒家を施設として利用しているので、ダイニングにあるテーブルの、そのキッチン側にある椅子に腰かけていましたヒロさんは、キッチンに立っている私に容易に手が届く距離にいます。「………ヒロ、さん?」なので、ヒロさんは私の目の前にいると言っても差し障りなく、ヒロさんの目と鼻の先に私がいると表現しても、差し障りは然程ないという事になります。
ざざぁああああーっ!
ざざざぁあああーっ!
「胸を張る事ではないかな、と」
と、ヒロさんが苦笑する。この日の宿泊予定の利用者は三名。基本的に就寝時間はヒロさんの方針もあり、有って無いようなものなのですが、みなさん一応に早寝早起きが生活リズムのようで、既に一階にある和室にてそれぞれ眠りについていました。そして、眠りにつくとみなさん揃いも揃ってちょっとやそっとの物音では目を覚ます事はありません。例えば、テレビの音量を三十~四十くらいの大きさに設定したとしてもそうですし、この夜の時のような暴風雨が立てている音の数々が屋内に響き渡っていてもそうでしたし、先程たしかに響かせてしまった私から溢れ洩れる淫猥な音にも反応は見られませんでした。「な、なんですとぉー!」それ故に。状況的には、二人きりで其処に居るのと殆ど変わらないとも言えるワケで、加えて暴風雨でしたから、もしもおトイレなどの目的で目を覚ましたとかいう事がなければ、中断して素知らぬフリを決め込むなんて必要はない。現にそのような事はなかったので、この時より前も、先に告げてしまえばこの時より後の時も、最初から最後まで中断を余儀なくするなんていうもどかしさは一切ありませんでした。
「え、あ、いやその………」
つまりこの夜は特に、第三者の目や耳に気を向ける必要なんてなかったという事です。気づかれないようにと声を殺して我慢したりとか、激しい音を立てないように気をつけなければならなかったりしたとか、この夜から暫し後を境にして何度となくあった静かな夜の中での、ヒロさんとの秘め事の数々よりは、格段に。「あう、うぐ………酷いです。遠まわしに張れる胸が無いって言ったぁー!」苦笑するヒロさんを見た私は、そう返してすぐ拗ねた素振りをする。ですが、それは勿論の事、ポーズだけでした。次の一手に繋げる為の手段でしかなく、だからこそ努めて可愛らしさを演出し続けていました。
「いやあの、そうじゃな、く………ま、たしかに無かったけどさ」
実のところ私は、つい先程、つまり、振り返って話しかけるまで、大きな不安を感じてもいました。不安定に陥ってしまった精神状態から救ってもらう為に、今回もヒロさんに助けを求めたものの、不安定な状態に陥った自分を晒す度に、今度こそ遠ざけられても仕方ない私自身の一面を見られてしまうからです。場合によっては、面倒な女だと思われてしまうかもしれないワケですから、この時もある種の賭けではありました。それに、特にこの夜の時に陥った精神状態は、ヒロさんに見せてきたそれまでのそれらと比べて段違いに取り乱してしまっていたので、その不安を拭えずにいました。勿論の事、精神が不安定になるとすぐにヒロさんに助けてもらおうとしてしまいますし、そんな状態で自分自身をコントロールする事も無理なので、精神が安定を取り戻してからが勝負なのは言うまでもありません。と、言っても。ヒロさんの優しさに望みを繋ぐ事、それが全てといっても過言ではないんですけどね。「あっ、あ、あ、あああぁーっ! 今度はイジワルさん登場ですよぉー!」そして、この時もヒロさんは。いつものように、優しく包み込んでくれました。更には、至福と言えるくらいの高揚感と脱力感へと誘い、しかも、最後までには及ばなかったものの、一度は私の中へと押し入れてくれたのですから、更にその先への期待が昂るのは仕方ないですよね。それはもう意図も容易く精神状態は回復し、ヒロさんが私にそういう行為を求めたという事実を得る事への手立てについて、思考を集中させようとするのは私にとって、当然の事です。
「意地悪さんって………」
かなり時間はかかったものの、勇気を振り絞って振り返った際に見たヒロさんの表情は、慈愛のような優しさに満ち満ちていて、同じくその際に聞こえたヒロさんの声もまた、慈愛と優しさに満ち満ちていました。その事実を目の当たりにして、漸く。拭えきれずにいた不安は、泡となって消えていく事となりました。「これはもう、アレですよ。イジワルした責任を、取ってもらわなきゃですね!」だからこその、コレだったんです。次の一手の先にある望み、それに対する照れ隠しも含めて………と、いう側面も、あるにはあったんですけどね。
「責任って………そんな、大袈裟な事?」
あ、そっか。そう言えば、そうでしたね。この頃は、まだ。私はヒロさんに、笹原。と、呼ばれていましたよね。笹原くん、笹原さん、笹原ちゃん。そして、笹原。と、色々なバリエーションがありましたが、笹原と呼ばれる事が圧倒的に多かった事を思い出す。「ヒロさん! これは、私にとって、いいえ。女の子にとりまして、これは由々しき問題なのです! ぺったんこは乙女な私にとっても、大変なコンプレックス事情なんですからねぇーだ!」一方で、ヒロさんは。ヒロさんって呼ばれる度数が高かったように記憶している。同期の年上って言っていた大塚さんという女性とだけは、お互い名字を呼び捨てにしていましたが、時折、ふと。お名前の方を自然に呼び捨てにしている事はあったものの、他の職員も利用者さんも概ね、ヒロさんと呼んでいました。って、同期とはいえ年上の女性を呼び捨てだったのは、二人の間には同期以上の関係性があったからに他ならなかったからなんですが、今は、もう。と、言うか。この後に、すぐ。退職してしまわれましたし、それからお会いしていませんので、その事については良しとしましょう。
「乙な女は、自分からぺったんこなんて口に出して言いませんよ?」
兎にも角にも、学校に行っても気が休まる時間は殆ど無く、帰宅すれば尚更に無く、家を出ようにもアテは無く、お金も無い。少しでも逃れようと登校や帰宅を遅らせてみても、更なる暴力を浴びてしまうだけ。兄が原因で性的行為を連想するに至る全てに恐怖を抱いていた事もあり、所謂ところの援助交際などで寝床とお金を確保するなんていう選択肢もない。兄が怖いという感情は男性全てが怖いという意識に拡大し、母が憎いという感情は女性全てが憎いに拡大し、人間不信という感情が出来上がっていた私は、社会人というカテゴリに属して数年を費やしたその頃になっても、まだ誰ともコミュニケーションを図れないままでした。「そんな事はないですお! それにどうせ私、括れ、とかも、ありませんし………」行動範囲は、自宅と学校の往復のみ。そんな、十代の頃と何も変わらない毎日。ただ単に、学校が職場になったというだけ。ですが、それが一番被害が少なくて済む。もうこの頃になると、諸悪の根源とでも言うべき兄が消えて何年も経つので、それこそ一番被害が少ない状況ではありました。
「言わなきゃ気になんないかもしれない事を………もしかして、自爆ですか?」
もしかしたら、病院に居た二年間が一番平穏だったのかな。少なくとも、トラウマを併発するような大きさの暴力の数々からは無縁になりましたし。隔離された小さな世界は外部への露見が難しいですから、実のところもっと陰湿な所だと思っていたのですが、色々な意味での身の危険を感じる事はあまりありませんでした。「さっき、実際に見たじゃないですかヒロさん。きっと、激しくガッカリしてるに決まってます。そうに違いありませんよ………優しい人だから言わないだけで」退院後の私は、金銭的余裕は全くといってもイイくらいにありませんでした。ですが、自由度は広がりました。だから、そんな毎日でもそれなりに満足してはいたんです。極度の人間不信を多大に含んだ究極の対人恐怖症によって心を開く事がデキず、開こうなんて思わないままの、孤独な毎日ではありましたけど。それ故に、誰とも接しない引き籠もりのような毎日でしたけど。
「してないとしたら?」
「え………ヒロさん?」
「がっかりなんてしないよ」
大変な事といえば、お薬で抑える事がデキないくらいの強さで過去のトラウマが襲ってきた時とか、困った時に誰にも訊けないとか、助けを求められないとか、生きているのか死んでいるのか判らなくて記憶が飛んでしまう事があるとか、所謂ところの独りでは手に負えない事態に陥ってしまった際の対処などで、結局のところそんな際はそれら嵐が過ぎ去ってくれるのをひたすらに怯えながら、待ったり、諦めたりして、ただただ流すしかなかったので、記憶が飛ぶという事態に陥った際は厄介でした。
「………ホントにしてないですか?」
「うん。がっかりなんてしないから」
「そ、そう、ですか………」だから、そうなった時はどうしようもなく、自傷行為に頼る他は何もありませんでした。最初のうちは、好物を沢山食す事で感じる幸福感で凌げた。ですが、そのうちに過食して嘔吐する苦しみが必要になった。更には、拒食する苦しみも併用する事になった。そして、ある意味で自然と自傷行為に至った。ですが、それでもその効果は絶大でした。痛みを感じる事で、生きている実感を得る。痛みを利用して、正気に戻る。何よりも、我が身に流れる赤い血を確認する事で、自分自身の存在を再認識するに至る。
「信用、デキない?」
つまり、私だって人間なんだと。私にだって幸せになる権利はあるんだと。いつかきっと幸せになれるんだと。こんな私でも。こんな私だからこそ。あんな今までだったからこそ。誰かが、きっと、たぶん………ですが、私は絶望に近い現実に見舞われる事になる。憎くて仕方ない筈の母と再び同居する事になったからです。それは、母が脳梗塞で倒れたからです。あの人はそれによって、身体の右側の自由を失ってしまいました。右片側麻痺という障害を負ったんですよ、アイツ。私はその時、罰が当たったんだザマーミロ。と、思いました。心の底から笑いました。同居を懇願する母を、上から目線で見ていました。優越感にも浸りました。だから、何を今更と突っぱねる事なんてしませんでした。憎い母に手を差し伸べるように見せつつ、実のところ私自身に救いを与えたつもりだったんです………ですが、それは間違いでした。「あう、う、そ、そ、そそそれは、その、そ、そんな事、ないです」それから暫く後に、私は漸くヒロさんと出逢うに至った。私はいつの頃からか、唯一の味方であった祖母の面影を、老人介護施設に入居する利用者のみなさんに求めようと、そんなふうに考えるようになっていました。お年寄りのみなさんとなら、コミュニケーションを図れるかもしれない、と。もしも、それをお仕事とする事が叶ったら、それなら、続けて働けるかもしれない、と。
「じゃあ、さ。もう一度、見せてみて?」
ヒロさんを見かけたのは、丁度その頃の事です。何処に向かうでもなく、ふらふら。と、歩いていた私は、数名のお年寄りと談笑するヒロさんを目撃しました。ヒロさんの優しい笑顔と声、そして、お年寄りのみなさんの楽しそうな笑顔を見るに至った私は、こっそり。と、尾行しました。すると、辿り着いた先がこの一軒家、老人介護施設でした。私はそれで、ヒロさんがこの施設の常勤職員だという事を知る事になる。「えっ、ヒロさん………」全てが、繋がりました。これは運命かもしれない。運命なんだ。そうに違いない。と、強く感じたんです。だって、介護の現場でお年寄りのみなさんと過ごす毎日なら続けて働けるかもしれないと、そう思った矢先に出逢えたんですもん。
「なんてね。ゴメン、暴走した」
それからの私は、殆ど毎日のように此処へと出向きました。隠れてこっそりと覗くのが精一杯でしたけどね。楽しそうな声が外にも洩れ聞こえてくる。ちらりとではあるものの、楽しそうな笑顔も見えてくる。「ヒロさん………私、そっ、そそその、かかか、考えてる事が、あ、あの、あ、あるんです」私も、あの仲間に入りたい。話したい。話しかけられたい。笑顔になりたい。心から笑いたい。
「考えてる事って?」
私の事も、あんな笑顔で見つめてほしい。もっと近くで見ていたい。私は、心の底からヒロさんを渇望するようになっていきました。人間不信だったのに、です。それなのに、です。あんな気持ちになったのは………こんな気持ちは初めてでしたし、初めてのままですし、今後もヒロさんが最初で最後だと確信しています。「私、ああああの、わわ、私も、そ、そそ、その、ヒロさ、んっ、の、事が、そそその、だ、だだっ、大好き、なんです………だから、その、えっと」そんな毎日が続いたある日の事、私は遂にヒロさんと視線が重なりました。それは、つまり、ヒロさんに見つかったという事です。途端に鼓動が激しく躍る。ヤバい、どうしよう、見つかった。ではなく、そう。躍りました。やっと、見つけてもらえた。と、激しく踊ったんです。心が、ですよ? 実際は、ホントに踊っていたかもしれませんが。
『もしかして、施設見学希望?』
『えっ、と、はははい………っ』
それが………、
初めて交わした会話です。
ざざぁああああーっ!
ざざざぁあああーっ!
「ヒロさん、さっき、途中でヤメちゃったじゃないですか。だから、私………申し訳なくて。だから、だから、だから、私、ヒロさんに最後まで、その、シテもらえるように、なりたいです。だから、そ、その」ここから遡って二時間程、過去の事。私は、激しく取り乱していました。精神状態が不安定で、入院していた過去を持つ私だけに、もしもの為を考えて処方されているお薬を常備してはいましたが、そのような症状に陥る人は決して精神が弱いのではなく、強いからこそ耐えすぎてしまい、その結果として制御不可の状態に陥る………と、いうケースが非常に多いそうです。「もう一回………今度は、ちゃんと、私を抱いてください」私もそのうちの一人なのかどうかは自分では判らないままですが、私もまた、どうやら、その一人なんだそうです。家庭内や学校内における度重なる暴力に苛まれ、蝕まれながらも耐えて耐えて耐え続け、そして、遂に暴発し、数年を入院生活に費やし、退院後は過食や嘔吐、遂には自傷といった行為までを自衛手段として、それらを用い続けてしまっていた私は、言葉は適していないかもしれませんが、それによって、精神のバランスにどうにか折り合いをつけてきました。「そ、それで、ここ、この先も、あの、何度も、その、そうしてください。私で、感じてください。お願いします、ヒロさん………」ですが、それは。敢えて言うなれば、ヤジロベーのような状態という事です。安定と崩壊の境目で、ぐらぐら。と、脆く揺れているようなものなんです。しかも、その境目が至極曖昧な為に、私が立っている所がどの地点なのか、それが私自身でも判らなくて、だから、安定しているのか、崩壊しかけているのか、もう崩壊したのか、それを自覚する事がデキなくなる場面に遭遇する事態となってしまうケースは、決して少なくありません。
「えっ、と、その………あの、さ」
その結果としてなのでしょう、崩壊を意識する時はいつだって、手遅れ周辺というあたりにまで踏み入っていて、間に合わず、抗えず、思考を止め、答えを一つだけ用意し、それのみに支配させ、それにしか従わなくなってしまう。「ヒロさん………大好きです」ですが、そんな状態がヒロさんとの出逢いで変化を見せました。それは、まだ、この時点では決して、脱却とまではいかったんですが、私は自衛手段としても、ヒロさんを望むようになっていきました。そして私は、はっきりとヒロさんに依存しようと決めました。ヒロさんに依存する事で、悪夢による支配体制から逃れようと決めたんです。世界で一番優しいヒロさんに依存しちゃえば、そうすればきっと、私は悪夢から逃れる事がデキる。と、ヒロさんに期待したからです。
「え、いや、その、あの………」
そう思うに至ったキッカケは、一人暮らしを始めるようになってからは殆ど、毎日のようにシテいた事。それもそのうちの一つでした。入院生活をすごしていた頃は思うがままにデキなかった分だけ、更に。と、でもいうかのように。何度も、何度も、何度もする日だって決して珍しくありませんでした。溢れる声が薄い壁越しに隣へと洩れる事さえ気をつければ、どんなに乱れてしまおうが気兼ねなく没頭デキましたし、何を使用しようが、どこでどうそれによる快感を得ようが、お部屋の中でさえあれば誰も知らないし、判りようもありません。一日の全てをそれに費やしてしまう事だって何度もありましたし、結果としてその殆どの時間を裸ですごすに至る事だってありました。と、言っても。その事を考えず、母との同居を決めた事によって、再び窮屈な毎日になってしまいましたが………この夜の少し後までは、ですけどね。
所謂ところの、
自慰行為という戯れ。
性的行為にトラウマを持つ私は、それを連想する何から何までを激しく嫌悪してはいましたが、実のところそれで得られる止め処ない悦楽まで否定する事はデキませんでした。敢えて言えば、その悦楽にはどうしても抗えず、もっと言えば、その悦楽には従順に溺れていました。「あう、う、そ、そそ、その………」ですが、それは、あくまでも悦楽のみです。ヒロさんと出逢うまでは、その疼きを自分以外の誰かに求めた事なんて一度もありませんでした。求めようとは思えなかったし、気の迷いなんて事さえ一切ありませんでした。何故かというと、自分ではない他の誰かによって悦楽を感じてしまうという事、それがトラウマの核心だったからで、その中核にあったのは、誰とでもそうなってしまうかもしれない自分自身への、強烈な嫌悪感でしたから。
「………ん?」
実の兄に性欲処理の道具にされていた毎日はたしかにトラウマですし、忘れてしまいたい過去でしかありません。ですが、それなのに。そうであったのに。その最中にある自分自身はいつだって、どれもこれも………快感を覚えていました。「見たい、ですか?」刺激される度に溢れ零れてしまう、淫猥な声。刺激される毎に込み上げてくる、淫靡な悦び。痛くて苦しくて悲しいだけだったのにいつしか、喘ぎ悶え達してしまうまでに成り下がっていた。不快でたまらないのに、嫌悪して止まないのに、それなのに、それでも、そうなってしまう。そして、それを勝ち誇った目で、蔑んだ表情で見下され、更には嘲笑われてしまう………そんな自分自身が、惨めで仕方なかった。憎らしくてたまらなかった。
「えっ………と」
兄によるそんな日々をすごしていた頃は、兄によるそれが毎日に及ぶ事だったので、ある意味で言えば、悔しいけれど満たされてはいたと言えなくもありませんが、入院生活以降は自慰行為によってでしか、それを得る方法がありませんでした。勿論の事ですが、代わりなんて欲しくないのだから。だから私は、どうしようもなく疼いてしまう自分自身に嫌悪感を抱きつつも、それでも抗えず自分で慰めてしまうという日々をすごしていた。そんな、ある日の事。その対象を、ヒロさんに設定して行為に及んでいる。そんな、自分自身に気づきました。「見る、ですか?」それは、劇的な事でした。ヒロさんを思い浮かべながら行為に及ぶ事で、達した後に必ずある筈の自分自身への嫌悪感が、さっぱりと消えたんです。そして、それだけではありませんでした。性的暴力にも関わらず、それでも感じてしまっていた筈の快感は、もしかしたら記憶違いかもしれないとまで思えるようになっていったんです。あれは快感を覚えたんじゃないんだ、と。そうではなく、そう思い込む事で、逆に苦痛や悲痛といった絶望感を、少しでも和らげようとしていたんだ………そうに違いない、と。そのように認識を変えてみると、以前までは兄によるそれを思い出してしまう度に、快感に悶える自分がセットで浮かんでいたのが、苦痛に歪む自分が浮かんでくるようになりました。快感に喘いでいるのではなく、悲痛で呻いている自分が浮かんでくるようになったんです。そして、いつしかそうとしか思えなくなった。
「………うん。見せてほしい」
更に、です。ヒロさんを思い浮かべた際に得られる快感は、覚えてしまった快感とは比べ物にならないくらい大きな興奮として、私を存分に蕩けさせました。好きな人を想いながら溺れるのは、健全な事と言えば健全な事です。そう思う事で私は、自分自身の淫欲への嫌悪感が消えていくのを感じていました。まさに、劇的な事だったんです。そこで、私は思いつく。この一軒家の二階にある押し入れの一つには、ヒロさんの更衣やら何やらも無警戒に置いてあります。日勤業務を終えたヒロさんが着替えを済ませて帰る際に、夜勤を勤める間に洗って干しておくと告げる事で、仕事中に着ていた衣類を持ち帰らせないようにしました。基本的に仕事着は職場で洗うものなので、持ち帰る事は殆どなかったようなのですが、そういう決まり事みたいなものがあるのを知らなかった私は、良い案だと思っていました。なので、誰もが寝静まった真夜中に、その使用済み衣類を使い、淫らな行為に及ぶ………と、いう事を繰り返していました。そして、それは、職場という状況も手伝って、異様な興奮を味わうに至る刺激的な日課となりました。毎日、夜勤でも構わないかも。そうであったらイイのに。と、考えてしまうくらいに。ヒロさんの匂いが残る衣類に執着していきましたし、ヒロさんが飲みかけのまま残していたジュースの缶や、コップや、お箸などもそのままにしてもらい、私が片付けますと告げておいて、みなさんが寝静まった夜に………なんて事さえ、私にとってはご褒美でした。毎日を夜勤にして働いて、朝になってヒロさんが来て、日勤帯になっても帰らず、お手伝いをしながらヒロさんとすごす。周りは大好きなお年寄りのみなさんだらけですし、ヒロさんが他の職員との距離を縮めてしまうに至る何かを、邪魔する事だって可能でしょう。そして、夜勤は一人のようなものですから、まさに天国です。邪魔な母さえいなければ、そんな毎日を選べたんですけどね。ですが、今となっては。もう、どうでもイイんですけど。兎にも角にも、私の中でヒロさんは、唯一無二の絶対となりました。「此処で、見るですか?」そして、そんな想いは、この時すぐに駆けつけてくれたヒロさんに、ぎゅっ。と、抱きしめられた直後、確信へと昇華しました。その時に感じた多大な安堵と、高揚に溺れる自分自身を認識したからです。恐怖感の欠片も覚えない、何一つ思い起こさない。そんな、言わば、究極の安心感を得たんです。
「うん………此処で見たい」
それは、夜の八時を幾分か過ぎたあたりの事だったと思います。全ての利用者さんが各部屋へと各々移動して、ぽつん。と、独りきりになった際の事。お風呂に入って汗を流すかそれとも、その前に二階でヒロさんの衣類に顔を埋めながら存分に溺れようか………と、いつものように思案していた。その、最中の事。お風呂というワードにとある事を思い出してしまいました。と、言ってもそのとある事なんて言わずもがな。やっぱり兄による性的暴行なんですけどね。その日の日勤であったヒロさんと二人きり勤務だった事で得られた高揚感と、この後に得られる待ちに待った淫靡なアレやコレやへの興奮によって、その日も忘れてしまえていたそのとある事を思い出してしまった私は、本来であれば忘れてしまう事などデキないそのとある事を忘れてしまえていた私は、この時お風呂というワードによって不意に思い出してしまいました。何故なのか、それは私にも判然としません。これこそが好事、魔多しという事なのでしょうか。そして、不意をつかれた分だけ私を激しく掻き乱すに至り、あっという間に不安定な状態へとその精神を陥らせてしまいました。すると、そのせいでこの夜の暴風雨が、兄に初めてレイプされた際の暴風雨の音と、不意にリンクしてしまう。屋内に洩れ聴こえてくる大きな音。それ以外には、何も聴こえない空間。そんな中、兄が浴室へと入ってくる。また、殴るつもりか。それとも、今度は蹴るつもりか。お風呂場なのに、裸なのに、そんな場でもそうするつもりなのか。と、愕然とした思いを覚えました。ですが………そうではありませんでした。それだけではありませんでした。それよりも、酷い仕打ちでした。抑えつけられ、口を塞がれて、そして、弄ばれる。次第に嘲笑され、勝ち誇られて、見下される。
イヤだ。イヤだよ。ヤメて! ヤメてよ! 離してよ! 離れてよ! 怖いよ、ヤダ、ヤダよ、ヤメっ、う、ぐっ!
イヤぁあああぁああーーっ!!!
もしかしたら、あの襖の向こうに兄が隠れているかもしれない。そして、陵辱しようと機会を窺っているかもしれない。そうに違いない。私は今日も、また惨めに犯されるんだ。辱しめを受けて、そして嘲笑われるんだ。そう思った私は震え、怯え、恐れながらも包丁を手にする。もうイヤだ。あんな事されるのはもうイヤだ。あんな事されるくらいなら、もう。
イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだもうこんなのイヤだぁあああー!!
ヒロさぁん、
私を助けてください………。
助けてヒロさぁあああーん!!
私は、ヒロさんに電話しました。
ヒロさんに、助けを求めました。
そして、
ヒロさんは私の傷を知りました。
「はう、う………」裸のまま半狂乱まで残り僅かといった感じで錯乱していた為に、隠しておきたかった過去をヒロさんに自ら知らせてしまった私は、その全てを吐露する前にどうにか気づいて思い止まったものの、ヒロさんに抱きしめられて落ち着きを取り戻した後、新たな不安に襲われていました。それは勿論の事、そんな過去を持つ女を受け入れてくれるワケがないという不安です。実の兄による性的虐待の毎日についての殆どは口を閉ざせましたが、唇を奪われたというところまでは口走っていたからです。ですが、そんな中でも、ヒロさんの様子を注視するもう一人の自分が、このままこの状況を利用しろと囁いてきました。その為でもあったんだからこのまま押し込めと、私を促してくる。だから、電話したんだろ? と、私を惑わせる。そうなのだろうか、だから私は、ヒロさんに電話したのだろうか。壊れる前に、壊れてしまうくらいなら、自分を晒してしまえ。もしかしたら、それこそが邪険にされない最大の武器になるかもしれないそ? 可哀想な境遇にある今の自分を、惨めな過去を持つそんな今の自分を、優しさにつけ込んで利用してしまえばイイんだ………。ヒロさんによって安堵した事で、ヒロさんにとっては皮肉な事かもしれませんが、そんな私が、むくむく。と、顔を出してきたんです。だから私は、見棄てないでくださいと懇願しました。
「自分で裾を持って、捲ってほしいな」
対してヒロさんは、私にキスをしてくれる事で、自身の意を伝えてくれました。そして、今の、怖かった? と、訊いてきました。「あう、う………自分で、する、ですか?」そのキスは全く怖くなく、それどころか、まるで祝福を授かったかのような甘美さを覚えました。正直に言うと、イク寸前にまで急激に達していたくらいです。立っているのもやっとな感じで、ふるふる。と、震える身体の、特に両足のせいで、きっとたぶん、固く尖ってしまっていたでしょう箇所が刺激を受けて、最後の一刺しというところでした。呆けた表情で、がくがく。と、崩れ落ちる間際でした。ですが私は、まだそんな自分を晒すワケにはいきません。だから私は、顔を左右に振る事で気持ちを伝えました。
『それならこれは、初チュウだな』
『えっ、だって、私、私は………』
『それは、キスじゃないよ』
『えっ、と………ヒロさん』
『それは、キスとは違うから』
『はう、ヒロさぁーん………』
『それとも、他にいたの?』
『えっ、あ、いないです!』
『ん? いたのか?』
『いいいないです!』
『それなら、これが初めてだね』
『はう、っ………初めて、です』
ヒロさんで良かった。
やっぱり運命の人だ。
と、そう願いました。
「うん。自分で」
優しい声で促すようにそう提案したヒロさんは、私を見つめたままそれを待つ。その表情は、やっぱり、余裕なのかな。そういう経験とか、沢山ありそうですし。とても穏やかで、柔和で、何でも言う事を聞いてしまいそうなくらいに………って、既にもう何でも言う事しちゃいますな状態だったんですけどね。「はう、う………はい」きゅっ、と。目を閉じて俯き、恥ずかしさでもじもじしつつも、止めどなく膨らむ興奮を覚えながら。シャツの裾を掴んだ私は時折、ちらり。と、目を開けて、ヒロさんを窺い、そして捲っていく。ゆっくりと、ぎこちなく、躊躇しているかのように、ですが、従順に。自ら括れのないと評した、腹部。淡いグレーの、スポーツブラ。それを纏う、残念なくらい小さな胸。その先には僅かな、微かな膨らみ。膨らみとは言えないくらいの、膨らみ。自分で言って自分で傷つくって、こういう事を言うんでしょうね。左右の突起が浮き出ていましたので、余計に目立っていたかもしれません。「あう、う………」引きこもり故になのか、白い柔肌を自らの意志で露わにさせていく毎に、私は紛れもなく期待している自身に羞恥しつつ、ブラにも指をかける。
「怖くない?」
ゆっくりと露出していく肌には、敢えて視線を移さず。なのかどうかは判りませんが、私の表情のみを見つめ続けていたヒロさんは、私と目が合うや否や優しい声のみで私を更に刺激する。「恥ずかしいです………」迫り来る羞恥に脳を、溢れ出る淫欲に心を、強くなる疼きに身体を、それぞれ支配されながら。私は、それらが絡み合う事で生み出されている興奮に激しく魅了されていく。
「でも、可愛いよ」
視線を外せなくなった私を見つめたまま、ヒロさんはそう告げながら優しく微笑む。「ヒロ、さ、んっ、はう、う………」ヒロさんに褒められたという嬉しさが興奮に上乗せされた私は、遂に。自らぺったんこと揶揄した箇所が何の障害物もなく完全に露出する位置まで、つまり全てを捲り終える。
「見ても、イイ?」
言いながらヒロさんは、私の瞳から私の胸へとゆっくり視線を落としていく。堕胎した過去があるからなのか、それとも毎日のように弄ばれたのが原因なのか、或いはその後も自分自身で刺激し続けたからなのか、若しくはその全てなのか。第二次性徴期を迎える前でその成長を終えたかのような体型なのに、私の左右の突起は残念な事に………黒ずんでいます。「あっ、あう、う………綺麗じゃなくて、その、ゴメンなさい」入院生活によって何度も見るに至った、他の患者さん達のピンク色した綺麗な突起の数々に、少なからずのショックを覚え、それ以降そのまま、コンプレックスの一つとしてスターティングメンバー化していたので、望まない色をしている突起のそれについて、そう表現して謝りました。それにしても私、完全に露出するまでその事を忘れていたんですよね。しかもこの時、ヒロさんに見られちゃうのは二回目の事になるのに。この時から数えてほんの少し過去にあった初めての時は頭の中が真っ白で、私の嘘のせいで途中で終わって目の前が真っ暗で、私って、ホントに天然さんなのかもしれません。「ど、どうですか………あう、う、やっぱり、がっかりしたですか?」加えて、特に敏感で忘れ難い快感を有すると表現しても否定はデキない数箇所の内の、その二つがあからさまな反応を見せている事にはっきりと気づいてもいましたので、諸々を含めてヒロさんの反応が気になって仕方がありませんでした。「ヒロさんお願いですから、がっかりしないでください………」一応は消灯時間という事で、二人の視界を暗闇から脱却させている照明は、キッチンでの作業を補助する為の灯りのみ。それ故に、なのでしょう。その灯りを背にした状態で立っている私の胸の突起は、影が掛かってその黒みを増していました。
「うん。がっかりしてないよ」
再び懇願する私を、その優しい表情のまま再び私の瞳に戻して見つめてくれたヒロさんは、そう囁いて微笑んでくれました。実際そのとおりだったみたいでヒロさんは、諸々を含めてもがっかりなんてしていなかったようです。やっぱり、経験豊富な人ですから色んなおっぱいを………想像するだけで、嫉妬に狂いそうです。「ホント………ですか?」兎にも角にも、ヒロさんに救われた私は訊く。すぐに安堵がこみ上げてきて、その声にはあからさまな甘味を乗せていたかもしれません。ここから数えてつい先程のヒロさんとの初めての時は、あまり覚えていないのですが、今にして思えば、その時はキッチンの灯りも付いていない真っ暗な状況だった筈で、だから朧気には見えるというくらいの環境だった筈なので、だからこそこの時になって、そんな危惧がふつふつと芽生えたんだと思います。なので私、やっぱり天然さんではありません、よね?
「うん。がっかりしてない」
ですが、ヒロさん曰く。その諸々を気にしている女性はかなり多いワリに、その諸々を気にする男性はかなり少ないそうです。私にとってはヒロさんが気にしないかどうかだけが問題なので、ヒロさんが気にしないのであれば、他の人達なんてどうでもイイですけどね。「はうう、ヒロさぁーん………」ここに至って不安が完全に取り払われた私は、感極まり、キッチンの灯りを点灯させたままにしておいて尚且つ、消してくださいとお願いする事もしなかった思惑を失敗から続行へと繋げつつ、もうこのまま自ら抱きついて、キスをして、ヒロさんの顔を、ヒロさんを、舐め回してしまいたいという衝動に、身も心も任せてしまおうか。と、本気で思っていました。故に一歩、ヒロさんに近寄る。「んく………見るだけ、ですか?」続けて、二歩目が一歩目を少しだけ追い越す。
「でも………怖くない?」
私がそうしてきた事で、ヒロさんは私の欲する事を、ヒロさんなりに理解したようです。勿論の事、私が舐め回そうと思っている事までは想像していなかったでしょうが。
「大丈夫なの?」
ですが、それでも忘れてはならないと思ってくれたんでしょうね。私を苦しめてきた、トラウマを。ヒロさんは、世界で一番優しい人ですからね。この時、ヒロさんはヒロさんで実のところ、そのまま私を抱き寄せてしまいたいという欲求に、身も心も支配されかけようとしていたみたいなんですが、そんな自分を、グッ。と、抑えて私を思ってくれたんです。「ちっとも怖くないですよぉ………だって、ヒロさんが抱いてくれれば、この身体は清められるんですから」自慰という行為の際にヒロさんを思い浮かべる事で、私が持つ悪夢の記憶は塗り替えられ、嫌悪すべき存在という枠組みから自身を外す事がデキました。ですが、憎悪を抱いて止まない存在によって刻み込まれた感触は、まだ、記憶に残っています。こればかりは、いくらヒロさんを想いながら自身で果ててみても、なかなかしつこくて拭えませんでした。
「清められるの?」
それを払拭する方法は一つ、ヒロさんに直接何度も何度も抱いてもらう事です。そうすれば、弄ばれ続けた感触を風化させてしまう事がデキるんです。ヒロさんが与えてくれる感触があらたに刻まれ、この先何度もそうしてもらえる事で刷り込まれていけば、それによってトラウマはどんどん小さくなり、やがて消えてしまう。と、私はそう結論づけていました。そしてそれは、今にして思わずともやっぱりそのとおりそうでした。
「清められるかな………」
それにしても。ヒロさんがこの意味を察するまでに至らなかったのは、幸いです。この時のヒロさんは、私が私自身で傷つけた身体に残る傷跡への思いの事だと受け取ったようです。広く見ればそれは間違いではありませんが、何はともあれ私は、清められる。と、表現しました。「そうですよぉ………だから、だからヒロさん、私を清めてください」甘えるように言いながら、そして、懇願するように見つめながら、私は一歩目に続く二歩目を三歩目に託しました。「あっ、あう、う、私、シャワー浴びるの忘れてたです………汚い身体のままシテもらおうだなんてゴメンなさい、ヒロさん。すぐ浴びてくるですから、許してくださいお願いです嫌いにならないでください」ですが、三歩目を出したすぐ後、私はミスに気づきました。少なくとも、私自身にとってそれは、嫌われても仕方がないくらいの大失態でした。なので、つい先程とは、がらり。と、変わって泣きそうになりながら、慌てて浴室へと向かおうとしました。
「イイよ、このままで」
ですが、ヒロさんはそう優しく囁くと、私を抱き寄せ、私による一連の動作で腰あたりまでずり落ちてしまったシャツを、あらためて捲り上げる。
はむっ。
「えっ、ヒロさ、んっ、っ…、っ!」そして、激しく動揺していた事でこりこりとなっていた状態から硬度が著しく下がっていた筈の私の胸の突起の内の一つを、優しく口に含んでくれました。その途端、私は霰もない喘ぎと共にびくんと跳ねる。
れろっ。
ちゅっ。
「あっ、んっ、あふ………っ」ヒロさんによるその刺激で、どうやら私は軽めに到達してしまったようです。なので、がくがくと小刻みに揺れながら崩れてしまいました。一度は強く閉じるに至った目は、中途半端に開いて焦点が定まっていない瞳を晒し、身体中を駆け回る快感の波が溢れ零れた口は、中途半端に開いたまま、ぱくぱく。と、震える。
「え、あっ、大丈夫?」
私はその時、シャツをあらためて捲り上げた後、すぐに背中へと腕を絡めて抱きしめてくれていたヒロさんのおかげさまで、床へと倒れ沈むまでには至りませんでした。故に、対面している状態で、ヒロさんの腕を支えに仰け反る格好となっていた私に、ヒロさんが優しく、そして、心配そうに声をかけてくれる。
もっとシテくださいヒロさぁーん。
「もっとぉ………」軽く到達したものの。それでももう何度目になるのか判らないくらいに何度も何度も貪ってきた淫猥な充足感を大きく上回る快感を浴びた私は、それをヒロさんが与えてくれたという悦びに打ち震えながらなんとか顔を上げ、定まらない視線をヒロさんに向けながら、ついつい本心を、おかわりを懇願しました。
「うん。判った」
そう答えて微笑みを見せてくれたヒロさんは、私を自身で立てるよう優しく誘導する。そして自分は両膝を開き、そのスペースにやはり優しく抱き寄せてからゆっくりと、私を見つめる為に顔を上げた。
「じゃあ、オレを見て」
そして、優しい声でそう促す。「はい………」私は素直に従うが、まだ余韻が抜けていないので、よろよろ。と、揺れる。
「さっきみたいに、見せてくれる?」
私が崩れた事によって再びずり下がっていたシャツを自身で捲り上げるよう、ヒロさんがやはり優しく促す。「………はい」私は素直に従い、僅かすらもない膨らみを二つ、再び露出させました。ぷっくりと浮き出てその身を固くさせている突起の内の左のそれが、つい先程の刺激で付着した水分によって艶めかしい潤いを帯びていました。
「うん、やっぱり、可愛いよ」
見つめたままヒロさんが囁いてくれる。そして見つめたまま、私の腰に添えていた両の手をゆっくりと滑らせていく。「はう、ん、く、んっ」その手が指が肌を這うようにして上がっていく感触に誘発された私は、びくん。と、小さく揺れながら甘い吐息を漏らす。
「目を閉じないで。オレを見て」
囁きながら、ヒロさんは脇あたりまで這わせた両の手を、更にゆっくりとスライドさせていく。「あう、う、はい………」ヒロさんの両の手が、指が、胸の突起を目指している事に意識が奪わてる中、重くなる瞼をなんとか開きながら、私は恭順の意を声にする。そして、ヒロさんの言うとおりヒロさんにシテもらえているという事をこの目に焼きつけておかなければ、アイツを消す事に手間取る事になるという大切な事を思い出す。一応は。と、言うか。別の目的の方がメインで、仕掛けておいた証拠となる一手が背中越しに存在しているので、それを後で何回も観る事で、それによる効果はあったのですが、実際にこの目で認識しながら体感する事の方が、効果が格段に増しているのは比べずとも明白の理でした。「っ! あっ、ん、んっ!」そして、その僅か後。待ちわびた到着を告げる刺激によって、待ち望んていた以上の快感を得た私は、がくがく。と、膝折れしてしまうのを耐えながら喘ぐ。ヒロさんの指が触れた事で、私のそこは完全に固くなっているという事が容易に判った。「んっ、ダメれすヒロさ、んっ、ん、私、立ってら、んっ、ない、んぐ、っ、よぉー」たまらなく刺激的なこの快感を得たままにする為に、この体勢を維持しろ。と、脳がいくら指令を出しても、身体がどうしても了承してくれず、がくがく。と、私は遂に床へと崩れていく。
「おかわりは、もうイイの?」
崩れきって所謂ところの女の子座りの態勢で、力無くヒロさんにしなだれかかっていた私の頭を優しく撫でながら、ヒロさんはそう声をかけてくれました。丁度と言うべきでしょうか、私はヒロさんの大事なところに頬を寄せる形となっています。「ヒロさぁーん………」なので。と、言うべきか。微睡んでいた私は、それによって、ヒロさんの状態に気づき、気づくや否や、嬉しくて、頬だけでなく手もそこにすり寄せていく。そして、頬に伝わる感触を再確認するかのように顔を上下させました。普段着であるジーンズ越しではあるものの、ヒロさんのそれは真っ直ぐ臍の方へと伸びていて、それを感じた私は、おもわず顔が綻ぶ。「ヒロさん、こんなになってくれてたですか………嬉しいなぁー」ヒロさんを見上げながら、私は努めて可愛くそう囁いて微笑んだ。
「シテくれるの?」
私の頭を撫でながら、ヒロさんが訊いてきます。ですが、その声質に促しの色はありませんでした。
「それとも、シテほしい?」
だからなのでしょう、続けてそう囁いてくれました。どうやらヒロさんは、私の希望を優先するつもりのようです。それと、きっと、トラウマの事を考えてもくれていたのでしょう。「ヒロさんのをしたいっ、う、してみたいです。ヒロさんに………それをさせられたいです」ヒロさんに投げかけられた選択肢に対して、私はそのように答えました。選んだのは、シテくれるの? の、方です。しかも、食べさせてくださいという条件付きで、です。これが欲しい。欲しくて欲しくてたまんない。これで、これで掻き回されたい激しく突かれたいよぉー。早く、早くヒロさんに、ヒロさんで、めちゃくちゃになりたい。と、既に渇望すらしていたのですが、その前に。
「うん。判った」
それを聞き入れたヒロさんは、少し腰を浮かしてジーンズをずり下げようとした。「あっ、待ってください………」でも、私はそう言って、その動作の継続に待ったをかけ、私自身がその続きを代わる事で、引き継ぎを願い出る。そして、丁寧に膝まで下ろし、そこで膝まで下ろしたジーンズとヒロさんの間に潜り込む。まだシャワーを浴びたばかりだったからでしょう、ソープの香りが私の鼻孔を穏やかに撫で回す。私が綺麗に舐め回すというシチュエーションが理想だったので、かなり残念ではありましたが、興奮が冷める事はありません。「えへへ………捕まっちゃいますた」そんな思いは少しも表に出さず、これが完了の印とでもいうかのようにヒロさんを見上げてそう告げると、ヒロさんの両の手を掴んで自分の後頭部あたりに誘導する。華奢で小柄な体躯なので、出来上がったサークルにすっぽりと収まっている。「食べさせてください………」そこまで終えると最後に、ぽつり。あとは思うがままに私を使ってくださいと言わんばかりの表情で、本題の実施を求めました。勿論の事、努めて可愛くそうしましたよ。
「え、あっ………うん」
呟きながら。そして、頷きながら。ヒロさんはその両の腕に力を入れつつも、努めて優しく私を誘導する。「んっ、んぐ」ターゲットは、至近距離にある。勿論の事、私に拒否する気持ちは全くありません。故に、その時間は僅かでした。逸る想いを押さえきれず自ら進んで頬張ってしまいたい衝動に駆られながらも、努めて我慢していた。それが本心ですが、ヒロさんが誘導するそれに従ったという体を崩さず、口を目一杯開けてなんとか収まるといったサイズのヒロさんのアレが、私の口内にゆっくり収納されていく。私は唇をあてがい、舌で味わいつつ、歯が触れないように吸い込む。アイツとは違いすぎる大きなサイズだったので、初めてするようなものでした。やっぱり、身体が大きいと、大きいんですね。入らないのも納得ですが、痛かろうが今度は私自身で捩じ込みますけどね。「んく………」と、思いながら。私の唇や舌や吸引によって敏感極まりない箇所を全面に渡って隙間なく刺激されたヒロさんが、反射的に甘美の表情になる。そして、ほぼ続けざまに二度目。その直後に三度目。私が舌を絡め始めたからでしょうか。「うっ………」と、甘美の声も漏らす。よし!
じゅる、んっ…ぐ、じゅぷ、ん、んっ、んく、はあ、はあ…んくっ、じゅる、じゅる、んっ、ん、んぐっ、はあ、はあ…はむっ、ぬぷ、ぬちゃ、んっ、ん、んぐ、んぐ、ぷはっ、はあ、はあ…んっ、ん、んくっ、ん、んんっ……。
淫猥な音の数々を響かせながら、更には間に吐息を挟みながら、湧き上がる興奮を滲ませながら、もうそれをそうする以外の何も考えてはいないかのような一心不乱さで、私はヒロさんのヒロさんを頬張り続ける。両手を添え、存分に味わい尽くしてやると思いながら、目を閉じて顔を何度もスライドさせる。誰にも渡すもんかと意思表示するかの如く張り付き、そして吸い込む。こんなにも愛しているんだよと意思表明しているかの如く舌を絡め、そして、幾度も幾度も舐め回す。その様子はまさにそう、私のモノだと言わんばかりです。って、私のモノですけどね。
「んっ、く、ヤバい、かも………」
私によるそれを私からは初めて体感するという興奮が大きな理由の一つではあったんでしょうが、ここ最近においてご無沙汰だったという事と、独りで処理する元気もないくらいに激務の毎日だったという事が重なっていたようで、ヒロさんは達してしまいそうになっていました。大塚さんとは身体の関係だけのようで、それ以上には進展していないみたいですし、大塚さん以外にお遊びする人は私がストーキングするかぎり見つけられませんでしたから、少なくともこのあたりのヒロさんは、ホントに久し振りだったんでしょう。「んくっ…ぷはっ、はあ、はあ……ヒロ、さぁん、イイですよぉー、んくっ、はあ、はあ…、はむっ、んっ、ん、んくっ、ん、んんっ、じゅ、んっ……」口から一度離した私は、上目遣いで懇願するように告げるや否や再び頬張り、スライドさせるスピードを早く、そして、吸いつく圧力を強くキープする事で、その達成に集中する。
「あくっ、ヤバい、うっ…っ!」
私によって止め処なく上昇していくその高揚感に頭の中を真っ白にされていった筈のヒロさんは、夢心地の境地に送り込めたかどうかまでは判りませんが直後、びくん。と、小さく。ですが鋭く震えて、その頂きへと到達してくれました。「んん、うっ、ん………っ」生温かくてとろりとした液体が口内に放出された事でヒロさんの到達を認識した私は、ヒロさんをその地点に誘えた事に満足感と充足感を覚えながら一旦はスライドを止め、一通り放出され尽くすのを待ちました。
んく、ちゅっ。
んくっ。
そして、頃合いを感じると再び密着を強め、その最後の一滴まで絞り尽くす事を目的として吸いつきながら、ゆっくり。と、離れていく。そして、口内にその証しを溜めたまま、ヒロさんを見上げて微笑む。この量だと沢山気持ち良くなってくれたようだとか、この量ならやっぱり何日もしてないかなとか考えながら。
「ありがと………気持ち良かったよ」
暫くは何も考えず、ただただ登頂した満足感に身も心も委ねていたい衝動に支配されかけているようでいて、ヒロさんはそれでも自分を見つめている私を優しい表情で見つめ返してくれながらそう囁いてもくれました。「ん、っ、んぐ、ふはぁ………んぐっ。ヒロさんの、飲んじゃったです」ヒロさんが見つめ返してくれた事を自身の瞳で確認した私は、そこで漸くヒロさんのとろりとした数多の種達を、口を半開きにしておいて見せつけてから、全て飲み干む。そして、敢えてそう告げてから微笑んだ。
「吐き出して良かったのに」
その様子を見るに至ったヒロさんは、そう言って私を気遣う。どんな味なのかは知りたくないので知らないままなのだけれど、それでも匂いは知っているので、美味しいモノではないだろう事は想像デキる。たぶん、そんな感じでしょうか。私のように飲み込んでくれる女性は多いのでしょうし、そうしてもらいたいと思っている男性も多いと思っていたのですが、どうやらヒロさんはそうしてくれなくてもイイよ派なようです。「そんなのダメです。飲んだのは初めてなんですけど、ヒロさんのだからイヤじゃないもん」ヒロさんの優しい気遣いに対して、私は、ついつい。そのような言い方をしてしまいました。今にして思えば、飲んだのはっていう発言は明らかに失言だったのですが、ヒロさんはスルーしてくれたようです。序でに言えば、慣れているとしか言い様のない私の咥え方についても。
「いや、その………ありがと」
私のそんな言い方によって、脳内に浮かんだ事があったのかどうか。それは怖くて訊いてはいませんが、ヒロさんはそう告げてくれました。危ないところでした。ヒロさんは私がまだ初めてだと思い違いをしてくれているのに。ヒロさんのモノを味わえるという興奮と、ヒロさんに気持ち良くなってもらいたいという願望と、もう私じゃないとダメだくらいに思わせたいという欲望が、完全に先走りしてしまいました。「上手くデキたか判んないですけど、これで私のお口は清められました。次は、次はお顔にかけてくださいね? それと、上手にデキるよう教えてください」ヒロさんが訝しく感じていないようなので安心した私は、さらり。と、初めてだとアピールしておく。そして、次回の希望も付け足す。今この時だけの戯れ言なんかじゃないんだよと、秘め事なんかでもないんだよと、ヒロさんに意識してもらう為に。勿論の事、冗談を言うかのように。
「ん? 顔にかけちゃったら拭かなきゃだからさ、一旦中断になっちゃうぞ?」
私のそんな思惑に気づく事なく、再びの清めというワードにのみ意識が向いたようなそんなヒロさんだったのですが、私が冗談で言っているとしか思っていないみたいで、だからなのかそう返して、悪戯っぽく微笑む。「えっ………あ、そうですね。じゃあ、じゃあ、別のトコをいっぱい清めてもらってから、お願いします」たしかにそのとおりだ。と、思った私は、微笑みながらそう返しました。そして、ヒロさんに抱いてもらえたら何もかも忘れてしまえるという思いを強くする。
「別のトコ………うん。そうだね」
僅かばかりの思案の後に私の言わんとする事を理解したヒロさんは、私が言う別のところを意識してしまったようで、少しだけぎこちない素振りを見せる。「じゃあ、じゃあ、今から、今からシテくれるですか? それとも、イッたばかりですからお預けですか? 今度は………最後まで、最後までシテほしいです」恥ずかしそうに、もじもじ。と、私が訊く。ですが、その恥ずかしい素振りは努めてそうしているだけ。内心を占める殆どは、もうすぐヒロさんを私のモノにデキるという期待。と、言うより。どろどろとした欲望でした。
「させてください。って、感じかな」
私の嘆願に対してヒロさんは、そう言って照れたような微笑みを見せ、その微笑みを残したまま私を優しく抱えました。努めて優しいその挙動に私は、過去をリンクさせる事なく、少しも考える事なく、されるがままに身も心も預ける。「はうう、ヒロさぁん………」軽々と持ち上げられて尚且つ、抱き寄せられた私は、足を閉じたヒロさんのその上に座る格好となり、眼前すぐとなったヒロさんの瞳に釘付けとなっていく。体格の差によって私の方はおもいっきり開脚する状態となった為、下腹部がジャージを間にしてヒロさんの下腹部に当たっている。勿論の事、ヒロさんの下腹部は晒されたままです。
「やっぱり………びっしょり、だね」
故に。既にもうひんやりを激しく通り越して、びしょびしょ。に、なっている私のジャージの奥を、ジャージの奥の下着のそのまた奥を、ジャージ越しからでもヒロさんに気づかれてしまったようです。勿論の事、そういう状態だと判っていましたので、恥ずかしさに駆られた私は、ヒロさんから目を逸らすに至る。「はうっ、くう………」ですが、おもいっきり開脚する姿勢になった事による刺激と、密着する事によって加えられた刺激。その両方を浴びた私は、反射的に眉間に皺を寄せながら目を閉じ、身体をびくんと激しく震わせてしまう。「あう、ん、んっ………」そして、その刺激を受けて全身を隈無く走った淫猥な波がじんわりとした甘美さに変化していくにつれ、強張っていたその表情がみるみるうちに惚けていく。
どろっ。
じゅわ。
それは、失禁に近い感覚だった。
それ程に、勢いよく飛び出した。
実感してしまうほどに。
「はう、う。ヒロさぁん、私、私、も、もうダメみたいですぅ………」既にもうたっぷりと分泌され太腿に至るまで溢れ零れ、下着からジャージから当たる部分をすっかり濡らしていたのに、生温かい淫液が更にその量を増やした事を体感した私は、そこにあるじんじんとして止まない突起のうちの一つをダイレクトに弄んでほしいという衝動に、意識を支配されていく。
「じゃあ、ここに座って」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ヒロさんは私の腰に両手を添えると、ひょい。と、抱えてテーブルに座らせる。そして、私から優しく、ですが容易くシャツとブラを脱がせ取ると、ゆっくり顔を動かしながら露出した胸の突起二つを見つめた「あうっ………ヒロさぁん」テーブルはキッチンから見て後ろに位置しています。そして、キッチンには灯りがあります。点灯もしています。つまり私はこの時、ヒロさんを間に挟んだ状況で裸となった上半身を完全に照らしているという事になります。故に、つい先程たっぷりと味わった快感の余韻が残るコリコリに固くなったままの黒ずんだ二つの突起が、白日のもとに晒されています。しかも、灯りに照らされている分だけ白い肌との対比が強烈で、私はコンプレックスと羞恥心がどちらも高まってしまい、途端に泣きそうな声を出しました。
「もう一回、食べてイイ?」
ですが、ヒロさんは。
はむっ。
「えっ、あっ、はんっ!」そう優しく尋ねるや否や返事を待たずにその一方を口に含み、尚且つもう一方を摘まんで舌で指で共に転がし始めました。なので私は、先程たっぷり浴びた快感を再び味わう事となり、反射的にびくんと仰け反ってそのまま、天井を仰ぎながらその波に溺れました。
れろっ。
ちゅっ。
「はうっ、んっ、ん、あん!」ヒロさんが愛撫してくれる度に、私は淫靡な声を洩らし、ヒロさんが愛撫してくれる毎に、私から淫液が溢れ出す。
はあ、はあ、あっ、はんっ、ヒロさぁん…他のトコロも、ああっ、はんっ、さ、あんっ、触ってほしいです……っ、あんっ! お願いです、からぁ、あんっ、はんっ!
強烈な快感を再び得ながら。そして、切なさにも襲われた私は。手放したくはない快感ではあったものの、遂に自身の口からそう懇願しそうになる。
「んぐ、ん、お尻を上げて。はむっ……」
すると、突起の一つから口を離したヒロさんは、そんな私の心を読み取ってくれたのか、そう優しく促すと、再び口に含み、そしてもう一つの方は指で摘まんで転がしたまま、そう告げてきました。「あんっ、あっ、あっ、はうっ!」激しい快感の波に溺れ続けながらも、私はヒロさんの言うとおりテーブルに手をついて、なんとか腰を浮かせる。そして、私が小刻みに震えながらもなんとか腰を浮かすと、ヒロさんは口での愛撫は続けつつ、両手をジャージの方へと滑らせ、下着ごとジャージをクイッと下ろす。器用とでも言いますか、手慣れているとでも言いますか、このあたり少し嫉妬心が芽生えたんですが、もう僅かばかりも冷静ではいられない私となっていましたから、この時は次への期待の方が確実に勝っていました。「ああん、あっ、あっ、ああっ、あん!」なので、ヒロさんの愛撫と指の動きに反応しながらも、なんとか腰を浮かせ続けていた私は、下腹部が遂に露出した事で興奮が如実に高まりゆく自身を感じつつ、直接外気に晒された事で途端にひんやりとする下腹部への愛撫を、渇望して止まなくなる。
「んぐ、ちゅっ………」
ヒロさんはここで、胸の突起への愛撫を中断しました。そして、私を見つめながら私の片方の足から順番に、なんだか焦らすようにして下着とジャージを脱がしていく。「はう、う、あっ………ん」ヒロさんの誘導どおり従順に足を動かし、下着とジャージをその身から遠ざけた私ではありましたが、下着とジャージがもう片方の足へと寄せられた途端に、少し。尿臭の混ざった淫猥な匂いが、ふんわり。鼻に届いたので、不安に襲われながらヒロさんを窺いました。
「恥ずかしいの?」
当然の事ながら、その匂いは私の顔の位置よりも下にいるヒロさんの方がしっかりとはっきりと届いていた筈なのですが、シャワーを浴びていない上に今の今まで露出させないままジャージまで濡らす程に感じているのですから、蒸れてしまって匂いが増すのは当たり前の事だと、たぶん、そんなふうに思ってくれたようです。そして、私であれば構わないとも思ってくれていたようで、でへへ。ですが、言い換えればそれは、そういう状態での下腹部はそういうものだという事を、未経験ではないヒロさんは充分に知っているという事でもあり、今にして思わずともかなり複雑な気持ちを覚えなくもないのですが、そんな事を考える私もいるなんて思ってもいないでしょうヒロさんは、私の下腹部に両手を添えると、それぞれ左右に優しく広げました。すると、防波堤は無くなったとばかりに更に、とろり。と、外気に触れてひんやりとした中で、生温い淫液が溢れ出すのが判りました。「あ、う、う、恥ずかしい、です………」兎にも角にも、ヒロさんが匂いについて気にする素振りを全く見せなかったので、それについては心の底から安堵したのですが、ここに来て失禁したかのようにびしょびしょに濡れているグロテスクな下腹部を、遂にヒロさんに見られるという羞恥心が芽生えていました。胸の突起二つがそうであるように、私の下腹部も弄ばれてすっかり黒く変色しています。つい先程の時は、ふさふさな毛によって隠されたままでしたし、精神が不安定な状況でしたから、気に留める余裕はなかったのですが、ここにきて、遂に。なので私は、刺激してもらう事で得られる快感を強く欲している自身と、初めてだと思ってくれているのにこの有り様はないだろうという存亡の狭間で、勝っていた存分な愛撫への欲望の達成を願いながら目を閉じました。まだ直接そこにある突起や淫液の通り道を愛撫されていないのにも関わらず、それらを刺激される事で得られる快感への期待と胸の突起二つへの快感だけで私は、吐息と共に切なすぎる声を洩らしていました。結局のところ私は、直ぐそこにあるヒロさんからの快感に溺れたくてたまらなかったんです。
「今、見られちゃってるよ?」
が、ヒロさんは。焦らすかのように、時間をかける。広げたそこを更に押し上げたので、もう既に充分に期待していた淫欲に従順な突起が、ぷっくり。と、赤みを格段に深めたその表情を一段と露わにさせていたと思います。「あう、あう………」ヒロさんは、そのまま動いてくれません。イジワルさん発動です。渇望までしているが故になのか、意識がそこへ集中してしまって、その敏感な突起が、ひりひり。と、決して弱くはない痺れを発しているのを感じた私は、懇願しようか思案する。ですが、初めてとは思えないくらいに汚れた色見のする私の局部を見て、ドン引きしているのかもしれません。と、そう危惧した私は、そろり。と、ヒロさんを窺おうとする。の、ですが。そこで、ヒロさんと目と目が重なる。「はう、う………」ドがつくSさん発動の方のヒロさんでした。穏和な笑みを称えてはいるものの、私の様子を窺っている。「あう、う、恥ずかしいですよぉ、ヒロさん………」ドン引きの方ではないと安堵した私は、それならばと恥ずかしさに塗れている可愛げある態度を見せようと試みる。の、ですが。「ヒロさぁん………お願いします」欲しくて欲しくてたまらない状態だった事もあり、安堵感から愛撫を懇願してしまう事にする。
れろっ。
懇願するや否や。「あん、ああっ、あんっ!」ヒロさんは、こりこりとしてぷっくりと尖りきっていたでしょう下腹部の突起を口に含み、そして舌を這わせながら吸い込んでくれました。びくん! と、油断していたと言うべきなのか兎にも角にも私はその刺激に、おもわず仰け反ってしまいました。じょわ。更に、尿が漏れる。淫液ではなく、たぶん、きっと。アレは、尿でした。若しくは、潮? 今まで浴びた事のない、強烈な快感だったのは間違いありません。「ヒロさん、ゴメンなさ、い………オシッコ、出ちゃいまし、っ…っ、あん、あっ、ああっ、あっ、っ、っ、っ……っ!」快感の波の中、朦朧となりながらも失禁したと思った私は、ヒロさんにかからないように自分の手で防ごうとしたのですが、ヒロさんは愛撫を止める事なく、何事もなかったかのように続けてくれました。そんなヒロさんを見た私は、その途端に放心状態に陥り、小刻みに震え、ヒロさんによるそれで、完全に到達するに至りました。しかも、猛烈に。量の目は空中を彷徨い、そして、口をだらしなく大きく開き、更には身体を仰け反らせた私は、小刻みに震え続けながらも次第に、背中から、がくがく。と、テーブルにその身を沈めていく。視線の定まらない瞳はそのまま、口はあうあうと声なき声を形作り、下腹部からは今度こそ、尿が吹き出している。そんな有り様です。私自身、このような状態になる程の快感は初めてでした。兄というケダモノによる性的虐待は勿論の事、自慰でもこれ程の快感を得た経験はありません。心の底から望んでいる人に抱かれるという事は、こんなにも気持ちのイイものなのかぁ………と、呆けながらも私はこの時、そう感じました。私は、知ってしまったんです。今にして思えば、その後の数えきれないくらいにヒロさんに抱かれた今となれば、この時のそれは、それでも下位にランクインする事になるんですけどね。「ゴメン、な、さい、私………」それは兎も角としまして。失禁したという事は、ヒロさんを汚してしまったという事だとも思った私は、快感に溺れて言う事を聞かない上体をなんとか起こそうとし、なんとか起こすと、ヒロさんを見つめながらお詫びしました。そして、綺麗にしようとヒロさんの顔を、懸命に舐め回しました。ここで嫌われたら全てが水の泡だと焦りながら、ヒロさんから許しを得ようと試みたんです。
「ちょっ、あの、気にしなくてイイよ」
ですが、ヒロさんは。気にも留めていないようでした。優しくそう言うと、優しく微笑みながら、私を見つめ返してくれたんです。「ゴメンなさい。ヒロさぁん………」世界で一番優しいヒロさんの優しさを浴びた私は、申し訳ありませんという気持ちに拍車がかかりました。なので私は、両の手をヒロさんに添えたまま、そしてヒロさんの顔に舌を再び這わせて、私の汚い液体を隈無く舐め取る事を続けました。
れろれろ、
んっ、く、
れろれろ、
はあはあ、
ねちょ、
べちょ、
びちょ。
はあはあ、と。吐息が強く弾んでいく。自身の尿を舐め取るというよりも、ヒロさんの顔を舐めつくすという感じになっていました。私自身、そんな行為に興奮を覚えているようです。実を言えば、この時にそんな自分がいるという事に気づきました。
はあはあ、
はあはあ、
れろっ、
ねちゃ、
れろっ、
びちゃ、
んぐっ。
「ん、もう大丈夫だから。だから、ね?」
一向に止めようとしない私に、ヒロさんはヒロさんで申し訳なく思う気持ちが芽生えたようで、優しくそう言って私を促そうとする。「んぐ、んっ、ヒロ、ひゃ………んっ、く」ですが、私は止めようとしない。と、言うよりも。無我夢中といった有り様で、一心不乱といった形相で、覚えてしまった興奮そのままに、ヒロさんを舐め続ける。この時にはもう、尿を舐め取るという事に意識は殆どなく、愛しいヒロさんを舐め回し舐め尽くすという興奮に時間を費やしていたと思います。
「う、くっ、ん………っ」
「大好き、大好き、れす」
れろっ、れろっ、
「えっ、と、んく、んっ」
「大好きれしゅ、よぉー」
べちょ、べちょ、
「うっ………ちょっ、ん」
「ヒロ、ひゃ、んっ、く」
はあはあ、
はあはあ、
はあはあ、
はあはあ、
「ヒロ、さぁーん………」どのくらいの時間を要したかは覚えていませんでしたが、動画で見直す限りにおいては、客観的にドン引きしてしまうものがあります。たっぷりと堪能したからなのかそれとも、名残惜しい気持ちはまだあるもののといった心持ちなのか、兎にも角にも私は、ヒロさんの顔から少しずつ舌を離しながらスライドしていき、自身の鼻とヒロさんの鼻が当たるあたりで、ぴたり。と、止めました。
んくっ。
そして、
ヒロさんの唇に自身の唇を重ねる。
「んんっ、ん………」
唇を重ねてくるであろう事は充分に予感できた動きではあったでしょうが、ただただ興奮そのままに貪り尽くすといった感じの私による激しいそれに、ヒロさんは少し面食らってしまった様子で後ろの方へと顔を反らすに至ったようです。「ん、んんっ、ん、んっ、ヒロ、ひゃ、ん、んく」そんなヒロさんを私は、逃すまいと両の手にも力を込めて食い下がり、体勢を入れ替えるようにして食い下がりながら徐々に、徐々に。くるりと反転し、テーブルに倒れ込む形となったヒロさんに、私によってそうなるに至ったヒロさんに、ずるずる。と、乗りかかる。
「え、ちょっ、えっ?」
それが何を意味しているかという事は存分に理解デキたでしょうが、ヒロさんは私の方からそれをしようとしてきたという戸惑いを少し見せました。ですが、ここらあたりは男の性とでも言うべきでしょうか。その完遂を期待する思いの方が大きくなっていったのでしょう、その戸惑いとは裏腹に下腹部の膨張が再び極まっていきました。なので私は、それを右の手によって存分に確信しつつ固定し、狙いを定めながら浮かせていた腰を沈めていく。
にちゃ、
じゅぷ、
「っ………あうっ、うっ、はぁん!」私はこの時、あまりの興奮に気が遠くなりそうな状態になってしまいました。ですが、更なる満足への歩みを止めるつもりは更々ありません。なので私は、ヒロさんの膨張しきっている下腹部を自身の濡れきった下腹部へと収め始めました。やはりと言うべきか、小柄な私の下腹部には大きいようで、私が私の邪魔をしてしまい、ヒロさんを私の中に誘えない。ですが、その課程でさえ得る事が存分にデキたその新たな刺激によって、その興奮は沸点を越え、薄れゆこうとする意識は薄れゆこうとするその歩みを止めました。正直に言うと、貪り尽くしてやるという欲望が大きく勝ったという事です。
ずぶ、ずぶずぶ、ずぶ。
ぐちゅ、じゅ、ぐちゅ。
「んくっ、狭い………」
放心状態で小刻みに震えつつも咽び喘ぐという、見た目の私とはかけ離れた私を見るに至ったでしょうヒロさんは、何度も押し広げられてきたとは言えやはり小柄で華奢な体躯ですし、もう何年も密封している状態でしたから、私の濡れきった下腹部の狭さを既に少し体感していても、そんな先程と同じ事を声にしました。「あっ、あっ、ああっ!」対して私は、大きく悶えてしまう。ヒロさんを導き入れる毎に、強烈な快感の波が身体中を走る。ヒロさんを導く事で、それによって押し広げられていく毎に、その刺激がその摩擦が感触が、途轍もない快感を作り出す。狭い故に幾ばくかはあった痛みなんて軽く凌駕する快感が、私を瞬く間に呆けさせていく。無理やり捩じ込む事による痛みなんてどうでもイイ。ヒロさんが入ってくるという満足感が興奮を上昇させ、快感を生んでいく。今度は根元まで、そして、最後まで。私が上に乗っているのだから、誰にも邪魔はさせない。ヒロさんにさえ、もう、躊躇はさせない。ヒロさんは、私だけのモノなんだ。「ああ、かは、ああっ………はんっ!」ですが、ヒロさんのそれが私の奥深くまで到達した時、私はそこで呆気なく力尽きました。不覚にも快感の波に溺れてしまって、完全に呆けてしまったんです。たぶん、私はこの時、それを知られるに値する表情を晒していたと思います。「あう、う、んっ、くふ………」ですが、大柄なヒロさんに跨がるのは小柄な私です。目一杯に足を開いて漸くそうなれる状態にいましたので、呆けて倒れ込むのはヒロさんの胸のあたりで、前のめりとなります。つまり、ヒロさんに乗っかる形のまま、ヒロさんとはまだ繋がったままです。足の裏がテーブルから離れて、足先と膝がそれに代わるといった体勢でした。「ん! あんっ、あっ、あああ、あっ、あっ、やん、はんっ!」私が呆けてしまうと、ヒロさんはそんな私のお尻あたりを両の手で押さえるようにして、そんな私を突き上げるかのように、そんな私の中を、奥を、強烈に刺激してきました。何年も密封したままで狭くなっていましたから、密着度が高すぎだったのですが、恥ずかしいくらいに濡れていたからなのか、そんな状況でもすぐにスムーズと言えるくらいに往復しているように見えます。この時の私を思い出してみても、もう痛みを覚えるような感覚は無かったと思います。ずんっ。と、押し入るように突き入ってきては、すぐに帰ろうとする。そして、またすぐに押し入ってきては、また帰る。それの繰り返しが、止めどなく続いていく。そのたまらない刺激たるや、それまでで充分に上昇しきっていた筈の快感の波を、そのラインを突き破る急カーブで一気に更なる頂点へと到達させたのは言うまでもありません。更には、その到達が一向に下降する気配を見せないまま持続していくんです。私はその途端、今まで経験した事のない強さの絶頂感を得るに至りました。しかも、その絶頂感を続け様に得ている状態です。ここで早くも、先程の快感を上回る快感を知る事になりました。
ぎし、ぎし、
ぎし、ぎし、
「あっ、ああっ、あっ、あっ、ああっ、ああっ、ああう、あっ、あっ、あっ、あっ、はぁん! あ、うっ、あっ、あ、やんっ、あん、あっ、んっ、ああぁあああーっ!」この時のそれは、その余韻に呆けている暇なんてありませんでした。私のお尻に手を這わせ、私の中で行ったり来たりを続けている間、私はまるでケモノのように、快感の叫びを繰り返し続けるだけ。
ぎし、ぎし、
ぎし、ぎし、
「あん、あっ、やっ、はぁん、んっ、あああ、あ、ああ、あ、あああぁー、ああぁー、あ、あっ、ああっ、あん、あんっ、はんっ!」ヒロさんの固い下腹部にひったりと密着している私の下腹部の内側が、ヒロさんのそれによって激しく刺激され、頂点に達したままの感度がそのまま持続するという、全身が隈なく蕩けていきそうな感覚に、私は完全に虜となっている。
ぎしぎし、
ぎしぎし、
「ああっ、ん、あっ、やっ、イッちゃう、ああっ、ああ、あっ、しゅ、しゅご、ん、いっ、あっ、あっ、あああっ、はんっ、はんっ、あん、あっ、っ、あああっ、あんっ、あんっ、ダメっ、あっ、また、イッちゃう、イク、イクッ、あ、あん、んっ、ま、また、あっ、ら、めぇえええー!」この時の私の叫び声は、イヤホンを通して音割れするほどの絶叫でした。音量を最大のままにしているからなのでしょうが、それでも、それにしても、遂に狂ったかと自分自身でも思ってしまうような、眺めていてドン引きしてしまうほどの、そんな………って、今でもそうでしたね。もう、数えきれないくらい、実のところ数えているので覚えていますが、表現の一つとして数えきれないくらい、ヒロさんに抱いてもらってきましたが、今も、まだ、この時の私と何ら変わりないんでした、あはは。
じゅぷ、じゅぷ、
じゅぷ、じゅぷ、
「あが、っ、あん、はんっ、ああっ、ああああっ、あっ、あ、ああっ、ああぁー、あああぁー、あん、あん、あん、あああぁー!」私はもうその快感に完全に虜となり果ててしまい、ただただその快感に溺れ続けるのみとなって、ヒロさんの胸のあたりに顔を埋め、ヒロさんに支えられながら喘ぎ悶えイキ続ける。その姿はやっぱりケモノのようで、此処が職場である事や、直ぐ隣の部屋で利用者さん達が眠っている事、そして近隣への危惧などは頭の片隅にさえ残っていませんでした。ホント、暴風雨のような雨模様で良かったです。
じゅぷじゅぷ、
じゅぷじゅぷ、
「もう、イクの我慢デキ、ない………っ」
私にインサートしてそのまま、何度も何度も繰り返し刺激を続ける事、数分。遂に我慢しきれなくなってしまったヒロさんが、到達への前触れを声にする。私の口内に放出したばかりだったからなのでしょう、その後のいつもよりも格段に長かったヒロさんの持続度は、それでもここが頃合いだったようです。と、言っても。いつものヒロさんでもいつもより短いヒロさんでも、充分にとろとろなんですけどね。
ぐちゅっ、
ぐちゅっ、
「あんっ、あん、はん、あんっ、あんっ!」ヒロさんが与えてくれている快感が、あまりにも強烈すぎて。気を失いかけていた私は、たぶん、きっと、とんでもない表情でイキ続けていた筈です。だから、膣内に沢山出してくださいとお願いする事がデキませんでした。なんとかそう告げようと思うものの、そうさせようと思うものの、快感の波にどっぷり飲まれてイキ続けているという状況では、どうしようもありません。しかも、そんな経験はそれこそこの時が初めてです。ですが、それでも。ヒロさんが私から離れられないようにしがみつく事だけは忘れませんでした。そして、ヒロさんの上で激しく揺れる全身で、その快楽に溺れながらも、なんとか顔を持ち上げ、なんとか表情を作ってヒロさんへと視線を移そうとしました。表情を作れていたかは覚えていませんし、動画上では後ろ向きなので確認も不可ですし、きっと、少しも作れてはいなかったと思いますが、私の中でイッてくださいというせめてもの意思表示のつもりです。
「そ、それは………う、くっ」
私の思惑を察したヒロさんは、少し動揺した顔つきで私を見つめる。それはそうですよね、流石に妊娠させたら困るでしょうし。私はハナからそのつもりですけどね。用意していたのかどうかは判りませんが、避妊の為のゴムを着ける暇を与えず乗りかかったのも、そうですし。「この、ままっ、あっ、ああっ、こ、こ、こ、このままっ、あんっ、あんっ、あん!」快感の波によって目を閉じかけながらも、口を半開きにした呆けた表情で喘ぎ悶え続ける姿を晒しながらも、私はそれでもその視線をヒロさんから外さない。
ぎしぎし!
ぎしぎし!
じゅぷっ!
じゅぷっ!
「あっ………あ、ううっ!」
そんな私の手を払って身体を離し、そして思う存分どこかに放出するという冷たい行動は実行デキない。そんな世界で一番優しいヒロさんは、もう直ぐにでも到達するという快感の頂点を断念する事もデキず、私の内部にて到達への証しを放出するに至りました。
ぐちゅっ、
にちゃっ。
「あああ、あ、あっ、あああ、あ、あっ、あう、気持ちイイよぉー! ぎもち、イイ、イイよぉおおおー! あが、あがが、あっ、ああっ、あ、あ、あっ、ダメっ、死ぬ、死んじゃう、あっ、あが、あがっ、あっ、あ、ああっ、あああ………あああぁあああーっ………はん、っ! っ、っ…っ、っ……ん、あぐ、う、うっ………はうっ」それによって私は、達成感と共に、何度目かの到達を迎えたその余韻に呆ける。そして、私の中で果てるに至ったヒロさんを、その目に焼きつけておこうとする。
とろとろになりがらも、
視界がボヤケようとも、
ずっと………。
「「はあ、はあ、はあ………」」
快感の余韻に浸るヒロさんと、快感の余韻に呆ける私。暴風雨による激しい雨音を凌駕するかのような、テーブルの軋む音。そして、それをも凌駕するくらいの、快感に溺れる私の叫び声。それらが、ぴたり。と、無くなって。暴風雨による激しい雨音のみが、ヒロさんと私の吐息をかき消すように鳴り響く。
「ぜえ、はあ………」
ヒロさんは目を閉じたまま、息を整えようとしている。「はあ、はあ………」そんな中、虚ろな表情でヒロさんを見つめ続ける私はと言うと。ヒロさんが目を閉じているのを確認した、その途端に。
にやり。
と、笑みが溢れていました。
「ぜえ、はあ………」勿論の事、動画ではその笑みを確認デキませんが、私はそれをはっきりと覚えています。ですが、ヒロさんはそれに気づかない。そして、気づく事のないまま、今日に至ります。「はあ、はあ………」そんなヒロさんの腕から両の手を離し、そんなヒロさんの頭をその両の手で抱え込むように抱き締め、頬をなるべく寄せて、そして。
これで、私のモノだ。
と、私は心の底から喜びました。職員のみなさんにも利用者のみなさんにも、ヒロさんに好意を寄せている事は既に伝えてありました。更に、利用者のみなさんには応援してほしいと告げ、味方につけておきました。そうしながらヒロさんには従順に、そして献身的に努め、ヒロさんにだけは心を開いているという事をアピールしてきました。そして、明日の分の仕込みが上手くデキたという理由で、記念に写真を撮るとみせかけた携帯電話。それを私は、敢えてそう言葉にする少し前に録画ボタンを押して、そしてそのまま、キッチンに置いていました。勿論の事、この動画の事です。
その上での、既成事実です。
しかも、危険日を狙っての。
所謂ところの、保険ですよ。
………、
………、
「ねぇ、ヒロさん?」
「ん、っ………ん?」
大塚さんと切り離す為。
「これからは、由奈。って、呼んでください」
「え………うん。判った。そうするよ、ユナ」
女性陣を諦めさせる為。
………、
………、
「私、良きお嫁さんを目指しますね」
「えっ、と、そ、そっか………うん」
私だけのモノにする為。
………、
………、
「大好きですよ、ヒロさぁーん」
あはは。
………、
これで、
ヒロさんは私のモノだぁー!!
………、
私は、喜びに溢れていました。
………、
この頃は、まだ。
………、
だって、ヒロさんは………。
………、
………、
………、
証拠動画の巻 終わり
赤い糸むすんだ、より
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