080 中編




 お小遣いは、基本料にプラスしてお手伝いのたびに追加がもらえる仕組み。

 頑張ってルシのお手伝いするけど、勉強もしなくちゃだし、遊びもするから大変。

 なのでラウからもらった臨時収入はとっても大事なのだ。

 カザトリ先輩たちが情報をリア婆ちゃんに持ってくるのも使い魔の仕事だから、情報ってすごいよね。実はその話を聞いて臨時収入を得る方法を思い付いたんだ。

 オレって偉い!


 お返しまでにはまだ日にちがあるけど、何がいいか考えないとダメだしお小遣いも計画的に考えて使わないとダメ。意外と難しいんだよ。

 オレは毎日、ルシと計算しながら指折りホワイトデーを待った。

 そう言えば、ホワイトデーって言葉が全然広まってない。一応、チョコレートを買ったお店で「チョコレートがくろいから、おかえしはしろがいいんだよ」なんて言ったんだけど、何故か聞いてた人たちが話をどんどこ変えていってしまって、ホワイトデーじゃなくて「白竜様の愛の日」になっちゃってた。


 ノーラ先輩が面白そうに教えてくれたんだ。ついでに。


「その白竜様の愛の日に、わたしからもムイちゃんにお返しをするわね」

「わぁ、いいの?」

「ええ。だって素敵なチョコレートをいただいたのだもの。カザトリも用意しているわよ」

「わーい!」


 だって! すっごく楽しみ。嬉しいなぁ。

 あとは、ルシにお願いして王都に連れていってもらって買い物したら終わり。

 計画通り。

 なんか、オレって仕事が出来る男っぽいよね。ふふーん!





 なんて思っていた時がオレにもありました。

 うん。

 オレは、今、王都で絶賛迷子中です。



 事の起こりは、ハスちゃん。

 最近ドーンできてなかったからか、オレが好きすぎるハスちゃんは離れて過ごすことに不満を覚えた模様。

 王都でお買い物しよーって回っている最中にとうとうやっちゃったんだ。

 ちょうどルシがお店で交渉してる時だったのも悪かった。一瞬の隙を狙って、外の門に繋いでた紐を力業で離して、その勢いのまま向かってきた。

 オレ、颯爽と翻し、かけてできずに転んじゃったよね。

 たぶん、その時だ。ハスちゃんの紐が引っかかって巻き込まれた。オレたちはころんころんになって、しかも最悪なことにお店の外は細い坂道が続くところで――。

 あとは分かるよね?

 ハスちゃんと一緒になって転がっていった。


 止まってから、よろよろしつつも起き上がって戻ろうとはしたんだ。

 けど、偶然、獅子っぽい獣人族の集団が横切った。

 ハスちゃんパニック。オレもパニック。コナスは硬直。


「どうした、坊主。犬と遊んでるのか?」


 って、声を掛けられて。


 助けてくれようとしたんだと思う。

 だけどその時のオレたちは転んだ後だった。頭がちゃんと働いてなかったんだよね。

 で、本能的にライオンを怖がってしまった。


「き、き、きゃー!!」

「わぉーん!!!!」

「ぴゃーっ!!!!」

「うわーっ!!」


 何故か獣人族の人たちまでパニックになって、辺り一帯が大騒ぎに。

 オレは手綱を握ったまま、逃げるハスちゃんを追いかけて――。



 迷子です。



 怪我してないのが不幸中の幸い。お洋服はあちこち擦り切れちゃったけど、石の階段を落ちたにしては平気。

 実はハスちゃん対策として、オレの方にも防護服を用意してあったのだ。肘とか膝とか、お帽子もしてるんだよ。

 ジャケットの背中にもクッション材入ってて、おかげで助かったんだぁ。

 先見の明!

 ちなみに防護服を差し出してきたのはルソーです。前回、お姫様のところで遊ばせていた時に「ハスちゃんをどうにかするより、先に対策が必要なのはムイちゃんなのでは」と思ったらしい。

 オレのためにしっかり用意してくれてた。

 もちろん、今日も本当なら「ハスちゃん矯正し隊」の一員として何か考えてたみたいだけど、ハスちゃんがオレから離れたがらなかったんだよね。

 オレも可哀想に思ったから……。

 恩を仇で返す男、それがハスちゃんです。

 まあ、怪我してないのでいっか。

 これも愛ゆえ。


 あ、これってダメな考え?

 姉ちゃんが「親友がダメンズ好きなんだけど、その口癖が『だって彼、わたしを愛してくれてるの』だからね~」と苦々しく語っていたのを思い出してしまった。

 オレはぶるりと震えて頭を振った。


「だ、だいじょうぶ。ハスちゃんはダメわんこじゃないし、だからムイちゃんもダメンズすきじゃないの。それにムイちゃんはハスちゃんのかいぬしです。かいぬしたるもの、せきにんをとらねば」

「わぉん?」

「うん。だけど、ハスちゃんははんせいしようね?」

「わぉん!」


 全然反省してない感じの良いお返事。んもう。


「それより、ここ、どこかなぁ。くらくなるまえにかえらないと、おこられちゃうよ?」

「わぉーん」


 ハスちゃんは「こっちですぜ、ダンナ!」って顔して裏道を行くけど、本当に分かってるのかなぁ。

 野良犬してたから慣れてるのかもしれないけど、いまいち不安。


 大人の人が一人しか通れないような裏道も裏道、これぞ裏道の見本ってところを通って、時々壁に空いた穴も通り抜けて進む。

 ……段々楽しくなってきた。

 でもこれ絶対、元に戻ってないよね。

 ハスちゃんは知ってる場所に向かってるっぽいけど、ルシのところへ戻ろうって気持ちはないみたい。

 そういうとこだよ?



 いよいよまずいなって思ったら、ちゃんとリア婆ちゃんを呼ぼう。

 使い魔なので、いざって時は繋がってる部分から緊急信号が出るんだって。どこが繋がってるのか分かんないけど。リア婆ちゃん、リアル神様だからね。


 今はそんな危機感ないし、むしろちょっと楽しくなってきたぐらいで。

 えへへ。

 心配してるかもしれないルシには悪いけど、ちょー狭い道を通り抜けるの楽しい。

 実はレッサーパンダ姿に転変したいぐらいなんだ。

 そっちの方が人間姿よりずっと運動能力高いからね。

 だけど、ハスちゃんてば、一時たりとも立ち止まる気配なし。


「わぉーん!!」

「ま、まって、ハスちゃーん!」


 待ってくれないので、そうなると脱いだ服をまとめて持って帰れない。

 由々しき問題ですよ。

 そもそも、着せてくれた服を脱ぐ技術が今のオレにはありません。


「いいとこのふくって、きけん!」

「ぴゃぅ」


 同意を示してくれたコナスはなんとかポケットにしがみついてます。

 気を付けないと、穴ぼこ通り抜ける時に削れるかもしれないからね。お互いに協力しあって隙間を作りながら通るのだ。


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