ホワイトデーって最高!

079 前編




 オレ、ベリーキュートなレッサーパンダの獣人族。あだ名はムイ。

 赤ちゃんの時に拾ってくれた魔王様こと神竜様のリア婆ちゃんに「ムイムイ」って通り名を付けられた。真名は隠す世界観なんだ。それはいいよ。でもね、ムイムイなんて普通に嫌。当然ムンクの叫びみたくなって、断固拒否した。

 その意を表すために「ムイちゃん」って言い続けて早数年。ようやく定着し始めました。

 あ、すごい時間かけたみたいに聞こえるけど、そんなでもない。なんてたって、オレはまだ三歳。喋り始めたのを考えると……って、そこはもういいよね!

 そうそう、三歳だから自分のこと「ムイちゃん」って言っても許されるの、つまり子供って最高ってこと!



 そんなオレの毎日は楽しいことだらけ。

 あっ、待って、お勉強の時間はちょっと嫌かも。でも、リア婆ちゃんの使い魔兼冒険者として格好良くなるためには勉強も必要なんだ。

 字の練習したりー、魔法の勉強したりー。

 その合間に遊んじゃうよ。


 この間もバレンタイン戦争やったしね。

 戦争が遊び? 遊びに決まってるよ。やだなぁ、三歳のオレが本物の戦争なんてやるわけない。


「なんか、小憎たらしい顔してるが、なんだこれは」

「ドヤ顔だろ」

「なんだって俺がムイちゃんにドヤ顔されるんだ」

「兄貴が変に構うからじゃないか?」


 ラウとフランが何かぼしょぼしょ話してる。オレはチッチッチッと指を振った。


「いい? バレンタインのしょうしゃはムイちゃんだけど、あくまでもバレンタインというあそびのえんちょうなの。それとね、おとながこどもにムキになるのは、みっともないんだよ」

「煽るなぁ、お前」

「ムイちゃんです!」

「へいへい、ムイちゃんな」


 肩を竦めてフランが言う。相変わらずハリウッドスターっぽいんだから!

 オレは、バレンタインでもらったチョコレートの数が「多かった」と自慢しにきた大人げないラウに向かって指を差す。

 あ、人に指差しちゃいけません、だよね。コナスがペチペチ体を叩いてジェスチャーするので、オレはさりげなく指で遊んでるフリをした。

 ん、キツネはコンコンだよね!


「何やってるんだ?」

「あ、わすれてた! えっとぉ~、あそびのたたかいにほんきになるおとなは、はずかしいってはなしだよ」


 うんうん。何度も頷いているとコナスも一緒に足下で頷いてる。可愛い。

 ハスちゃんは今、森を徘徊中。

 ドーンが治らないのを使い魔の先輩方に相談したら、運動させてやるって追い立ててるんだ。カザトリ先輩ありがとう。他にもオレの知らない先輩方が見に来て追いかけっこやってるらしいよ。


「ムイちゃんが先に自慢したんだろうが」

「しらないもーん」

「兄貴、子供相手に張り合うなよ。俺もムイちゃんに同意見だからな」

「フラン、裏切るのか」

「いや、俺は最初から兄貴の味方じゃねぇ」


 ラウはガーンって顔して、フランを見た。けど、白い目で見てるフランに「相手してもらえない」と分かったみたい。

 スッと、何事もなかったかのように格好を付け始めた。えっと、筋肉を見せる感じの?

 相変わらずラウは変態だ。

 オレは、仕方ないので二人に新たな情報を与えることにした。


「このバレンタインせんそうごっこ・・・には、まだつづきがあるの。しってる?」

「うん?」

「またなんか、言い出したな」

「ふふふ、しらないって、つみ!」

「続きって何だ」

「兄貴はあれだな、子供のままなんだな……」


 ごしょごしょ呟くフランは無視して、オレはバレンタインの対となるイベントについて教えてあげた。


「すきってつたえるバレンタインには、おかえしがもとめられるんだよ。いい? ほんきのチョコに『じぶんもすき』ってかえすなら、おかしとべつに、すてきなプレゼントをつけるの。『ごめんね』ならおかしだけ。おぎりのチョコにもおかえしがひつようだよ」

「お返しか。確かにプレゼントをもらったなら返すからな。ふむふむ」

「このおかえしをきちんとできるかどうかで、おとこのちからがためされるの」

「ほほう」

「しっぱいすると『おくったものよりやすいなんてケチだわー』とか『もらうだけもらって、おかえしないのよ』とかいわれちゃうの。おんなのひとのうわさばなしは、ひろがるのがはやいよ!」

「そ、それはきついな」

「でもね、だからっておかねにものをいわせて、こうきゅうなのをかえすと、それはそれでひかれちゃうんだって~」

「なるほどなぁ。勉強になる」

「兄貴……。あとムイちゃんは一体どこで、そんな怖ろしい話を学んでくるんだ」


 時々合いの手を入れるフランはスルーだよ。


「ムイちゃんは何を返すんだ?」

「ないしょ」

「おい、そこは教えてくれないのか?」

「まねされたらこまるもん」


 ねー、と足下のコナスと見合って頭を斜めに、斜めにしたら倒れそうになっちゃった! 急いで助けてくれたのはフラン。ラウも手を伸ばしたけど離れていたので一歩及ばず。だけど、気持ちはありがとう!


 でもね、それとこれとは話が別。

 オレはスッと手を出した。


「ん?」

「じょうほうりょう、ちょーだい」

「……情報料か!」

「ちゃっかりしてんなぁ。ていうか、母さんが小遣い渡してるだろうに」

「だって、おかえしするのにたりないんだもん」

「ははぁ、なるほど。誰に返すんだ?」

「リア婆ちゃんとおひめさまと、メイドさんたち」

「ああ、そりゃ大変だ。兄貴、勉強になったんだろ? 渡してやれよ」

「そうだな。よし」


 ゴソゴソしてたラウがお財布から硬貨を取り出したんだけど……。


「兄貴、大金貨はダメだろ?」

「そうか? なら、白金貨でいいか」

「そうじゃねぇよ。金貨でいい。いや、情報料と考えたら金貨でも高――」


 言いかけたフランのすねを蹴る。コナスも一緒にえいえいって蹴るけど、届いてないよね。頑張れ、コナス。


「……金貨がいいのか。だってよ、兄貴」

「分かった。ムイちゃん、おかげで俺は失敗せずに済んだ。助かった。これは情報料だ」

「わーい!」

「ぴゃぅ!」

「よかったね~。コナスもいっしょにおかえし、いこーね!」

「ぴゃぴゃ!」


 金貨三枚をもらうとガラドスの財布に速攻で仕舞い込み、コナスを抱えて走り出した。

 後ろで、


「金貨をせしめたら用済みってか。あいつ、やるなぁ」

「ムイちゃんがどこぞの性悪女みたいだ」

「兄貴、本当に気を付けろよ……」


 なんて声が聞こえたけど、オレは増えたお財布の中身に興奮して右から左なのだった。


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