077 チョコレートを広めよう戦略
お姫様が笑う。
「本当にムイちゃんと話していると大人みたいでビックリするわ」
「えへへ」
褒められちゃうと恥ずかしい。あとあと、オレのは前の記憶もあるからね!
それはともかく、大事な核心まであともうちょっと。忘れないうちに言ってしまおう。
「あのね、だから、いちばんうれるのは『ぎりチョコ』なんだよ」
「ああ、なるほど。確かにそういうことになりますね」
「潤滑剤として渡すプレゼントならば、そうかもしれないわね」
オレは両手を口に当てた。んふふ。続きを言いたくて仕方ない。
ほっぺが緩んじゃう。
みんな、まだ分からないよね?
「んふ。あのね、ぎりチョコをいっぱいよういするの。やすくするんだよ。しょみんがかえるおねだんにするの。つまり~、ぎりチョコは~、チョコレートのぶんりょうをへらしてつくるんだよ! 一つだけでもかえるようにするの。そうしたら、だれでもかえるでしょ」
「それです!」
セバスちゃんが手を叩く。オレは得意げに続けた。
「でねでね、ともチョコは、ちょっといいやつ。かぞくチョコもだよ。だけどね、ごほうびチョコやほんめいチョコは~」
「たっぷりのチョコレートを使うんですね!?」
「すごいわ、ムイちゃん」
「姫、でしたら、高貴な方へのチョコレートは手間暇を掛けて芸術作品にすれば!」
「ええ、消費してもらえるわ!」
「なるほど、安い義理チョコは広告のようなものですね。それで一般市民に流行れば流行るほど、本命の相手には『高級』な品を探して贈ることになるでしょう。裕福な者ならばより良いものをプレゼントします。となると、そこで競争が生まれる」
「相乗効果ですね。姫、とても良い案ではないですか」
「本当ね」
オレは嬉しくなって、くふくふ笑った。
そしたらお姫様がオレの前まで来て手を取った。すっごく素敵な笑顔。
「ムイちゃん……。あなたは本当に素晴らしいわ」
「えへ」
「まあ、くねくねしちゃって。ふふふ。照れてるのね。そうしていると、まだまだ小さい子みたいよ」
「ムイちゃんは、もうさんさいだもん」
「ほっぺが少し膨らんだわ。ふふ、可愛い」
つんと指で押されてプシューと空気が抜ける。本気で拗ねたわけじゃないよ。勝手に膨らんだだけ。それで勝手に抜けたの。
「バレンタイン戦争は、きっとムイちゃんが勝ちね」
「え、そぉ?」
「ええ。だってこんなに素敵なお話を教えてくれたもの。わたしたち、全員があなたにチョコレートを贈るわ」
「わぁ!」
「もちろん、本命よ?」
えぇぇー!
オレは益々くねくねしちゃった。ごろんごろんしたくなって丸まりそうになったけど、パウラさんに慌てて止められる。うん、そうだよね。今のオレは人型になってるんだもん。ごろんごろんしたら絶対レッサーパンダ姿に戻りそう。
危ない危ない。
冷静になろう。とりあえずコナスを撫でておこうかな。ヘタが髪の毛(って認識)だから、整える感じで撫でた。コナスが嬉しそうにポシェットの縁を叩いてる。
「その妖精さんにも友チョコをあげてもいいかしら?」
「いいとおもう!」
「ふふ。じゃあ、また用意しておくわね」
そんなこんなで、オレの初のお茶会は終了したのだった。
迎えに来てくれたリスト兄ちゃんがバレンタイン戦争の話を聞いて頭を抱えてたけど、まあまあ数秒ぐらいで浮上してた。
仕事が増えるーって、ぼやいてたから「おつかれさま」ってポンポン肩を叩いておいた。抱っこされてて良かったよね。手が届いたもん。
「ムイちゃんがおつかれチョコあげるから~」
「ムイちゃんがくれるのか。それはいい。ところで、どこにチョコレートが――」
「ないしょだよ。よこながしひんです」
お土産でもらったものから抜き出しておくのだ。オレってば賢い。
もちろんリア婆ちゃんやルシの分はちゃんと残しますよ。あっ、カザトリ先輩やノーラ先輩の分もとっておこ。
あれ、もしかして他の先輩にもあげないとダメじゃない?
「……たっ、たりないかも」
「うん?」
「ムイちゃんこそ、ぎりチョコがいっぱいいるみたい」
絶対的に足りないことを悟ったオレは、今回のお土産からは横流ししないことにした。
先輩方には義理チョコにしーようっと。
「あっ」
「今度はどうした」
「プルンにも、ともチョコあげないと」
「ああ、友達だからか。でもまだ商品にもなっていないのだから、もう少し待ちなさい。今回もらったお土産は『横流し』しないようにね」
横流しはあんまりしちゃダメっぽい。
「ん。そうだよね、ムイちゃんがいまのうちにチョコレートをあじみして、どれがいいかきめておいたらいいんだ! ともチョコしっぱいしたら、やだもん」
「そうだね」
「すっごくおいしいのをえらんで、あげるんだ~!」
「そうしなさい。でも食べ過ぎは禁物だよ」
「はぁい」
「それと犬にも食べさせてはいけないよ」
「あっ、そうだった。あれ、じゃあ、コナスもダメ?」
「コナスは妖精だからいいんじゃないかな」
「おみずがあればいいみたいだけど、ごはんもたべらららもんね?」
「たべらら……?」
リスト兄ちゃんは笑いを堪えて小さく頷いた。
オレは白い目でリスト兄ちゃんを見てから、ポシェットの中のコナスを見てみた。
「ぴゃ!」
「たべら、たべるの?」
「ぴゃぅ!」
「そうなんだ!」
良かったと一安心。あとはハスちゃんに言い聞かせるだけ。でも事故はいつ起きるか分からないから、届かない場所に置いておくのが一番だよね。それとハスちゃんの前では食べない。
リスト兄ちゃんもお屋敷の人に通達してくれるって。これで心配事なし!
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