071 迷って相談、尻尾は生き物




 お店にあるレースは機械編みもあれば手編みもあって、種類は様々。刺して縫うやつもあるよ。形もリボンタイプの細いのから、広げたらテーブル以上の大きさのものまで。

 オレはたくさん見せてもらって、すっかりレースの虜になった。

 中でも、ヘンリーさんが編んだという胸飾りが気に入った。細い紐状のレースがネックレスの紐になってて、胸元のあたりから末広がりにヒラヒラしてるんだ。花や植物に蝶が編み込まれてて芸術的!

 だけど、これはあきらかに女性向けで、しかもドレスを着る人にしか合わない。

 胸元の開いたドレスって大人の女性が着るから、お姫様には無理だよね。あと、リア婆ちゃんにも無理。


「んむー」

「もしよければ、どのようなお相手にプレゼントするのか伺ってもいいでしょうか」

「ぜひ、そうなさりませ」


 メイドさんにも言われて、オレは助けを求めることにした。


「えっとね、まだおこちゃまのおんなのこにプレゼントしたいの。これはおとなのじょせいようだからダメでしょ。あ、ムイちゃん、およばれしたからおみやげをもっていくんだよ。おかしももっていくけど、おかしはきえものなのだから、かたちにのこるものもよういしたいんだ~」


 ヘンリーさんは目を丸くした。三歳児がお持たせについて語っているので天才だと思ったんじゃないかな? ふふ、分かる。オレも天才だと思うもの。

 ちょっと胸を反らせてたオレは、メイドさんに頭を押さえられた。うん、落ち着いた。


「……なるほど。でしたら、髪留めはいかがでしょうか。髪紐でもいいのですが、お子様でしたら結びにくいでしょうしね」


 お姫様はお付きの人がセットすると思うけど、華やかに見えるのは髪留めの方かな。


「うん、そうする!」


 それで、ああでもないこうでもないと話し合って、一つの髪留めに決定した。

 もちろんそれはホッとしたし嬉しいんだけど、やっぱりさっきの胸飾りが気になる。

 チラチラ見てたら、ヘンリーさんが「また見に来てくださいますか」と言ってくれた。


「うん!」


 編んでるところも見せてくれるって言うのでオレは尻尾をぶんぶん振ったのだった。




 そんな楽しいお買い物の時間はあっという間に終わった。あ、無事にヌイグルミ作家さんにも会えてレッサーパンダを頼んだよ。ちゃんと「くれぐれもレッサーパンダはかっこいくして」と頼んでおいた。

 メイドさんが「可愛くお願いします」と小声で頼み直してたので「んん!」って注意したら「我が主の分です」って言ってて、リスト兄ちゃんの添い寝用なら仕方ないねってなった。


 そう、楽しかったんだけど心残りが一つあるんだ。屋台で買い食いしたかったのに、メイドさんって厳しいから……。

 一応、オレも頑張ったんだよ。躓いたフリしたり犬がいるって嘘情報を言ったり。

 でも無理だったよね。できるメイドさんって強い。

 眼力もあって、しょんぼり諦めました。


 そしたらね、お屋敷で留守番させられてたハスちゃんもしょんぼりしててね。

 あー、ってなるよね。お疲れ様。ルソーの厳しい特訓に耐えたんだね。ホント偉い。

 耐えた、のかな。オレを見て尻尾全開に振ってるんだけど。リードを握ったルソーの体が一瞬でも動くの、すごくない? 相手は竜人族だよ、執事の鑑ルソーだよ。


「わおーん!」

「ハスちゃん……。しっぽがとんでっちゃうよ? おちつこうね」

「わおん!」

「おちついてないし、なんならパワーみなぎってるし!」

「彼は我が強いと申しますか、大変に扱いが難しい。本当に王宮へ連れていくのですか?」

「だって、ハスちゃんのおともだちのリボリエンヌがまってるとおもうしー。おひめさまも、おともだちみんなでどーぞっておてがみにかいてたもん」

「はぁ」


 深ーい溜息で、ルソーは肩を落としてた。気持ちは分かる。オレも不安。

 その元凶のハスちゃんは頑丈な尻尾を振り回してオレを舐めている。


「んべ。んもう! ムイちゃんのこと、すきなのはわかったから!」

「ぴゃ!」

「コナスまでビチャビチャになったー」


 嘆いていると、ルソーがまたハスちゃんのリードを引っ張って離してくれた。オレはメイドさんに抱き上げられてお風呂に。綺麗にしてくれるそうです。ありがとう!




 そんなだからオレはずっと元気に過ごしてたんだ。

 でも夜になると、ちょっぴり寂しい。リア婆ちゃんもルシもいないんだもの。コナスはいるけど、やっぱりリア婆ちゃんやルシとは違うんだ。

 だから、大事なオレ専用のタオルケットを持って、廊下をぽてぽて歩いた。オレの鼻がリスト兄ちゃんの部屋はこっちと言ってる。


「めいたんてい!」

「ぴゃぅぅ」


 寝ぼけてるコナスをパジャマのポケットに入れたまま――ハスちゃんはぐっすり寝ていたので置いてきた――リスト兄ちゃんの寝室にまで行った。


 彼女がいたらどうしよう、とかは考えなかった。

 リスト兄ちゃんにそんな甲斐性ないよね。堅物真面目で浮いた噂一つないんだって。これは二番目のラウに聞いた。ラウは将軍やっててモテモテだったからあちこちに彼女いたらしいよ。三番目のフランが「兄貴は女癖が悪い」ってぼやいてたもん。

 フランはそこそこの恋愛経験あるみたい。でも結婚はしてなくて、冒険者の仕事が楽しいんだって。

 ちなみに四番目のクシアーナことクシアナくんはナルシストみたいだから彼女いないと思う。

 五番目のノイエくんも変人っぽいのでいないの確定。

 リア婆ちゃんの息子たち、いろいろとヤバいよね。

 ここはオレが頑張って可愛い子と結婚して孫を見せてあげようと思う。

 お姫様狙いかって? そんなまさか高望みだよ。オレは堅実に彼女を見付けます。できれば同じレッサーパンダの人がいいな。パンダはでかいからダメ。

 パンダが嫌いなんじゃないよ。お友達にも大熊猫パンダ獣人のプルンがいるもん。すごく良い子だけど、それとこれとは話が違う。

 あ、熊は論外です。そこは譲れない一線なのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る