070 プレゼントを探しに行くぞ
王都に転移したオレは、ルシが「くれぐれもよろしく」と頼んでくれたルソーにお願いして、町に来てます。
お呼ばれの日までまだ一日あるから、お招きありがとーってプレゼントを持っていこうと思ったんだ。プレゼントのお礼に呼ばれてまたプレゼント? って思うでしょ。ふふん。オレは、そういうループがあることを前世で学んでいるのだ。
前世の記憶があるオレは、体は弱かったけど家族に愛されて育ったんだよ。お姉ちゃんたちに囲まれてお話いっぱい聞かされたから、自分でも体験したみたいな気持ちになってる。
だから、三歳だけど大人みたいにしっかりしてるんだ。
「たのもー!」
「ムイちゃん、挨拶は『こんにちは』ですよ」
一緒に来てくれたメイドさんに小声で注意されちゃった。真面目な人みたい。こういうのはノリと勢いが大事なんだよ?
あとね、三歳児は割となんでも許されます。
「あらあら、可愛らしいお客様だこと」
ほらね!
オレは愛嬌たっぷりにモフモフの尻尾を振った。笑顔も忘れない。
笑顔はね、大体の大人には通じるんだって。通じない人もいるので、その場合は「すん」って顔して敬語を使っておけばいいらしい。姉ちゃんたち、社会で苦労したんだね。でも強いので結構やり返してたと思う。
思い出そうとすると頭が痛くなるので止めようね。
きっと悪魔の所業なんだよ。うん。
とにかく、オレは可愛い熊の人形が並ぶお店に入った。
「素敵な尻尾ね。あなたは狐さんかしら、それとも狸さん?」
「ムイちゃんはレッサーパンダなの」
「あらあら、まあまあ。珍しい獣人族なのね。とっても可愛いわ」
マダム~って感じのオバサマに褒められて、オレは胸を反らした。ポッケに入っていたコナスも心なしか自慢げ。
ちなみにハスちゃんはルソーに捕まってお屋敷でステイさせられてます。たぶんね、ブートキャンプ第三弾ぐらいをやってるんだと思う。ルシが告げ口、じゃなかった、報告してたから。
「あのね、ムイちゃんみたいなヌイグルミがないかなっておもったの」
「そうなのね。でも、ここには熊しか置いてないのよ」
なんたること。オレは両手で頬を押さえた。ショックですって表現だよ。そしたらオバサマは困った顔になった。
「ごめんなさいね。
「おなじ、きしょうグループなのになんで……なんでないの……」
「ごめんなさいね。そうだわ、どうしても欲しいのなら直接頼む方法もあるのだけれど」
「えっ、たのめるの?」
ヌイグルミを作るプロがいるらしい。オレはちょっぴりテンションが上がった。
するとオバサマ、親切にもヌイグルミ作家さんの住所を教えてくれた。そのメモをメイドに渡して「今日なら工房にいると思うわ。わたしの名刺も付けておきますからね」と言った。なんて優しいオバサマなんだ。
オレはぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、マダム。ムイちゃんはこのごおんをわすれません」
「……本当になんて可愛らしいのかしら。いいのよ、これぐらい」
「あのー、ひとつかおうかな!」
「あら」
「おねがいします!」
メイドさんに振り返って頼むと、彼女はサッとお財布を取り出した。
オレも「破滅の三蛇ガラドス」製の格好良い財布を持っているけど、それはリュックに仕舞ってるのだ。今日の支払いは全部リア婆ちゃん持ちで、お金はメイドさんに預けられてる。
ガラドス君の中身がとっても可哀想なことになってるから、リア婆ちゃんに感謝。
リア婆ちゃんがどっち方面に行ってるのか分からないので空に向かって手を合わせておく。
抱っこ用の等身大ヌイグルミは後でお屋敷に送ってもらうとして、別のお店へゴー。
メイドさんが不思議そうなので、オレは説明した。
「クマはムイちゃんたちがあそびにつかうんだよ。おみやげはべつなの」
ベリーキュートなレッサーパンダを差し置いて熊を贈るわけがないのだ。
熊はハスちゃんにあげてもいいかな! 存分に振り回すがよい!
というわけでお土産のプレゼントは別のものにしようっと。
またメイドさんに手を引かれながらブラブラとウインドーショッピング。冒険者ギルドに寄りたい気持ち八割で、時々お菓子に気持ちを引きずられて歩いて行く。
すると、レース屋さんを発見。ふらふらーっと吸い寄せられるようにお店に入った。メイドさんもオレに手を引っ張られて一緒に入ると「まあ」と驚く。
小さなお店の棚いっぱいにレースが詰め込まれてて、壮観!
見本のレースが小さな一つの棚ごとにガラスで挟んであって、それがオブジェみたい。レースの種類ごと、それから淡い色→濃い色って順番で並んでてて、とっても綺麗。
「かわいい~!」
「本当に……。なんて繊細なんでしょう」
「ありがとうございます」
お店の人が奥から出てきてニコニコ笑う。お髭の似合うイケメン紳士だった。あと、只人族っぽい? だって角ないし、モフモフの耳も尻尾も鱗もない!
オレがきょとんとして見ていたら、イケメン紳士が屈んでくれた。
「こんにちは。わたしは店主のヘンリーです。可愛いお客様、何か気になることがありましたか?」
「んーとね、あの、ヘンリーちゃんはなんていうしゅぞくですか」
「わたしは人族ですよ。ドラゴル国では珍しいでしょう。わたしの師匠が竜人族の女性と結婚したので一緒に付いてきて、その後いろいろあって、わたしだけ残ったんです」
え、そのいろいろが気になっちゃう。
でも、オレも忙しい身。ぐっと我慢で、レースを選ぼっと。ヘンリーさんもオレが納得したのを見て、商品の棚に案内してくれた。
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