ムイちゃんはチョコが欲しい

069 王都に行くぞ

久しぶりのムイちゃんです(全10話)



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 オレはレッサーパンダの獣人族、ムイちゃん、三歳。まだ三歳なのに獣の姿にも人の姿にもなれるんだ。オレ、すごい! 天才!


 なーんてね。オレが今も元気で生きてられるのは、一人ぼっちで彷徨っていたところを拾ってくれた魔王ことリア婆ちゃんのおかげなんだ。

 あ、本物の魔王じゃないよ。見た目が怖いから、そう呼んでるの。内緒だよ。

 本当はね、神様に近い、というか元神様? 神竜とかいうやつです。今は引退して悠々自適の生活してるんだ。オレはリア婆ちゃんに拾われて、すくすく育ち、元気いっぱい「使い魔」やってます。お世話になったんだからお返ししないとね。

 とはいえ、オレはまだまだ子供。使い魔のお仕事をしつつ遊びもやるのだ。あと冒険者ね。かっこいーから、冒険者にもなるつもり。それってダブルワーク? 大変じゃないって思うでしょ。でも大丈夫。なにしろオレは、できる男なのだ!


 生まれてから三歳までを振り返って、オレが「できる男ムイちゃん」と呟いてたら、後ろにいたらしいルシにブフォッて笑われた。


「あっ、ルシー!」

「ああ、ムイちゃん、そんなに勢いよく抱き着いたら本が落ちるよ」


 困った子だと言いながらもちゃーんと受け止めてくれるルシ、大好き! 実質オレを育ててくれた人(人?)なんだ。リア婆ちゃんはオレを拾ってくれたけど、なんていうか大雑把なんだよね……。細かいことが気にならないタイプ。だからリア婆ちゃんの秘書というのか執事というのか――お世話係かもしれない?――とにかくなんでも屋の使い魔ルシに子育てを丸投げしちゃったんだ。

 オレにとったら父親みたいなもの。

 甘えても受け止めてくれる度量があるのだ。オレの男らしさはルシでできている! たぶん!


 で、オレには仲良しのお友達がいる。お馬鹿な犬のハスちゃんとナスの妖精コナス。いっつも一緒なので、この子たちもルシが好き。やっぱり突撃して纏わり付いた。


「こら、やめなさい」


 怒ってるけど怒ってない声で、だからハスちゃんは気にせず「はふはふ」声を上げて付き纏ってる。コナスは空気を読む子なのでオレのところに戻ってきた。ナスの方が空気読めるってどういうこと。


「よしよし、いいこね」

「ぴゃ!」

「おん……?」


 オレがコナスと愛を深めていたらハスちゃんの愛情センサーに引っかかったみたい。くるっと振り返って短い距離を全速力で駆け付ける。

 うん、短い距離に助走したものだから勢いが付いてドーンと――。


「きゅわんっ、くぅーん」

「全く、ハスちゃんときたら。さすがは王都一厳しい躾教室で初の落第生だねぇ」


 咄嗟に首輪を掴んだルシが、大きな溜息。ほら、呆れられてるよ。

 あと、首元がきつそうなのに苦しくないの? 姿勢を戻したら楽になるのにね。


「ハスちゃん、おちついて! おぇー、ってなるよ?」

「がふがふ!」

「ダメだねー、ルシ」

「ムイちゃんが諦めてどうするんだい」


 ルシは呆れながら、片方の足を上げた。片手は本を持っているからハスちゃんを抱き上げられないのは分かる。だからどうするのかなって思ったら、その片方の足でハスちゃんを挟んだんだ。勢いが付いて二本足で立ち上がる大型犬を、片足でひょいって。


「すごーい!」

「ムイちゃん、落ち着いて。ほら、ハスちゃんがまた騒ぐよ」

「はーい!」


 ルシは鱗人族リザードマン種になるから全身が筋肉質で鱗が付いてるんだ。足も長くて今の動きが超カッコよく見えた。オレもあんな風になりたい。

 ……小熊猫レッサーパンダ種のオレ、あんな感じになれる?

 だ、大丈夫。オレはまだ成長途中の男。何事にも例外はあるし、足の長いイケメンレッサーパンダだって世の中にはいるよ!

 オレは不安な未来予想図に蓋をして、目の前の問題に取りかかった。


「ハスちゃん? そんなにドーンばっかりやってると、ムイちゃんといっしょに、おうとにつれていってあげないからね?」

「きゅ、きゅぅん」

「おちついてね?」

「わおん!」

「おへんじはいいんだよね!」

「わおん!」

「ああ……。こんな状態で本当に王都へ? わたしも一緒だったら良かったのだけれど」

「大丈夫!」

「ムイちゃんの大丈夫は大丈夫じゃないんだよ」

「しつれーな! ムイちゃん、りっぱにやりとげます!」


 何を、って?

 ふふーん。オレ、実はお茶会に誘われてるのだ。なんと、お姫様から! うふー。


 お姫様ことカルラ王女に「プレゼントのお礼がしたいので王宮にお越しください」ってお手紙もらったの!

 キラキラのリボンと真っ赤な封蝋がされてたんだよ。それはオレの宝箱にちゃんと入れました。お手紙は王宮に入る時の証明書になるから出してるけどね。


「ムイちゃんの贈ったプレゼントのお礼なら断れないしね」

「ことわらららたらダメー」

「でもねぇ。リア様は神竜族の集まりでいない、わたしもお付きとして侍る予定だから……。ムイちゃんを残していくのは危険、いや心配だから本当はフラン様に預かってもらうつもりだったのに」


 途中の言葉に引っかかったけど、オレは組めない腕を組んで(るフリで)ルシを見上げた。


「フランはおしごとなんだからしかたないの。ぼうけんしゃのおしごとはたいへんなんだから!」

「そうだね」

「リスト兄ちゃんもいそがしそうだけど、ルソーがいるからね! ムイちゃんのめんどうをみてもらいます」

「……はぁ。仕方ないね。とにかく、問題を起こさないよう静かにね」

「はい!」


 というわけで大事なものをいっぱい詰め込んだオレより重いリュックを引きずって、いざ王都なのである!


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