番外編

061 番外編01 野菜

ホラー祭りに参加してみたんですけど、ホラーかどうかは不明……

いつものムイちゃんです



**********






 オレは小熊猫レッサーパンダ獣人族の三歳児。名前はムイだよ。

 本当は「ムイムイ」って名前を付けられたんだけど、由来が虫から来てるので必死になって自分は「ムイちゃん」だと連呼してたら定着したんだ。

 そのせいで、いまだにオレは自分のことを「ムイちゃん」と呼んでいる。

 でもいいんだ。だってオレはまだ三歳! 可愛さ真っ只中だもん。許されるよね!



 そんなオレの名前を一番呼んでくれるのが育て親のルシ。

 今日もお台所で作業中です。そのルシが、オレの頭をポンと叩いた。


「ムイちゃん。ほら、お手伝いするんだよね。しっかり手元を見て」

「はーい」

「ぴゃ!」


 お返事はオレだけじゃなく、コナスも一緒に。

 コナスはナスの妖精なんだよ。このあたりってね、魔力がすごいせいか底上げすごいらしいんだ。それでコナスも生まれたの。

 最初はナスが動くし喋るからびっくりしちゃったけど、オレに懐いてて可愛いんだ。

 今では大事な相棒。

 一緒にお手伝いもします!


「コナスはちいさいやさいをきってね。オクラを……。てがとどかないんじゃない?」

「ぴゃ!」

「あ、そう。だいじょーぶなの。ふうん」


 ほそーい針みたいな包丁でまな板の上に立ってオクラを切ってるコナス。なかなかシュールです。

 気を付けてね、まな板の上にナスなんて、フラグもいいところだよ。


 実はオレ、コナス誕生のシーンを見て以来、ナスを切るどころか畑から採ってくることもできなくなった。

 だっていつ動きだすか分からないもん。いきなり動いて喋るんだよ? 野菜が妖精に進化しちゃったんだよ?

 こんな怖いことってないよね。


 幸い、それからは何もない。

 だから、オレ、ちょっと油断してたんだよね。


「つぎはキュウリ-」

「あ、そっちのキュウリはまだトゲが残っているね。ムイちゃんが採取したものか」


 貸してごらん、とルシが手を出す。でもオレはキュウリのトゲを取る方法知ってるんだ。

 包丁の背でこそげ落とすんだよ! どうどう!?


「あああ、手付きが危なかっしい……」


 ルシはあわあわしてるけど、そっちの方が危なかっしいよ。慌てないで!

 オレはホラ、ちゃんと、ね?


 そう思って手元を見ると、キュウリが動いた。


 動いたんだ。


 でもね、手に持っていた包丁は今正に振り下ろされるところで。

 子供用の包丁っていっても案外重くて。


「あ、あっ、あー!!!!」

「どうしたんだい、ムイちゃん!?」

「ぴゃーっ?」


 グサッ。


「せっ、せつだん、しちゃった……」


 妖精殺し事件発生。

 オレはフラッときて、その場に倒れたのだった。




 目が覚めたらベッドの上で、ルシが心配そうに見ていた。

 オレが急いで起き上がろうとすると支えてくれる。


「ムイちゃん、よっ、ようせいころしちゃったぁ……!」

「ん? 何を殺したんだい? 虫かな」

「え?」

「ムイちゃん、熱中症になったみたいだね。畑で騒ぎすぎたのかな。無事で良かったけど、今度からちゃんと水分を摂ろうね」

「う、うん」


 それからルシは、落ち着いたら簡単なご飯を食べようねって言って、オレを抱っこして食堂に運んでくれた。


 あれは夢だったのかなあ?

 変なの。


 でも夢だったなら良かった。だってオレ、もうちょっとで妖精殺しの犯人になるところだったよ。

 そう言えば、コナスはどこだろ。


「ルシ、コナスは?」

「コナス? なんだい、それは」

「えっ」


 ルシはニコニコ笑って、オレを子供用の椅子に座らせた。

 そして、テーブルの上に野菜サラダやスープの入ったお皿を載せて――。


 野菜サラダには不揃いに切られたキュウリが飾られていた。

 見覚えのある切り口にオレが無言で見つめていると。


「きゅぅぅぅ……ぎ゛う゛う゛……」


 え? キュウリが喋った?


 その時、スープのお皿からパチャッと音が鳴った。そうっと視線を向けると、そこには大きめの紫色の物体が浮かんで……。


「ぴゃぁぁ~」


 コナス!? 待って、小さい手が、アイルビーバックになってる!!

 じゃなくて!!


「きゃーっ!!!!」




 ハッとして目が覚めた。

 今度はルシはいなかった。でもでも絶対これダメなやつ!

 オレはそろっとベッドを降りて、コナスのベッドを覗いた。サイドテーブルの上に籠が置いてあるんだ。


「ぴゃぅぅ」

「あ、ねごと。かわいい」


 良かった。生きてた。スープになってなかったみたい。

 よし、じゃあ、次はお台所!

 オレはそろそろっと暗い中を進んだ。


 お台所はほんのり明かりが付いていた。ルシかな? 何してるんだろう。

 ひょいって覗いてみた。


「ぎゅぅー!」

「ぴゃお!」

「ごりごりっ」

「んぞぞ」



 ……野菜たちがフォークを片手に踊ってる。あ、違う。抗議パレードみたい?


 ふ、復讐されるんだ。なんで? 野菜いっぱい食べたから? それとも妖精のキュウリを切り刻んだから!?


「きゃー!!!!」




 ハッと気付いてムクリと起きた。するとそこには――。


「あ、起きたんだね、ムイちゃん。熱中症になったみたいだよ。畑で騒ぎすぎたのかな」


 これって夢? それともループ?


 それはそれでどうしたらいいか分かんないから嫌だけど、それよりオレは言いたいことがある!


「ムイちゃん、やさいがようせいになるしくみにはだんことして、はんたーい!!」






※皆さんも熱中症には気を付けましょう!





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