060 お風呂
透明の壁はリア婆ちゃんが掛けてくれたみたい。今後は自動で発動させるかと、ノイエ君がぶつぶつ呟いている。危ないもんね!
ハスちゃんはまたもルソーに叱られ、皆と別行動になってしまった。このままだと帰るに帰れないんだそう。ルシも申し訳ないって、一緒に躾するらしい。
頑張れハスちゃん。
オレたちはまた、かくれんぼの続き。
プルンがオレがいなくて寂しかったみたいだから、ちゃんとしたかくれんぼをしたよ。
午後はいっぱい遊んでプルンは超いい笑顔。皆も楽しかったみたい。
カザトリ先輩は見張り役をさせられてた。オレが何かしでかさないか心配なんだって。言い出したのがクシアナ君とノイエ君だったので、もしかしてオレたちもう和解済み?
つまり仲良くなったってことで、嬉しい!
仲良くなったんだから裸のお付き合いもOKだよね?
「おふろはいろー」
「はいるでちゅ」
と、お誘いしてみた。大人を誘うのは溺れた時の救助要員って意味と、あわあわ作ってほしいから。
ルシはまだハスちゃんの特訓中なので、オレのお世話は無理なのだ。
リア婆ちゃんだと豪快すぎるのでダメ。リア婆ちゃん、オレが溺れてても遊んでると勘違いして見てたからね……。
うう、思い出したらぶるっとなっちゃった。
てことで、お風呂に入ります。
「うひー。きもちいーねー」
「でちゅ」
「プルンのしっぽ、しろくてちっちゃいね」
オレは可愛いねってつもりで褒めたんだけど、プルンはしょんぼりしちゃった。オレのを見て、またしょんぼり。あっ、あっ。オレは慌てて慰めた。
「お、おとこはね、しっぽのよしあしじゃないの」
誰かがブッで吹き出してる。お風呂の中だと響くので丸聞こえなんだからね?
「でちゅ?」
「うん。やさしくて、つよくて、あとはだいじなひとをまもれたらいいの」
「はいでちゅ」
「ちっちゃくても、かっこいーおとこになれるからね?」
「でちゅ!」
「そうだな、ムイちゃんも小さいのに格好良いもんな?」
「ちいさいのはよけいなの」
「おま、さっき自分で――」
「フランはだまってて!」
「はい」
オレはプルンの黒いお耳をツンと突いた。ピコピコ動く耳が可愛い。
「ジャイアントパンダのプルンはしょうらい、かっこいくなるのがやくそくされてます」
「あいつ、またなんか言い出したぞ」
「しっ。黙ってなさい、フラン」
「そうだぞ。面白いから黙ってろ」
「わたしのプルンは格好良いのが約束されているのだ」
「ノイエ、うるさいよ。僕は水に濡れたムイちゃんの尻尾を観察してるんだから。静かにして」
外野がうるさい。
んもう!
オレはジロッて見回して「だまってて」って目で合図した。それからプルンをなでなで。
「かっこいーって、かくやくされたみらいがあるけど、じつはね『かわいさ』もおとこにはだいじなんだよ」
「かわいちゃでちゅか?」
「そう」
姉ちゃんたちの教えは、今のオレにも受け継がれてます。姉ちゃん、そうだよね?
イケメンの同僚や同級生がふとした拍子に見せた「可愛い」、それに惚れるって。
そう言ってたよね?
オレ、何度も聞かされたから、分かります。
「おんなのひとはね、おとこのひとのかわいさにもひかれるの。だから、とってもだいじ」
「ほおお!」
「プルンのおみみはかわいいでしょ?」
「はいでちゅ!」
「しっぽもちっちゃくてかわいい!」
「でちゅ!」
「ぽてっとしたまるいからだも、もふっとしたからだも、さいこう!」
「ムイちゃー!」
「プルンー!」
ぎゅぎゅっと抱き合っていると、また後ろで誰かがボソボソ。
「オムツ姿もいいよな。丸っこくて。そうか、あれは可愛いんだな。なるほど、俺は可愛いものに飢えていたのか」
「ラウ、子供が欲しくなったのか?」
「そうだなー。それもいいな」
「まずは結婚相手を吟味することだ」
「兄貴が先に結婚だろ」
「兄さんたちに結婚は無理じゃないかな」
「お前に言われたくない」
「僕はノーラみたいな綺麗な人がいいな」
「お前はノーラに嫌われてるだろ。よく名前出せたな」
「だって……」
なんか、この兄弟はずっとこんな感じなんだろうな。
お風呂遊びの役にも立たないし、オレはのぼせる前に湯船から出た。プルンはフランに抱き上げてもらう。
「あのひとたちはほっとこー。あわあわはこんどしよーね」
「はいでちゅ」
「あのね、おそとでたら、おいしーものがあるよ」
「おいちいの?」
「うん。ムイちゃんがていあんして、おふろばにせっちしたれいぞーのまどうぐがあるの。そこに、なんと!」
「にゃんと!」
フルーツ牛乳です! コーヒー牛乳も美味しいんだけど、お子様にはフルーツがおすすめ。もちろん、いちご牛乳もあるよ? でも、たくさん入ってる方が美味しい気がするのだ。
オレたちは二人で脱衣所に向かってタオルで互いに拭きっこすると、まだボソボソのまま冷蔵庫から瓶を取り出した。
ルシに話して、リア婆ちゃんに作ってもらった軽い牛乳瓶。
蓋をペコッと外して。いざ!
「おいちー!」
「でしょ?」
ぷはー! って二人で飲んでたら、気になったらしい大人五人も出てきてしまった。それで目敏く牛乳瓶を見付けて、わいわい大騒ぎ。
もう、子供みたいなんだから!
「ちゃんとならんで!」
オレが怒ると素直に従う大人たち。年齢順にちゃんと並んで、おとなしく瓶を受け取る。
なんだか、おかしいの。
オレが笑うとプルンも笑った。
大人五人も「美味しいな!」なんて言いながら笑ってる。
心配したルシが途中で覗きに来て、ホッとした顔になってた。それからちゃんと拭えてないオレとプルンをバスタオルでふきふき。終わったら、風魔法でふわっふわにしてくれた。
「プルン、ふわふわー」
「ムイちゃーもふぁーふぁー!」
抱き合ってるうちに転がって、廊下をころころしてたらリア婆ちゃんもやって来た。
「あんたたち、楽しそうな声が聞こえてきてたよ」
「えへー」
「たのちいでちゅ!」
「そうかい。それで、大の大人のあんたらはどうだったんだい?」
オレが振り返ると、素っ裸の大人五人が廊下に出てた。ルシは呆れた顔でその後ろから顔を見せてる。
息子たちは顔を見合わせ、それから頭をかきかき、リア婆ちゃんに答えた。
「こんなに楽しい時間は初めてです」
「ああ、楽しかった」
「俺も童心に返った」
「僕も楽しかったな」
「……わたしもです」
「そうかい。だったら、良かったよ」
リア婆ちゃんはオレを見て微笑んだ。それから息子五人に目を向ける。
「あたしも楽しかったよ。こんなに楽しいんだ。また、おいで。ムイが喜ぶだろうさ」
「リア婆ちゃんは?」
「……そうだね、あたしも、あんたらが楽しんでる姿を見るのが楽しかったよ」
リア婆ちゃんはオレを抱っこして、ほっぺにちゅうをした。
ありがとうのちゅうみたい。
オレは好きのちゅう。
下でプルンが指をくわえてオレたちを見ていた。だからリア婆ちゃんの服をクイクイ引っ張った。リア婆ちゃんはすぐに気付いて、プルンをもう片方の手で軽々抱き上げた。
そしてプルンにもちゅうをしてあげたのだった。
その後、息子たちにもちゅうを――。
したかどうかは、また今度!
**********
これにて、第二部終了です
ありがとうございました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます