058 尻尾に触れるだけで泣いちゃう?




 フランは笑ってオレを受け止め、尻尾ごとギュッて抱き締めてきた。

 目が赤いのは二日酔いのせい?


「ムイちゃんはすごいな」

「そお?」

「ああ。ムイちゃんはとても強い男だ。お前が一番格好良いよ」

「ほんと!?」

「嘘じゃないぞ。俺はムイちゃんの格好良いところを見たからな」

「えへー!」


 尻尾を触らせてあげただけで格好良いと言われるなんて!

 それだけ尻尾が偉大だってことに気付いたんだね。

 うむ!



 次にクシアナ君のところへ行ったんだけど、なんか超泣いてる。

 べしょべしょして子供みたいに袖で涙を拭いてるの。

 オレはお尻のポケットに入れてたハンカチを取り出して、渡した。

 でも受け取らないし、泣くのも止めない。

 うーん。そっか、小さい子だと思えばいいんだ!


 オレはハンカチでクシアナ君の顔を拭いてあげた。


「ぐいぐいー。ん。きれいになった。おかお、きれいよ?」

「……ムイちゃん。ありがとう」

「ううん。えっとね、ムイちゃんのしっぽはせいしんあんていざいだよ。とくべつに、さわらせてあげる」

「……いいのかい?」

「いいよ!」


 クシアナ君はそうっと尻尾に触ると、じいっと見つめた。もふっ、もふっ、と掴んではうっとりしてる。


「綺麗だ」

「ムイちゃん、まいにちおていれしてるもの」

「偉いな」

「えっとね、ここだけのおはなしね。だっこしてねちゃうと、たまによだれがついちゃうの」

「よだれ?」

「あっ、ちゃんと、あさもあらってるからね? ルシがかぜのまほーでふわふわにしてくれるの。よるはね、ルシがおていれのオイルぬってくれるんだよ。しっとりふわふわー」


 オレの説明に、クシアナ君は笑った。

 それから尻尾をとても大事そうに撫でてくれた。


「ムイちゃんは、自分の尻尾にも愛情を注いでいるんだね」

「そうだよ。だってムイちゃんがムイちゃんをすきじゃないと、ムイちゃんのことすきっておもってもらえないよ?」


 クシアナ君は顔をクシャッとさせて泣き笑いみたいになった。

 それからフランがしたみたいに尻尾ごとオレを抱き締める。

 なんか情緒不安定?

 オレ、心配になってきた。大丈夫かしら。



 心配てるのに、クシアナ君は気にせず、抱っこしていたオレをノイエ君に渡した。

 そんな荷物みたいに。

 でも、ノイエ君もやっぱり大事そうに受け取ってくれたのだ。ほんとにどしたの?


「ムイちゃん、わたしも『ムイちゃん』と呼んでいいだろうか」

「う、うん。いいよ」

「ムイちゃんは兄さんが言ったとおり、強くて格好良い男だった」

「う、うん?」


 頭打ったのかな?

 オレの心配を余所に、ノイエ君はオレをぎゅうぎゅう抱っこして叫んだ。


「わたしも、かか様を支えると誓おう! 少しでもお力になれるよう研究を重ねるつもりだ!」

「あ、はい」


 何宣言?

 オレは呆然としたまま、このぎゅうぎゅう抱っこがノイエ君で良かったなーって思った。もしラウだったら、オレは潰れ饅頭になってた……。

 あ、待って。

 ノイエ君でもマズイかもしれない。

 身が出そうなの。


「ノイエ、少し力を緩めておやり」

「ハッ! そ、そうだった。ムイちゃんはまだ赤ちゃんだったね」

「ムイちゃん、赤ちゃんはそつぎょーしたの」

「ふふ、そうか」

「プルンは赤ちゃんだよ」

「……そうだな。うん。いろいろ、考えよう。そうだ、ルシに教わればいいんだな」

「こそだてじゅつはルシがいちばんだもんね!」

「ああ。そうしよう。それから……」


 ノイエ君はオレを見て、にこっと笑った。


「プルンとどうか、友達になってくれないか?」


 ノイエ君、いい人になったみたい。

 オレもにこっと笑った。


「あのね。じつはムイちゃんとプルンはもうおともだちなの」

「……そうだったのか」

「きょうはね、いっぱいあそぶおやくそくもしたんだよ」

「何をして遊ぶのかな?」

「んーとね。ハスちゃんとおいかけっこでしょ。はたけのみまわりに、どろんこあそびもするよ」

「そ、そうか」

「おふろであわあわもするよ。あとはー」


 お手伝いの方法も教えてあげたいし、偵察の練習も大事。

 なんたってオレたちは使い魔だからね!

 遊びながら覚えるんだよ。


「おうちのたんけんもして、かいだんすべりもするの」

「階段滑り? 危険じゃないのか?」

「おっきなじゅうたんにすわってやるんだよ。したことない?」

「……ないな」

「えー。かいだんのてすりをのぼるのは?」

「……ない」


 そしたら他の兄弟も参戦してきた。


「わたしはルソーに禁じられていたから遊びらしい遊びはしたことがないな」

「兄貴はそうだろうな。俺は親父が豪快だったからな。木登りや、崖登りは当たり前だ」

「俺たちのところは放任主義だったな。俺は剣を振るのが好きだったからそればかりだ」

「兄さんは剣バカだったからね。わたしは家の中で本を読んでいたよ」

「僕はパパがあちこち旅行に連れ出すから、遊んだ覚えがないよ」

「クシアーナの父親は芸術を愛していたものな」

「うん。美しいものを探す旅だったね。でも、一番美しいのはママだって言ってたよ」


 みんなが小さい頃の話をする。どんな遊びをしたのか。どうやって過ごしたのか。

 それから、何故かオレがやる遊びを見たいと言い出した。

 いいけど、それなら提案がある。


「じゃ、いっしょにあそぼー!」


 だよね?


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