057 いいこいいこ、尻尾は偉大




 だからね、リア婆ちゃんも大丈夫だよ。

 今は息子たちに拗ねられてても、きっと分かる時が来る。オレ、知ってるよ。

 だって、オレも後になって気付いたことがいっぱいあるからね。

 姉ちゃんたちがどれだけオレを大事に思ってくれてたか。父さんも母さんも。お爺ちゃんはちょっぴりデリカシーないけど、爺ちゃんなりにオレを守ってくれた。

 みんなオレを好きだった。

 それぞれの好きをオレにくれたんだ。


 オレ、当時は返せなかったけど。

 今こうして幸せに生きてるならいいんじゃないかな。


 今、生きてるリア婆ちゃんたちも、いつか和解すると思う。

 わだかまりがあっても、そんなの生きてたら問題なし。

 ちゃんとお話したらいいんだよ。

 昨日はその一歩。

 これからも一歩ずつ。


「えらいねー、かっこいーよ。きんにくもモリモリ。ムイちゃんを抱っこしてブラブラできるもんねー。さすがー」


 あ、そうだ。筋肉は褒めないといけないんだったっけ。テレビで観たけど、掛け声があったはず。

 うーんと、なんだったかな。


「ナイスバルクー。うでがゴリラー。あとはー、キレてるよー、だ。……きんにくがキレるの? わかんないなあ」

「ぶふっ」

「……あれ?」


 リア婆ちゃんの顔を覗き込むと、目は瞑ってるけどお口がもぞもぞしてる。


「あ、おきちゃった」

「ふふ……。耳元でボソボソ喋ってるからね」

「うるさかった?」

「いいや。小鳥の鳴き声のように心地良かったよ」

「うふー」


 なでなですると、リア婆ちゃんは少しだけ頭を動かして、オレを見た。


「そうやって撫でてくれていたのかい? 疲れたろう」

「ううん。たまには、ムイちゃんがいいこいいこするの」

「そうかい」

「おとなになっちゃうとしてもらえないもんね」

「……そうだね」

「だからー、ムイちゃんがやってあげるの!」

「そうかい」

「ほかにしてほしーこと、ありませんかー?」

「そうだねぇ。ムイの尻尾をギュッとしたいね」

「ムイちゃんのしっぽ!」


 分かる、分かりますよ。この尻尾はとってもモフモフで気持ちいいからね!

 オレも毎晩お世話になってます。


「いいよ、どうぞー。あっ、つよくはダメだからね。リア婆ちゃんにほんきでつかまると、ムイちゃんのしっぽはちぎれれちゃうの」

「あはは、そんなことはしないさ」

「んー。わかった。そっとだからね?」

「ああ。そっとだね」


 オレはもぞもぞと位置を変えて、尻尾をリア婆ちゃんに向けた。

 リア婆ちゃんはギュッとしたいと言った割には抱き着くでなく、やんわり撫でるだけ。

 そんなのでいいの?

 オレの尻尾のポテンシャルはそんなものじゃないよ?


 なので、ポフッと動かしてみた。


「おや」

「ムイちゃんのしっぽ、あそんでほしーみたい」

「ふふ、そうかい」

「あー! しっぽがにげようとしてます!」

「よし、じゃあ捕まえようかね」

「きゃー!」


 オレたちがキャッキャと騒いでいたら、いつの間にか「ぐすっ」とか「ぐふ」って声が聞こえてきた。

 あれ? って思って見ると、息子五人が起きてた。

 起きて泣いてる。

 どしたの。


 ハッ。

 もしかして、また嫉妬?

 んもう!

 オレはね、ひそかに落ち込んでるリア婆ちゃんを慰めてただけなの!

 盗ったわけじゃないからね?


 そう思ったけど、今はほのぼの尻尾タイムです。

 せっかく楽しい一時だから、オレは大人になるのだ。

 大事な大事な尻尾だけど仕方ないので触らせてあげよう。


「リア婆ちゃん、ちょっとまっててね。ムイちゃんのしっぽ、むすこちゃんたちにもおすそわけしてくるから!」

「……そうかい」

「ん!」


 リア婆ちゃんが起きたので、オレも起き上がってソファから降りようと……。

 したんだけど。

 ゴロンって転がっちゃった。


「しびびびび……」

「ああ、足が痺れたのか。びっくりしたじゃないか」

「リア婆ちゃぁぁん、しびび、なおらないの」

「よしよし。お待ち。……ほら、これで治ったろう」


 人差し指でひょいっとすると、痺れが治った。良かった。


「うん、だいじょぶみたい。ありがとー!」


 お礼を言って、たったと走って息子たちのところに。

 まずはリスト兄ちゃんから。


「ううう、ムイちゃんが優しすぎる……」

「あの?」


 まだなでなでもしてないのに、もう優しいとか言ってる。変なリスト兄ちゃん。

 でも大体いつもこんななので、オレはソファによじ登って上から頭を撫でてあげた。

 それから尻尾をどうぞってする。


 リスト兄ちゃんはまた泣いてしまった。



 その後すごく嫌だけど、ラウのところに。ラウは泣いてなかったけど、大きな手で額を抑えて蹲ってた。まだ二日酔い?


「しっぽ、ちょっとならなでてもいーよ?」

「……ああ。ムイちゃん、ありがとうな」

「うん? いいよ。でもだいじなしっぽだから、そっとだよ?」

「ああ」


 よく分かんないけど、今のラウは普通の人だった。

 そんなに尻尾触りたかったのかな?

 今度から意地悪しないで、少しだけ相手してあげようっと。


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