056 大団円まではもうちょっとかかるかも?




 それでね、大団円になったって思うでしょ?

 そんなに上手くいったら人生は楽だよね。

 オレは死屍累々の居間を見て、腕を組んで、組もうと頑張ってるところ。オレの後ろではちゃんと腕が組めてるルシが深ーい溜息を吐いてた。


「なんとまあ……。リア様まであのようなお姿に」

「嘆かわしいですなあ」


 相槌打ったのルソーです。お爺ちゃんも来ちゃったんだよね。秘書だからだって言い張って。お屋敷ほっといていいのかな。

 そのお屋敷からは自動転送装置使ってハスちゃんがやって来てた。ルシは朝からその対応で忙しかったみたい。だからオレと今頃、客間を見て呆れてるんだけど。

 ルソーも今頃なのは皆と一緒に酒盛りしたからだよ。偉そうなこと言ってるけど顔色悪いからね?


「ちゆまほーは?」

「自らの罪のために使うわけには参りません。戒めとして、ええ」


 額押さえて言うことかなー?

 あと、大きな体の息子たちには治癒魔法掛けてあげて。


「ママ、僕はママの美しい筋肉が-」

「筋肉は嘘を吐かない」

「いつか素晴らしいパンダになった暁には献上しますので、どうか」

「俺はまだ見ぬ財宝を追い求めるんだ」

「母上ー、ムイちゃんに角を買ってあげましょう」


 ……息子たちの寝言がアレだもの。


 オレが白目になってる間、ルシは窓を開けて空気を入れ換え、テキパキと片付けを始めた。ルソーも一緒に酒瓶を片付けてく。

 オレはルソーが持ってきたタオルケットをズルズル引っ張って、ソファの上のリア婆ちゃんに掛けてあげた。

 リア婆ちゃんは寝言言うかしらと耳を澄ませるけど、とっても静か。

 オレはソファによじ登って、リア婆ちゃんと背もたれの間に体を捻じ込んだ。


「よしよし」


 頭を撫でるとなんだか嬉しそう。寝てると可愛いお顔で、起きてる時の魔王様具合と全然違う。

 なんで撫でたかというと眉間に皺を寄せてたから。寝てる時まで不機嫌そうなんだもん。

 それに昨日、プルンを寝かしつけた時に、なでなですると嬉しそうだったからね。

 リア婆ちゃんだって大人だけど嬉しいはず。

 起きてる時は嫌がりそうだから今やるの。


 そうしてたら、ルシが気付いて目を丸くしてた。

 オレは空いてる方の手でシッて合図。内緒だよ。

 ルシは変な顔したあと、そうっと笑って部屋を出て行った。ルソーも一緒に。

 オレは小さな手でリア婆ちゃんをなでなで。


「リア婆ちゃんはがんばってて、えらいー。いいこいいこ。リア婆ちゃんははくりゅうさまで、リア様でしょー。ははうえに、それからおふくろと、かあさん。ママとかか様も。……それとリアママだもんね。いっぱいやくめがあって、たいへん。だから、いきぬきだいじ。わかるー」


 リア婆ちゃんの体が重くなった。ふかーく寝たのかな。オレのなでなでテクニックのおかげかも。


 リア婆ちゃんは神竜族で、神様なんだ。神様みたいな、じゃなくて神様だったんだよ。

 ずーっと世界を守るお仕事してたの。

 今は後進の人(神?)に任せてるけど、まだまだ力は弱いみたい。

 だから時々助けてって呼ばれるんだって。

 とっても大変なお仕事だけど、リア婆ちゃんは弱音を吐かないの。誰にも言わなかったから、息子たちも「事実」を知らなかった。


 今、リア婆ちゃんが山奥に家を建てて懐古主義みたいにして暮らしてるのは、ゆっくり休みたいから。

 ここで英気を養ってるんだよ。

 子供たちも大きくなってるし、使い魔も育っちゃったから、残りの神生をのんびり過ごしたかったんだって。


 でもまさか息子たちがここまで拗らせてると思ってなかったっぽい。

 夫たちがちゃんと育ててるっていうのを信じてたんだって。ていうか、当時はそれどころじゃなかったみたいだし。

 そもそも大人の事情ぽくてオレにはあんまり理解できなかったんだけど、夫たちに懇願されて子供作ったみたいなんだよね。

 そういうのってアリなのかな?

 えっと逆ハーレム?

 すごいよね。


 それで、事情を知った子供たちも反省して、仲直り(?)したんだけど。

 だからってすぐに大団円になるわけもなく。

 オレたち幼児組が寝てからも、お酒を飲みながらわいわいがやがや話し合っていたらしい。


 朝、ルシが気にしてたからオレも一緒にお部屋に入ってきた。

 何故なら、オレは癒やし係だから!

 こういう時に「可愛い」を使わずして、いつ使うの、だよね。


 プルンは置いてきた。だってまだまだ赤ちゃんだもん。いっぱい寝ないとね。

 それからコナスも置いてきたよ。ハスちゃんが、ほら、戻ってきてしまったから……。無事、足止めしてくれてることを祈るのだ!




 お酒臭い中、オレは足が痺れても座ったままでリア婆ちゃんを抱っこし続けた。

 頭しか抱っこできないけど。

 角がちょっぴり当たって痛いけど。


「だいじょぶよー。ムイちゃんはリア婆ちゃんがどんなでもすきだからねー」


 なでなで、よしよし。


「ムイちゃんのね、まえのとき、どんなでもずっとすきっていってもらったの。ムイちゃんベッドからでれれなかったけど、いっつもだれかがいてくれたんだー。みんなよりはやくしんじゃったけど、しあわせだったの。どんなムイちゃんでもすきっていってもらったからだよ」


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