055 下の子の役目と可愛いの特権




 ママちゃんことクシアーナ君は目を丸くした。


「クシアナくんのちいちゃいとき、しらないけど。いまはダメなの?」

「えっ」

「いまのリア婆ちゃんにそばにいて、っていうのはダメなの?」

「そ、それは……」

「おうちにあそびにきたらいいのに」

「……」

「リスト兄ちゃん、よくくるよ?」

「兄様が?」

「フラン、ししょーもさいきんくるよ!」

「ええっ」


 ラウが「俺も行こうかな」とか言ってて、そこは拒否したいオレです。

 でも母親に会いに行くのならどうぞ。


「ノイエくんもきたらいいし、クシアナくんもきたら?」

「わ、わたしは……」

「僕も別に……」

「どして?」

「どうしてって」

「リア婆ちゃんのこときらいなの?」

「そっ、そんなこと!」

「あるわけないだろ!」


 ふふー。そうでしょうとも。二人ともリア婆ちゃん大好きだもんね?

 二人じゃなかった。兄弟全員、リア婆ちゃんが大好き。


「ムイちゃんの抱っこのじかんもいるから、みんなびょうどうにしようね!」

「……いつの間にそういう話に。だけど、確かに良い案だ。さすがムイちゃんだね」

「そうだな。ま、俺も母さんと久々に組み手ができて楽しかったし」

「なんだ、フラン。お前おふくろと組み手してもらったのか? だったら俺もやってみたいな」

「兄様たち、ずるい!」

「そうだ! わたしだって、かか様と研究の話がしたい!」


 兄弟五人がわいわい騒いでいるのを、リア婆ちゃんは目を細めて見ていた。

 呆れたような、だけどどうしようもなく可愛いものを見る目で。

 オレには分かる。

 だって、それは時々オレを見てるから。可愛いって思ってくれてる目だ。


「ムイ、ありがとよ」


 呟いた声に、オレも小さな声で答えた。


「あのね? これは、いちばんしたのこどもの、やくめなの」


 こそっと内緒話みたいに。

 そしたらリア婆ちゃん、目を丸くして。それから大きな声で笑い出した。


 あはは、あはは! って笑うものだから、兄弟五人が驚いてリア婆ちゃんを見る。

 でも段々驚くの止めて、一人ずつ笑い出した。


 上の三人が笑うと、下の二人もなんだか分からないって顔しながら一緒に引き攣った笑みで。

 そのうち、笑うのが楽しくなったみたい。

 オレも一緒に笑った。

 ルソーも笑ってた。


 メイドさんたちは微笑んでて、プルンだけ夢の中。

 コナスは短い手で体を叩いた。




 その日、宰相の家から笑い声が響いて怖かったって噂が立ったみたい。

 普段どれだけ静かなんだろうね。

 しかもその後に、宰相の家から犬の鳴き声がずっと聞こえてたって噂もあったらしい。

 実は、ハスちゃんが躾教室を脱走して戻ってきちゃったのだ。連れていったルソーの匂いを辿って戻ったんだとしたら優秀じゃない? ともかく、リスト兄ちゃんちで逃走劇が繰り広げられたとかなんとか。

 ようやく捕まえられたハスちゃんは、リア婆ちゃんちへ送られるまでの間しおしおだったんだって。

 全員お疲れ様です。


 ちなみにハスちゃんが大騒ぎしてた頃、オレたちはリア婆ちゃんちで楽しんでた。転移であっという間に戻っていたのだ。



 リア婆ちゃんちで皆が何してたかというと――。

 たとえば、ある一角ではリア婆ちゃんが何故、子育てに関わらなかったのかの説明が始まり。

 とある場所ではリア婆ちゃんの過去の夫たちについて語られた。

 事実を知らなかった息子たちは驚いたりショックを受けたり。


 で、小さな子には聞かせられないって追い出されたチビっ子組は、畑で遊んでた。

 といってもオレはリア婆ちゃんの使い魔です。先輩たちの話を聞いていたので、当然「情報収集」にいくよね?

 なので、プルンと遊びながらも、そーっと偵察にいってた。それで小耳に挟んだ事実を、オレはコナスに話すことで落ち着かせた。

 プルンにはまだ早いからね。


 プルンが賢いって言っても、やっぱりオムツをしてる赤ちゃんです。まだまだ聞かせられるものじゃない。

 プルンは偵察の結果を聞きたがったけど。

 でちゅまちゅが卒業した頃に教えてあげるね、って約束しました。


 だけど、教えてあげられる内容なら教えたよ。

 たとえばプルンの主になるノイエ君の秘密とか。主の秘密は握っておくに限るよね!


「ひみちゅってなんでちゅか」

「あのね~、ノイエくんのかっこいーものずきは、なんとちちおやゆずりだったの。ファザコンもあるんだね~」

「ふぁじゃこんでちゅか?」

「そうだよー。あ、おとうちゃまがすきすきってことだよ」

「でちゅか」

「おかあちゃまもかっこいーでしょ。だからあこがれてるんだよ。やさしくみてあげようね」

「でちゅ!」

「ノイエくんは、あんまりきんにくモリモリにならららかったから、かっこいーのをつくろうとしたんだって~」

「なりゃりゃ?」

「かんだだけなの。きにしちゃいけないの」

「でちゅ」

「プルンがジャイアントパンダってわかってうれしかったみたい」

「ほんちょでちゅか?」

「うん」


 良かったね、ってオレはプルンの頭をなでなで。プルンは嬉しそうに頭を押し付けてきた。かわいい!


 最初はライバルって思ったけど、こんなに可愛かったらアリです!

 それに可愛いのが並んでたら、二倍以上の可愛い効果が出るんじゃないかな?

 可愛い効果って大事だよ。おやついっぱいもらえるし。抱っこもし放題! 甘えても怒られないからね。小さい時だけの特権、大事に使わなきゃ。

 だってオレは将来、格好良い男になっちゃうからね!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る