051 嫉妬について




 先輩たち顎が落ちたみたい。

 ところでノーラって使い魔の先輩は、真っ白い肌に長い黒髪でとっても美人なお姉さん。黒髪がうねってるんだけど、まるで蛇みたいなんだ。

 カザトリ先輩はおっきな鷲。声が成人男性だけど、人型にはならないのかな。


「そういうことらしいが、あんたたち、抱っこされたいかい?」

「あ、いえ、わたしは」

「わ、わたしも別に」

「そうかい?」


 リア婆ちゃんはニヤニヤ。んもう、悪い顔してる!

 オレはリア婆ちゃんの太腿の上で立ち上がり、ビシッと指差した。


「すなおにならなきゃ、にどとチャンスはこないんだよ!」

「は?」

「な、何を」

「いまなら、だいチャンス! リア婆ちゃんがギュッとしてくれます! ムイちゃんのちゅうも、もれなくつけるよ!」

「いや、それは」

「ちゅう……」


 リア婆ちゃんが笑うからオレは不安定。ゆらゆら揺れるし、もう。

 あ、でも、下半身を押さえてくれた。オレは尻尾も使ってなんとか仁王立ち。


「あのね、ムイちゃんもね、きょうチクッとしたの」

「おや、痛い目に遭ったのかい?」

「むねがチクンとなったの」


 オレは胸を押さえて、続けた。


「フランがね、プルンってかわいい赤ちゃんを抱っこしてつれていったの。ぼうけんしゃのおしごとで、わかれてさがそうって……」


 あの時のことを思い出して、オレは悲しくなった。

 フランがオレじゃなくてプルンを連れていったことに、オレはショックを受けたんだ。


「ムイちゃん、すごくかなしかったの。フランはムイちゃんより赤ちゃんをえらんだんだっておもって」


 リア婆ちゃんは優しくオレの頭を撫でてくれた。黙って話を聞いてくれてる。


「ちがうって、わかってるよ。それに、じゅんいはかんけいないの」

「ムイちゃん、君は……」

「あのね。ムイちゃん、いまはいちばんしたっぱなの。ちいちゃいからね。だからリア婆ちゃんにだいじにされてるみたいにみえるの。でもね、いちばんとかかんけいないんだよ。リア婆ちゃんのつかいまはみーんな、だいじなの」


 そうだよねっ? オレはリア婆ちゃんを見た。ニヤニヤ笑ってたリア婆ちゃんのお顔がふんわり女神様みたいになってる。

 オレは嬉しくなって抱き着いた。


「リア婆ちゃん、だいすきー!」

「そうかい。あたしも、ムイが好きだよ」


 オレは振り返って、ポカンとしてる使い魔先輩二人に言った。


「いまなら、もれなく、すきもいってもらえます!」



 その後、カチンコチンに固まった先輩ふたりをオレは「うんしょ、うんしょ」と一生懸命押して、リア婆ちゃんにポイした。

 リア婆ちゃんは手を広げスタンバイ。自らは動かない魔王様スタイル。さすがです。

 でもね、そこまでいったら、どうしたらいいかは分かるよね?


 オレが背中をポンと押すと、カザトリ先輩はパタタと羽を震わせながらもリア婆ちゃんにダイブ。

 何かもごもご言ってたけど無事、リア婆ちゃんから「好き」をもらえました。


 驚いたのはノーラ先輩で、交代って時にオレが押したら蛇になっちゃった!

 すごい!

 オレ、蛇好き! 脱皮した奴持ってる! お金が貯まりますようにって「破滅の三蛇ガラドス」で作ったお財布に入れてるの。

 あれ、でも同族の革で作ったお財布持ってるのマズイかな……。

 ううん、大丈夫。だってリア婆ちゃんが持ってたお財布だもんね! セーフ!


 それで、ノーラ先輩は小っちゃい蛇になってリア婆ちゃんのお胸を堪能したみたい。「好き」ももらって、酔っ払ったみたいにヘロヘロになってた。

 ふふー。

 嬉しいよね、分かるー。


 あと、オレは有言実行の男なので、ちゃんと先輩ふたりに「ちゅう」します。カザトリ先輩はちょっと嫌がってるけど、こういうのアレでしょ? 嫌よ嫌よも好きのうち。じゃなくて、クーデレ。クールがデレるんだよね。


「もれなくついてくるので、ちゃんとします。ちゅー」

「……こ、この歳になってまさか」

「そんなにいやがったら、こどものムイちゃん、ないちゃうかもだよ」

「泣いてないではないか」

「なけるよ? なく? なく?」

「……泣かなくてもよろしい」

「はーい」

「ムイちゃん? お姉さんにはしてくれないのかしら?」

「するー! ノーラせんぱい、ちゅー!」


 ノーラ先輩は最初はびっくりしてたけど、リア婆ちゃんの抱擁を受けちゃうともうどうでもよくなったみたい。

 オレに対してもすごく優しいの。


「こういうの、いいわね。後輩ってこんなに可愛いものだったなんて」

「いや、この子が特別(おかしいの)では?」

「んん? いまなんかへんだったの」

「わたしは何も言ってない。そうだな? ノーラ」

「ふふ、そういうことにしましょ。ねぇ、ムイちゃん。わたしはあなたを使い魔の後輩として認めるわ。よろしくね?」

「あい!」

「何かあれば言いなさいね。助けるわ」

「ムイちゃんも! ムイちゃんも、せんぱいたちをたすけるの!」

「ふふ、ありがとう」

「だからね、よんばんめについて、リア婆ちゃんにじきそしよー!」

「……あら?」


 オレは有能なのだ。ちゃーんと、兄弟たちの会話を聞いていたのである!

 リア婆ちゃんの四番目の息子がノーラ先輩にちょっかいかけていて、困っているっぽいのだ。

 リア婆ちゃんもそれを聞かされたんだよね?


 チラッと見たら、魔王様スタイルで頷いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る