050 外さない男、先輩再登場




 とにかくプルンにはオレもついてるからね! って宣言したら、感動したプルンにギュッとされた。

 うむ。こういう時は兄貴って呼んでくれていいんだよ。

 前世では姉ちゃんばっかりだった末っ子です。下にきょうだいがいるなんて最高!

 オレは兄の威厳たっぷりに仁王立ち。


「ノイエくんになにかされたら、ムイちゃんがまもってあげるね!」

「プルンはムイちゃーのくまでちゅ!」

「……そこはいぬじゃないの? くまはきらいなんじゃなかった?」

「ちがいまちゅ。プルンよりちたなのがくまでちゅ。ちょのじゅーっとちたが、いぬでちゅね」

「そ、そうなんだ」

「へぇぇ」


 タック先輩、そこは感心するところでは……。

 あと、オレは嫌な予感がします。

 なんたって、うちには持ってる男がいますので。こういう時、必ず外さない男が。

 そう、彼です。尻尾を振った元気な悪魔。


「わぉん!」


 ほらね!

 君なら来ると思ってた! 後ろから使用人さんが慌てて追いかけてきてるぅ!

 あああ、ガゼボの周囲で見張りみたいに立ってたルソーの額に青筋が!


 ルソーが止めに入る、それに対してなんとフェイントを掛けてすり抜けたハスちゃん、ガゼボを急旋回による回避で――。


「わぉんん!!」


 ドーン!!


 来るよね、来たよね、知ってたー!!

 オレはころころころーんって転がって、お花の所に突っ込んだ。タック先輩はかろうじてプルンを助けようとして間に合ったみたい。

 スローモーションみたいに見えた景色で安堵したオレ、そのままフェードアウトしたのだった。




 目が覚めると豪華な天井。お部屋の様子からリスト兄ちゃんのお屋敷内みたい。

 オレがボーッとしてると目の端にリア婆ちゃんが見えた。


「リア婆ちゃーん!」

「おや、起きたね。ああ、急に起きるんじゃないよ」

「ムイちゃん、ころんしちゃった」

「そうらしいね。たんこぶができてたようだよ」

「ふぇ」

「ルソーがすぐに治したそうだ。安心おし。頭に問題はないよ」


 オレが痛みを想像して泣きそうになったからか、リア婆ちゃんは急いで「大丈夫」だって慰めてくれた。

 それで、笑いながら「その後」を話してくれたんだけど。


「ルソーが怒って、犬の躾教室に連れていくって出ていってしまったそうだよ」

「ハスちゃんを?」

「王都で一番厳しい躾教室らしいね。なんていったっけね、お姫さんが飼ってた犬。あれが通った教室だとさ。リストが王城に行って紹介状をもぎ取ってきたそうだよ。ははは」


 そ、それは笑っていいの?

 でもルシでも手こずったハスちゃんのドーン癖、直るのかなあ。

 寂しがってないといいんだけど。


「ま、あれも主好きが高じての興奮だったんだろうよ。あんまり怒ってやるんじゃないよ」

「ムイちゃんおこってないよ?」

「そうかい。それならいいんだ。ああいうのはね、心配でついついやり過ぎちまうんだろう。悪気がないのが始末に負えないがね」


 リア婆ちゃん遠い目してる。心当たりがありすぎる感じ。噂の先輩使い魔さんたちのことかな。

 オレが見てると、リア婆ちゃんが笑った。


「でもま、いい子分だよ。あんたが好きなんだからね」

「うん!」

「あたしの周りにも、あんなのが多いよ」

「リア様、それはひどうございます」

「えっ」


 びっくりして声の方を見たら、カザトリ先輩がいた。あと、もう一人知らない女の人。

 ふわー、すっごく綺麗!!


 窓際にいる二人をジッと観察してると、二人が足音も立てずに近付いてきた!


「リア様、ノーラを連れて参りました」

「リア様、お久しぶりでございます」

「ああ、よく来たね。ノーラ、あんたはあたしに心配を掛けまいと黙って耐えていたそうじゃないか」

「いえ、耐えては」

「そうですよ、リア様。ノーラは全く耐えておりませんでした。やり返しておりましたからね」

「うるさいぞ、カザトリ」

「ノーラ、リア様の御前ぞ」

「ハッ。申し訳ございません」


 えっと。オレはいていいのかしら。いいんだよね。リア婆ちゃん、オレを抱っこして離さないし。オレもモリモリのお胸に包まれて幸せだし。えへー。


「ぐっ、何やら口惜しいのですが」

「ノーラ、相手は赤子同然。広い心でな」

「分かってはいるのだが。リア様の胸に抱かれるなど、なんという」

「気持ちは分かるがね」


 なんか、二人ともオレの位置が羨ましいらしい。

 そうだよね。大人になったからって、親に甘えたい気持ちがスッと消えるわけじゃないもんね。むしろ大人になったから、って自分に枷をはめるのかも。

 よし、ここは幼児の特権で我が儘言っちゃおう!

 先輩のために!


「リア婆ちゃん!」

「なんだい?」

「あのねあのね、ムイちゃんはリア婆ちゃんのおむねを、じゅうぶんたんのうしたの!」

「おや」


 リア婆ちゃんが楽しそう。ニヤニヤと魔王様みたいな顔で笑って、オレの次に使い魔二人を見た。二人はビックリ顔。

 ふふふ。オレはみんなに聞こえるようにお願い事を口にした。


「だからね、つぎはせんぱいもだっこしてあげて!」


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