049 幼児組と兄弟組




 その後、オレが慎重にプルンから聞き取り調査をしたところ、あることが判明した。

 ちなみにプルンは男の子だった。

 で、ジャイアントパンダの獣人族になるプルンは、将来とっても大柄になるらしい。そう言われているからか、プルンの中ではもう「強い男」になる未来図が出来上がっているっぽいんだ。

 しかも、格好良い男になる予定なんだって。


 つまり、ノイエ君とは相思相愛。ナンテコッタ!

 でもね「レッサーパンダの奴を監視しろ」って言われて最初は張り切ってたけど、途中で止めようって思ったんだって。格好良い使い魔以外は追い出そうって言ってたノイエ君に「やりたくないでちゅ」って言うつもりだったそう。

 なんて偉いんだろう。

 まあ、その理由がちょっとアレなんだけど。


「ムイちゃー、ちっちゃいでちゅ。おいだちちゃったらかわいちょーでちゅ。よわよわでちゅから、ぺしょんてなっちゃうでちゅね」

「うん……」


 二歳児に弱いから可哀想とか言われる三歳のオレ。

 この世界、可愛いだけじゃダメらしい。

 オレ、もうちょっと本気で鍛えようかな?

 ううう。


「がんばっておっきくなるでちゅ。のちぇてあげまちゅね?」

「うん……」

「くまにゃんかにまけないでちゅよ!」

「そ、そう」

「れっちゃーぱんだちゃんは、なかまでちゅち!」


 でも熊は仲間じゃないのね。分かった、分かったよ。


 オレの方がプルンを守ってあげようと思ったわけだけど、どうやらプルンはオレを守る予定らしい。

 ……ジャイアントパンダめー!!


 ひそかな下剋上を味わいながら、オレたちは一応親交を深めたのだった。




 さて。幼児組が仲良くなっている間に問題の兄弟+関係ないけど見届け人みたいになってるタック先輩たちの方がどうなっていたかというと。


「おはなしはついたでちゅか?」

「語尾がプルンみたいになってるぞ」

「ムイちゃんはながされるいきものなのです」

「……またおかしなことを。ようするに移ったんだな? ま、俺も先輩冒険者の真似をした経験あるから分からないではないよ」

「プルンはせんぱいじゃないの!」

「あ、でもさ、あいつ大熊猫の獣人族らしいぞ。すぐに追い越されるな」

「それとこれとはべつなの。ムイちゃんがとしうえだもん。ムイちゃん、おにいちゃんだからね!」

「冒険者に年齢は関係ないぞ。強さが全てだ」

「ぐにゅ!」


 オレはぺしょんとなった。

 そんなオレの頭をプルンがなでなでしてくるし!

 一緒にコナスまでなでなで……はできてないけど、慰めてくれてるっぽい。ちっちゃい手、届いてないけど可愛いよ。コナスはいい子ね。


 オレとタック先輩がこそこそ話しているのは、兄弟がまだ真剣に会話してるから。

 やっぱり部外者のタック先輩、居心地が悪かったみたい。

 オレたちがガゼボに近付いたらコッソリ抜け出してきたんだ。


「白竜様の息子ってな、あんなだったんだなぁ」

「あんな、だねー」

「宰相様が一番しっかりして見えるけど、たまーに変なこと呟いてるしさ」

「なんて?」

「『尊い母上の使い魔なのだから全員尊い』ってさ」

「あー」

「『特に一番尊いのがムイちゃんだ』つって、真顔で話すんだぜ? 意味分かんないよな」

「ムイちゃん、それはこたえじゅらいの」

「おっ、そうか」


 他にもラウが「おふくろの筋肉は最高だ」と言い出したり、フランが「母さんとこの使い魔は強い奴ばっかりだぞ」とノイエ君に言い聞かせてるとか。

 肝心のノイエ君は、引き取ったプルンについてきちんと育てると約束させられたものの、格好良いについての基準は変えない模様。それはいいんだ。それは。

 だけどね、ノイエ君てば今度は「レッサーパンダのアレを格好良く改造してはどうだろう」とか言い出したみたい。

 その方が「かか様が喜ぶだろう」とか言っちゃってて、もうね、もうね!


「ムイちゃん、まだみてないけど、よんばんめもマザコンってだんげんできる」

「お、俺も同じ意見だ。賭けにならないな!」

「ムイちゃん、マザコンにしゅるいがあるって、はじめてしったの」

「俺も俺も。だけどさ、真面目な顔してあんなに話し合ってるのを見ると、田舎のおふくろに親孝行しとかないとなーって思ったわ」

「そうだよ。おやこーこーしたいときにはおやはなし、なんだからね」

「お、おう……。そっか、すまん。お前、ムイちゃんは親がいなかったんだな」

「いいの。いまはリア婆ちゃんがおかあちゃまだから」

「おー、そうか。そういや、そこの、プルンだったか。お前も親がいないんだな」

「でちゅ」

「今の親はちょっくら変わってるが、頑張れよ」

「がんばるでちゅ!」

「よし、良い子だな。ちゃんとプルンの処遇について皆が話してくれてるよ。宰相もいるし、ラウ将軍もなんだかんだで手助けしてくれるだろ」

「してくれるかなー?」

「……たぶん」

「まだフランししょーのがマシだとおもうの」

「そ、そうかな。そうか。そうかもな。うん」


 タック先輩はガゼボを見て、空を見て、オレたちを見てから何度も頷いた。ラウが脳筋なのに気付いたんだね。同じ派閥なのに偉い!


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