048 洗脳
引き取ることに関しては大丈夫。リア婆ちゃんはきっとオレのお願いを聞いてくれる。
もしダメでも「五番目が悪いやつでして~」って言えばいけるはず。勝手に連れて帰ってハスちゃんのハウスで匿うより、ずっと確実。
ふんふん!!
オレが仁王立ちで宣言して数秒、黙って聞いていたリスト兄ちゃんが立ち上がった。
そしてオレを抱っこしてテーブルから降ろすと、みんなをゆっくり見回した。すごい偉い人みたい。あ、宰相だった。
「ムイちゃんの言う通りだ。ノイエには任せておけない。母上にお願いしてもいいが、わたしが引き取ってもいいと思っている」
「兄上?」
「兄貴、いいのか」
「兄貴が引き取るのか? どういう風の吹き回しだ」
「宰相んちかー」
みんなワイワイ言い出したところで、オレはノイエ君の横で小さくなってるプルンを見た。ちょっと不安そう。それで何度もノイエ君をチラチラ見上げてる。あれ?
もしかしてだけど、もしかするのかな。
「プルンちゃんは、こんなへんたいのじぶんかってなノイエくんでも、すきだったの?」
「ムイちゃん、すげーこと言うな。っていうか、さっきの根に持ってるんだろ?」
タック先輩の言葉はスルーして、オレはプルンを見た。
プルンはみんなの視線が集まって緊張したみたい。だけど、頑張って言ったんだ。
「プルンはあるじちゃまのとこがいいでちゅ!」
「せんのうされちゃってるんじゃなくて?」
「三歳の幼児が言うことか? なあ、フラン、本当に白竜様のところで何を教えてるんだよ。そっちの方が俺は心配なんだけど」
「コイツはこういう奴なんだって。それを母さんが面白がるから、ルシも止められなくて」
「ムイちゃんは天才児なんだよ。気にしないでくれたまえ」
「そうそう。ところでお前、いい筋肉してるな? うちに欲しいぐらいだ」
「そ、そうっすか? いやぁ、将軍様に褒められるなんて」
「いい仕上がりだ。俺ほどじゃないが、なかなかのもんだよ」
なんか最後の方、怪しい勧誘なのか筋肉自慢の始まりか分からない感じになってて、訳わかんない。
なので、この二人は無視しよう。
「あのね、プルンちゃん。おやはえらべないけどね、ほんとうはえらべるんだよ?」
「でちゅか?」
「そうなの。きらいなひとのところにいなくてもいいからね?」
「……プルン、かなちいときもありゅまちゅ。でも、あるじちゃま、ちゅきでちゅ」
「いいこね、プルンちゃん」
ピルピル震えるプルンが可哀想になってきた。これは保護者を改心させる方が先決!
と思ったら、リスト兄ちゃんも同じこと考えたみたい。
ギロッとノイエ君を睨んでお説教始めた。フランも後押ししてるので、いい兄たちです。
ダメな兄はまだ筋肉自慢してるけど、基本的に悪い人じゃない……たぶん?
オレは心に傷を負ってるかもしれないプルンと二人でお話することにした。
コナスも連れてメイドさんと一緒にお庭を散歩。
「さっき、ノイエくんのことわるくいってごめんね?」
「いいんでちゅ。あいがとでちゅ」
「うん。いいこいいこ」
「……ムイちゃー?」
っていうのは、そう呼んでいいかって意味みたい。オレはすぐに頷いた。
「うん! プルンちゃんはプルンちゃんでいーい?」
「えとでちゅね……」
プルンがもじもじして何か言いたそう。なんだろ。
もしかして「ちゃん」呼びは嫌な感じ? 男の子だとそうかもしれないけど、そう言えばプルンはどっちなんだろ。
あと、種族が何か聞いちゃおうかな。
「どんなよびかたがいいか、いってね!」
「はいでちゅ」
「ちょっと、かんがえる?」
「でちゅ」
「んー、じゃあ、ムイちゃんはレッサーパンダのじゅーじんぞくなんだけど。プルンちゃんは、なにかきいてもいーい?」
「はいでちゅ。プルンはパンダでちゅ! えとでちゅね、おっきーパンダでちゅ」
パンダ。
PANDA。
ジャイアントパンダ。
イエス、それ大熊猫獣人。
「ムイちゃー、どうちたでちゅか」
パンダって人気があって可愛いーってキャーキャー騒がれる、あのパンダ!?
超大きくなっちゃう、愛らしいけど「熊」。
憧れのパンダ、動物園での人気ナンバーワン。その獣人族に会えたのは嬉しい、嬉しいんだけど!
大変!!
だって将来、確実に負けちゃうんだもん。
獣人族になっても、元の獣性が関係しちゃうから身長も体格も違いが出るんだよ。
オレ、こんな可愛い子に将来見下ろされるかもしれない!
てことは、先輩風が吹かせられないー!!
ううう、先輩になりたい人生だった。
ちょっとだけでも味わいたかった。
で、でもいいんだ。だって、まだ友達枠は残ってるはずだもの。
そうだよね!
オレが期待を込めてプルンの「呼び方」が決まるのを待っていると。
「かんがえたでちゅ! プルンは、プルンちゃま、ってよばれたいでちゅ!」
あー、ね。
うん。
オッケー。
この子はどうやらすでに変態ノイエ君の洗脳を受けてしまっているようだった!!
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