047 独擅場




 ノイエ君はやっぱりリア婆ちゃんの五番目の息子だった。

 スーパー赤ちゃんのプルンは、ノイエ君の使い魔。研究のために引き取られた模様。

 ちなみに、四番目はクシアーナというお名前の男性。綺麗なものが大好きな芸術家で、ノーラっていうリア婆ちゃんの使い魔にご執心らしい。ノイエ君はそれも気に入らないんだって。

 ノイエ君は「使い魔とは格好良いもの」と思い込んでて、自分ルールに外れてるのが嫌みたい。


「わがままー」


 思わず口を挟んじゃった。えへ。

 一応誤魔化せるかなって思って、ジュースをごくごく飲んで知らんぷり。

 してみたけど、無理だった。

 フランは苦笑いだし、リスト兄ちゃんはウンウン頷いてる。ラウはニヤニヤ笑ってオレを見てる。最後のニヤニヤは止めて。


「けほんこほん!」

「咳払いのつもりか?」

「だまってて、せんぱい!」


 んもう! 邪魔しちゃダメ。あとツッコミ役がフランと被ってるんだから空気を読んで!


 オレはもう一度ジュースを飲んで、喉を潤した。

 それで「わがままー」って言われて、震えてるノイエ君にビシッとお説教です。


「じぶんのこのみをあいてにおしつけるのはダメだとおもうの。ノイエくんは、かっこいーのがすき。でも、ほかのひともそうしなきゃっておしつけるのは、いくない!」

「……あ、ああ。あ?」

「あとね! すききらいはしゅかんなの。ノイエくんはムイちゃんをかっこいーとおもわないかもだけど、ムイちゃんはかっこいーんだからね?」

「は?」

「ムイちゃん、かっこいーの!」

「ぴゃっ!」


 コナスがテーブルの上でパチパチしてくれた。短いので両手でパチパチしづらいから、ボディをパチパチしてくれてる。ううう、体を張っての応援ありがとう!


「そうだな、ムイちゃんは格好良い」

「リスト兄ちゃん!」

「ゴホン。ムイちゃん、わたしはどうかな?」


 一瞬、リスト兄ちゃんが何を聞いてるのか分からなくてコテンと体が傾きかけたけど、ハッと気付いた。オレは空気が読める男。任せて。


「リスト兄ちゃん、かっこいー!」

「そ、そうか。ふふ、そうか」


 うむ。間違ってなかった。オレは腕を組んで(組めてないけど)何度も頷いた。すると、横でそわそわする男が……。

 うん、そうね。そうだよね。

 オレってば空気が読めちゃうので、ちょっと溜息出つつ応じてあげた。


「フランししょーもかっこいーよ!」

「そうか!」

「あと、タックせんぱいも」

「なんだよ、その『ついで』みたいな言い方は!」

「んーと、たぶん? かっこいー」

「『たぶん』は付けるな!」


 オレたちがワイワイ言い合ってると、向かいにいた脳筋ラウがチラチラと視線を……。

 この兄弟ちょっとおかしくない?

 なんで三歳のオレが空気を読まなきゃいけないんだろ。

 あと、五番目の様子を見てあげて! 今のところ一番おかしいから!


「……し、主観? これが赤子の言うことか? ハッ、そうか! だから、かか様はこんなへちゃむくれを使い魔にした?」


 あの。

 へちゃむくれはないんじゃないかな。オレ、とってもベリーキュートなレッサーパンダの獣人族です。かわゆいお耳とふっさふさの尻尾付きだよ。お顔だって、ちょっぴり平面的だけど可愛いもの。

 オレは前世の記憶を持つ男だからね。客観的にちゃーんと把握できてるよ?

 今の世界のお顔もじっくり観察したからね。それらを総合して導き出した答えは!


「ムイちゃん、へちゃむくれじゃないもん! かわいいもん!」


 ほら! ほらほら!!


 テーブルの上に身を乗り出して、お顔をぐいぐい近付けて見せる。ノイエ君はちょっぴり体を引いたけど、ハッとしてから近寄った。まるで観察するみたいにジロジロ見てくる。

 ふふん。どこから見てくれてもいいんだからね。


「……可愛い、か? だが可愛いのはプルンの方だろう。赤子なのに整った顔付きだ。だからこそ引き取った。将来はきっと格好良くなるはずだと計算してな」


 この男、オレに喧嘩を売ったのだ!

 しかも二重に喧嘩を売ったのである!

 オレは怒ってテーブルの上に飛び乗った。合わせてコナスが抜刀。うむ、いざ出陣!


「ちっちゃいこは、もれなくかわいいの! そうじゃなくてもきずつけちゃダメ! ほごしゃはおやといっしょなんだよ。おやがひとをきずつけることいったら、そのこもおなじになっちゃうんだから!」

「ムイちゃん、コイツが悪かった。だから落ち着いて……」

「フランはだまってて!」

「呼び捨てかよ」

「せんぱいもだまってて!」

「おう」

「あと、こどものまえで、くだらないこというのダメ!」

「ぴゃーっ!」


 仁王立ちのオレとコナス。怒れる姿に皆が黙っちゃった。

 でもね、オレは許せなかったんだよ。だって、引き取った理由がひどいもん。

 プルンは赤ちゃんだ。だけどね、この子はたぶん頭が良いはず。そんな子が、今の話を聞いて理解できてたら、嫌な気持ちになると思うんだ。


 チラッとプルンを見たら、必死で前を向いて震えてる。泣かないぞって顔。傷付いてないって虚勢を張ってるんだ。

 そんなお顔、赤ちゃんにさせていい?


「プルンはかわいくてかっこいくて、とってもかしこい子だからね! でもそんなのなくても、だいじだからね!」

「でちゅか……?」

「そうなの! だからね、そんなかいしょーなしのへんたいノイエくんがいやなら、ムイちゃんがひきとってあげるからね!」

「……幼児が幼児を引き取るのか?」

「いやいや、ムイちゃん」


 タック先輩とフランが何かもごもご言ってるけど、オレは鼻息荒く宣言中なので聞いてなかった。


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