043 変態か変人か何なのか




 今度の聞き込みは上手くいきました。

 なんたって変態男は成人男性みたいで、しかも目立つ格好をしてたんだ。分からないわけないよね。


 出てきた証言をまとめると。


「まっしろいコートにゴーグルかけて、あたまがボサボサ?」

「竜人族でがっちり体型なのに猫背?」

「ブツブツ言いながらメモ取ってたってさ」

「ぴゃー」


 四人(ひとりだけ単位に悩むけど)顔を寄せて話し合う。


 人は見かけじゃないって分かってるけど、それなりに人目は気にするのが普通ってもので。

 こだわらない人というのは、我が道を行くタイプなのかもしれず。

 つまり、これ、変態というよりは変人なのでは? と思ったりするわけです。


「このあたりじゃ見たことない奴だってさ」

「んじゃ、ふりだしにもどる、だね」

「ふりだし?」

「坊主、ムイちゃんの言うことは気にするな。それより、似顔絵を描いてくれたのは助かる」

「あ、うん。近所の姉ちゃんがこういうの得意なんだ。なんか、服を作ってる店で働いてるからだってさ」


 お昼休みで戻ってきてたところに皆が騒いでいたから、協力してくれたらしい。いい人ー。ご近所さん同士の助け合い大事!

 お姉さんには年頃の妹ちゃんがいるから、変態に狙われたら大変って言って描いてくれたんだって。近所に配る分も描くって張り切っているらしいよ。

 オレは「すごいー」と合いの手入れてたんだけど、その絵を見て「あれれ」ってなった。


「どうした、ムイちゃん。知ってる奴なのか?」

「うーん」

「腕、組めてないぞ?」

「それはいいの! もう、じゃましないで!」

「お、おう」

「……おじさんさぁ、もうちょっとコイツにガツンと言ってもいいと思うぞ?」

「おじさんじゃねぇ」


 うるさい二人はほっといて、オレはコナスと一緒にこそこそ相談。

 だってね、もしかしてって思ったんだ。


「コナス、なんかどこかであったきがするんだけど」

「ぴゃ……」

「おもいだして!」

「ぴゃぅ」


 どこだろ。ものすごく最近。あと、思い出したくない感じもする。

 思い出したくないって変じゃない?

 オレ、知らないところで何か嫌な目に遭ったのかしら。


「あ」

「ぴゃ?」

「……ムイちゃん、すごくすごくいやなよかんがします」

「ぴゃぁ?」

「ムイちゃんがさいきん、もうあわなくていいなーっておもったひとが、ひとりいるんだよね」

「ぴゃ」

「それは誰だ?」

「誰だよそいつ」

「ふわぁぁ!!」


 聞いてた!

 オレは驚いて飛び上がって、えっと三センチぐらいだけど、わたわたしてしまった。

 振り返ると、目を細めたタック先輩とオレクがギロリと見てる。


 ううう。これは白状しないとダメなやつだ。

 オレはしょんぼりしながら、正直に話した。


「ラウに、おかおだけにてるの」

「ラウ?」

「リア婆ちゃんのにばんめのむすこ」

「将軍かよ!」

「きんにくムキムキをじまんするために、じょうはんしんはだかになるひとです」


 筋肉の人は何故見せたがるのか。不思議!


「なあなあ、将軍って偉いんじゃなかったの? 偉い人が裸になるのか?」

「オレクはいいこね。でもね、よのなかには、しらなくていいことがあるんだよ」

「よしよし、するな。それと手が全然届かないからって服を引っ張るんじゃねえよ」


 照れなくてもいいのに。

 だけど気持ちは分かる。オレも姉ちゃんたちによく、いいこいいこされたからね。恥ずかしいんだよね。うんうん。


「チビっ子ども、遊んでるんじゃない。それより変態、じゃなくて変人、でもないか。とにかく不審人物がラウ将軍の関係者かもしれないなら、事は慎重に進めないとならない」

「なんで?」

「なんでって、ラウ将軍の関係者だぞ?」

「おじさん、俺も分からないんだけど」

「……」

「冒険者のおっちゃん」

「チッ。あのな、ラウ将軍は誰の息子だ?」

「あ、白竜様か」

「そうだ」


 リア婆ちゃんの息子だったら何か問題なのかな。

 ハッ! 権力者がバックにいると罪に問えないってアレ?

 でもでもリア婆ちゃんはそういう人じゃない。人じゃないっていうか神様みたいな魔王様みたいな感じなんだけど。


「ムイちゃんがまた考え込んでるな。絶対よからぬことだぞ」

「俺もそう思う。おい、おいって。ムイ! ……ムイちゃん!」

「なあに?」

「お前絶対聞こえてただろ!」

「……」

「あー! ムイちゃん! とにかく黙ってないで、考えを言ってみろよ」

「はーい」


 というわけで、オレはさっき考えてたことを華麗に披露。

 そしたら二人にドン引きされちゃった。


「おおおおお前、白竜様相手に遠慮ねえなぁ!」

「信じらんねえ。神様だぞ?」

「フランの奴、こいつをもうちょっと躾けるべきじゃねえのか」

「フラン様も手を焼いてたみたいだぞ」

「えー、あいつが? ていうか白竜様の息子が使い魔に手を焼くのか……」


 ナニソレ。

 変な言い方しないでほしい。


「ムイちゃんはだれのてもやいてないよ! むしろムイちゃんがフランししょーをたすけてるんだから! おてつだいも、フランししょーよりムイちゃんのがずっとやってるもんね!」


 ぶふーっ!


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