042 コナスの活躍と再登場の彼




 寄り道しつつも本題は忘れない、それがオレ、未来の冒険者です。

 というわけで引き続き、依頼の人捜しをしてるんだけど、時間が経てば経つほど難しくなるわけで。

 元々、だーれも赤ちゃん獣人族見てないからね。

 ふわっと突然現れたんだもん。


 ふわっと突然?


 あれ?

 でも、オレ、ちょっと気になってるんだ。あの子の視線をどこかで感じたの。

 どこだっけ?


「ムイちゃん、安定しないから素直に抱っこされてくれ。なんで腕を前で交差させる必要があるんだ?」

「うでくんでるの。しあんちゅうだから、タックせんぱいはだまってて!」

「組めてないよな?」

「くめてるよ? ほら!」

「ぴゃっ」

「……そ、そうだな。ところで、そこのポケットから顔、顔? 出してる妖精は何してるんだ?」


 何してるって何が? と見下ろせば、コナスがキラキラした目でオレを見ていた。


「コナス、どうしたの?」

「ぴゃぴゃ!」

「うんうん」

「さすが、飼い主だな。妖精が何を言ってるか分かるんだな」

「まかせて!」


 本当はハッキリとは分からないんだけど、大体で伝われば問題ないと思ってるのでセーフ。


「ぴゃぴゃぴゃ!」

「ふんふんふん」

「ぴゃぴゃぴゃっ」

「ふーむ、なの」

「ぴゃー!」

「おー!」


 コナスが自分の剣を掲げて雄叫びを上げたので、オレも一緒になって腕を上げた。


「お、分かったのか。で、何て言ってるんだ?」

「えっと、うんと、そうだ! あっち」

「……お前本当に分かってるのか?」

「あっち!」


 必殺「押し通す」爆裂!

 タック先輩は呆れた顔したけど、すぐにコナスが指差した方へ向かってくれた。


 コナスは剣をあっち、こっちと向けているから結果的に合ってたみたい。なるほど、道を示してたんだね。

 でもどこに向かってるんだろ。これだと来た道を戻ることになりそう。


 と思ってたら、ギルドを素通りした。そのままずんずん進んで到着したのは。


「あ、かじやさん」

「おー、なんだ、ここかよ」


 タック先輩も知ってたみたい。さすが有名な鍛冶屋さん。

 そのお店の前で立ち止まって、オレはコナスに聞いた。


「ここでいいの?」

「ぴゃっ」

「あいさつしたかったの?」

「ぴゃぴゃ」


 体が左右に揺れる。首を横に振る真似だね。うん、可愛い。

 オレはコナスのヘタをなでなでして笑った。


「ぴゃ」

「んーと、もしかしてコナスもひとさがしのおてつだい?」

「ぴゃ!」

「えー。じゃ、じゃ、ヒントがここにあるってこと?」

「ぴゃぴゃ!!」


 すごい! コナスすごくない? 天才!


「ヒント、ヒント、ううん。なんだろー? ムイちゃんも、さっきからひっかかか……」

「噛んでるぞ」

「かか、なの」

「諦めたな」

「ヒントすらだせないタックせんぱいはだまってて! うーんと、えーと」


 オレがウンウン唸ってたら、鍛冶屋さんから見習い少年が出てきた。


「表で何騒いでるんだ、って、お前か」

「ムイちゃんだよ!」

「……分かった。で、何してるんだ?」

「うふー。ひとさがしのいらいをうけたんだよ」

「なんか腹立つ顔するなー。って、人捜し?」

「そうなの。じゅうじんぞくの赤ちゃんがまいごで」

「獣人族の赤ちゃん? そういや、さっき近所のガキが変なこと言ってたな」

「へん?」

「この店を見張ってる子がいたらしいんだ。小さい子だし、変だよなーって話してた」

「ちいさい子」

「あいつの妹と同じぐらいの歳じゃないかって言ってたから、そうだな、お前より少し下かも」

「ムイちゃん」

「はいはい。だから二歳か、もうちょっと小さいぐらいか?」

「あ、その子だとおもう」

「じゃ、親が近くにいなかったか、聞いてみる。待ってろ」

「ありがと、みならいしょーねん!」

「オレクだ! 見習い少年じゃねえよ!」

「ムイちゃんも、ムイちゃんなの!」

「……分かった。ムイだな」

「ムイちゃん!」

「……『ムイちゃん』だな!」

「そうなの! オレク、ありがとー!」


 見習い少年オレクはブツブツ文句を言いながら裏手に走っていった。




 小さい子たちの証言を集めて分かったのは、獣人族の赤ちゃんが鍛冶屋さんを覗いてるのを覗いていた変態さんがいた、という事実だった。


「ひょー! へんたい!!」

「そうだな、変態だな。ていうか、ムイちゃんはどこでそんな言葉を覚えてるんだ。白竜様に限っておかしな教育はしないだろうし、使い魔の先輩たちか?」


 タック先輩が危険な想像を始めたので、オレは慌てて止めた。

 お口をムギュッ。


「ちょ、何するんだ」

「えんざいがうまれるまえに、しまつするの」

「おい!」

「まちがった! えーと、せんぱいのわるぐちはやめて!」

「悪口まだ言ってないからな? 聞いただけだぞ?」


 そこに、オレクが割り込んだ。


「なあ、本当に人捜ししてるの? 赤ちゃんが迷子ってヤバいだろ。ちゃんと話を進めようぜ」


 そうだよ、タック先輩!

 って注意しようとしたら、その前に「お前もだぞ」って顔でオレクに睨まれちゃった。

 オレとタック先輩、しゅん。


「とにかく、変態野郎の服装とか聞いたから。そいつを捜した方がいいかも。もしかしたら誘拐かもしれないんだ。こっちも近所で聞いておくから」


 なんか、オレクの方がちゃんとしてるっぽい。オレとタック先輩はやっぱり、しゅんと肩を落としたのだった。


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