040 警邏隊の詰め所にて
警邏隊の詰め所でも情報はなかった。親からの迷子届けもなければ、不審人物に関する情報も全く。
オレとタック先輩は途方に暮れた。あ、ついでにハスちゃんの迷子届も出しといた。まだ戻ってこないんだもん。まったくもう。
「いちおう、まいごふださげてますので!」
「そうかそうか。分かったよ。首輪はしてると、了解」
「ごめいわくをかけます!」
「……いやいや。それにしても、しっかりした子だね。タック、お前の子か? いつの間に結婚したんだ」
「俺のじゃねえよ。フランのところだ。あ、いや、フランが結婚したわけでもないからな?」
「フラン様の? 結婚してないのに子供を作ったのか? まさか」
「待て待て。そうじゃない。コイツは――」
「ムイちゃんです!」
「……ムイちゃんは白竜様のだよ」
「えっ」
警邏隊の人たちが固まってしまった。
皆さんギギギって感じで恐る恐るオレを見て、ゆっくりと首を傾げた。
なんで。
どういう意味か分からないけど、オレはここで丁寧にご挨拶することにした。
「リア婆ちゃんのつかいま、ムイちゃんです! えっとね、でもまだみならいなの。あとね、ぼうけんしゃもみならいとちゅう?」
「……あ、そうなんだね。へぇぇぇ」
ついでだから仲間も紹介しておこう。
オレはコナスをポケットから取り出した。コナス、すでにポーズを取ってる!
「この子はコナス。ナスのようせいなんだよ!」
「ぴゃっ!」
「ひゃっ!」
何故か同じように叫ぶ警邏隊の人たち。コナスと同じ甲高い声なのが面白い。おじさんたちって普段は太くて低い声なのにね。
「コナス、みんなまねしてよろこんでるよ。よかったね!」
「ぴゃ!」
「喜んでるか? まあいいけど。とりあえず、白竜様のところの子だから覚えておいてくれ。犬も見付けたらギルドに連れてきてくれるか」
「あ、ハスちゃんは、リスト兄ちゃんのおうちでおねがいします!」
「リスト兄ちゃ……って、それ、宰相様のことかぁぁ」
警邏隊の人って固まるの好きだね。また、動きを止めてしまった。
リスト兄ちゃんは怖い人じゃないので、たぶん役職が怖いのかな?
うんうん。そうだよねー!
「わかるー。さいしょうってだけで、すごくえらそうなかんじだもんね!」
「何を言ってるんだお前は」
「でもね、リスト兄ちゃんはこわくないよ! このあいだもね、オレがパンケーキを『あーん』してあげたの。そしたらね、こーんなおかおしてニコニコしてたから! ほんとうはやさしいんだよ」
ふふふ。リスト兄ちゃんのいいところ、教えてあげたよ。そうだ、もっと広めてあげると、人気者になるかも!
「あとねあとね、あごがびょーんってするの。おもしろいでしょ! あっ、あごびょーんはムイちゃんがささえてあげたんだよ」
「おい」
「それでね! リスト兄ちゃんがおとまりのときはムイちゃんといっしょじゃないと、ねられれ、あれ? んーと、ムイちゃんとねんねじゃないと、えーんなんだよ」
噛んじゃったので言い直した。ルシがオレの小さい頃に言ってたんだ。「ムイちゃんは時々えーんってなるねぇ」って。それ以来、ぐずって寝ないことを「えーん」と言うのだ。
ちゃんと伝わったかな?
「えーん……」
「ねんね……」
「あーん……」
「おい、もうそのへんで止めておこう。な? 宰相様が不憫だ……」
んん? どゆこと?
オレは首を横に倒した(倒しすぎると斜めになってコロンってしちゃうから適宜調整なのだ)。
「うん、まあ、よく伝わったと思う。つまりアレだ。なんだったっけ。あー、とにかく、犬は宰相のお屋敷に。頼んだぞ」
警邏隊の人たちはロボットみたいにカクカク頷いて、その場に座り込んでしまった。お仕事大変なんだね。お疲れ様です。
詰め所を出ると、また聞き込み開始。
だけど誰も赤ちゃんのこと知らないって言うんだ。この国は竜人族が多いから、獣人族の赤ちゃんなんて珍しいのに。おかしいなあ。
「似顔絵を描いてもらえばよかったかな……」
「だーれもみてないから、えをみてもわからないとおもう」
「うっ、そうか。ムイちゃん、賢いな」
てゆか、タック先輩がちょっと……。
でもオレは優しい男。目の前でそんなことは言わないよ。慈愛の目で見守るだけです。
「……なんか変なこと考えてるだろ」
「ううん!」
「目付きが変なんだよ」
「カンガエテナイヨ!」
こういう時は言い張るのが一番。オレの必殺技「押し通すー!」なのだ。
それはそうと、まだまだ三歳のオレはちょっぴり疲れてきちゃった。
コナスもポケットの中で静か。覗いたら、萎れてた!!
「たいへん! きゅーけー、きゅーけーをしょもうします!」
「また意味の分からんことを。って、休憩か。そうだな。ちょっと休むか。よし、あそこの屋台でジュース買おう」
「わーい!」
ついでに、萎れたコナスのために新鮮なお水もお願いします!
コナスは食べなくても大丈夫だけど、お水は必要なのだ。
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