039 先輩と人捜しの第一歩




 オレはタックという冒険者と一緒に聞き込みを始めた。

 最初はフランがオレと組むはずだったのに(リア婆ちゃんにオレを任されたのはフランだからね)プルンが嫌がったんだ。

 歩くの疲れちゃったみたい。抱っこするにしても、知らない冒険者より最初に顔を合わせたフランの方がいいって、くっついて離れなくて。

 そしたら、お兄ちゃんのオレが引くしかない。オレは胸を張って、もう一人のパーティー仲間タックと「二人で捜す」って宣言した。ふふん。

 本当はコナスとハスちゃんがいるから大丈夫なんだけど、一応オレはまだ幼児だからね。保護者が必要なのだ。


 不便だけど、保護者がいると安心なのも本当。

 だから二手に分かれて捜すという案も全然オッケー!


 振り返ると、フランはこっちなんて見ないまま通りの向こうに行っちゃった。


「大丈夫か? お前も一緒にあっちと行けば良かったんじゃないか?」

「それだと、とうしょのおねがいのいみがないもん」

「……お、おう。そうだな。子供二人の面倒を同時に見るのは難しいからな」

「そーゆーの、ちゃんとべんきょうしないと、およめちゃんにきらわれるよ?」

「……おう」

「フランはひとりみだから、ダメダメなの」

「俺も独り身だけどな……」

「そうなの。あの、ごめんね?」

「……」


 それからしばらく、オレたちは無言になってしまった。悪いこと言っちゃったのだ。反省。



 よし、気分一新して初依頼を完了させるぞ!

 オレは「ふんっ」とやる気になってフランたちとは反対側の道を進んだ。するとタック先輩が「待て待て」ってオレを止めて、


「闇雲に歩いてもダメだろ? 聞いて回るのが一番だ」


 なんてことを言う。

 でも、実はオレには秘策があるのだ。フフフ。(ふふふ、じゃないよ。フフフなのである!)

 オレは短い人差し指を横に振った。……ちょっぴり中指も立ってたかもしれないけど。


「だいじょうぶ! ハスちゃんがくんくんしてたからね!」

「お、おう」

「ムイちゃんは、じゅーじんぞくなのでくんくんはしなかったの」

「そ、そうか」


 なんて言ったけど、実はオレよりハスちゃんの方が嗅覚は優れてるんだ。ルシが躾をしてて気付いた。聞いた時はまあまあショックだった。それに、前に犯人を追い詰めた時、オレの方が先に見付けたんだもんね。

 それを言ったら、ルシは「嗅覚が優れているのと頭の賢さは比例してるわけじゃないからねぇ」って笑ってた。

 んん。つまり、ハスちゃんは嗅覚は優れていたけど「犯人を追う」という事実について、あの時は理解してなかった模様。うん、そうだったね!


 だ・け・ど!

 今回は違うのだ。

 なんたって、ルシの厳しい躾を受けたんだからね。


「ハスちゃん、でばんだよ!」

「わぉん!」

「……ハスちゃん、めっ。おじちゃんのおしりはくんくんしちゃダメ」


 匂いの上書き禁止!

 オレはハスちゃんを叱って、懇々と諭した。


「さっきの赤ちゃんのにおいをおもいだして、あとをおうんだよ」

「ぉん」

「いいところみせないと!」

「わぉん!」

「ぴゃっ」

「コナスもおうえんしてるって。あとね、がんばったらおいしいのがまってるよ!」

「わぉん!!」


 ハスちゃんは興奮して尻尾を高速で振り回すと、走り出した。リードを持ってたオレ、吹っ飛ばされかけて、慌てたタック先輩に掴まれるという――。


「ハスちゃーん!!」

「わぉーん!!」


 遙か彼方へ行ってしまったのだった。


「……あれ、どうするんだ、おい」

「えと。きっとさがしだしてきてくれると、しんじてます」

「そ、そうかよ。まあ、戻ってくるか。それまでは地道に聞き込みだ」

「あい」


 オレは静かにお返事して、ゆっくりと地面に降ろしてもらった。




 冒険者ギルドを少し離れると公園があって、屋台が出ていた。オレたちはお店の人に聞いてまわった。

 けど、小さな子は見てないって皆が言う。

 あまりに同じ答えで変なんだよね。だって公園には小さな子もいるんだから。そりゃ、赤ちゃんサイズの子は一人でいないけど。赤ちゃんは大人が抱いてる。女の人だと乳母車みたいなのに乗せて歩いてるし。

 そこで、オレはふと気付いた。

 もしかして、そもそも見えてなかったんじゃないかって。

 何故なら聞き込みの途中も、どこから声が聞こえているか分からないって感じで、途中からオレはタック先輩に抱えられていたんだもん。


「タックせんぱい。おろして」

「……なんだ、その先輩って」

「おろしてー」

「分かった分かった」


 降ろしてもらってから、お店の人に聞いてみた。


「ムイちゃんのこと、そこからみえる?」

「うん? チビちゃんのことか。いや、見えないな」

「だよねー!」

「……あっ」


 あ、じゃないんだよ、ワトソン君。ダメだなー、もー。


「屋台の位置からじゃ、小さいのが通っても分からないか。しまったな。公園の親子連れは……。あー、もう帰ってるのも多いか」

「パトロールさんにきくのは?」

「お、そうだな。近くに詰め所があったはずだ。行ってみるか」

「タックせんぱい、だいじょうぶ? ムイちゃん、ふあん」

「……いや、待て待て。俺は上級冒険者だぞ。強い相手なら倒せるんだよ。ただ、人捜しは初めてだからよ」

「ますます、ふあん」

「……大丈夫だ。任せとけ。とりあえず、警邏隊の詰め所へ行くぞ」


 そう言うとオレを急いで抱き上げ、走り出した。


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